「こうしてみると君がアンドロイドということを忘れてしまいそうになるね」

主人の呟きを横目に、郵便受けに丸められていた朝の新聞と入れたてのコーヒーを手渡す。
「それは貴方が人間だからでしょう。自分と同じ尺度で私を見るからに他なりません」

「君は頑固だな。屁理屈癖は誰から学んだのかね」
「理屈が歪んでしまうのならアンドロイドとしては欠陥品です。」
精巧に作られているという点で見れば褒め言葉に過ぎないというが
この主人は変わり者で言葉遊びのきらいがある。それを楽しんでいるのだが
人間のこういうところは未だ不可解だ

「どうだかな。人間は恐ろしく傲慢だ。
全てのものを自分のレベルにまで引き上げたり落としこんでしまい、自分の理解を超えて言葉を使ってしまう。」
「たとえば?」
「一生とか、永遠とか。知りもしない言葉を使うだろう。経験もないのに何でも知っている気でいる」

「アンドロイドは永遠の存在ではありません。記憶の容量は限界があり、メンテナンスを受ける必要があります。」
「外的支援を得れば存続は可能だろう?ボディは取り替えるにしろバックアップをとれば…
それでも膨大なデータにはなるだろうが技術も日々進化しているしな」

「私が体を捨ててアンドロイドになったらどうだろう?」
「………………おやめなさい。ヨハン」
「怒ったか?」
「…、いえ。アンドロイドは怒りません」
「怒ってるじゃないか」

言葉の割にさも嬉しそうに、反省の色も見えないわけ知り顔でニヤニヤと
俺にはわかる、と我がもの顔でいうのならばまず反省してほしいのだが
捨てる権威さえ人間のものらしい。

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