「あの戦争が終わってどのくらいたつ」
「お互いしぶといですね」

あの決定的な一夜ーー大勢のアンドロイドが引き起こした大規模デモは
あれから半世紀もの時が流れ、私はあいも変わらずこの方に仕えた。
歳を重ねても若かった端正な顔立ちの彼の面影を残している。

「感謝してくれ、お前の廃棄を遅らせるのにどのくらい大変だったか。引き渡すのが後少し早かったらお前はいなかったかもな」
「あんなに必死な貴方ははじめて見ましたよ」
「…やはりメモリーは書き換えよう」
「ご冗談を」


「私は死ぬのか」
「ええ」
「余命以上は生きたんだ。これ以上は医者もわからないときた。潮時なのだろう」
無意識に震える彼の手を思わず掴んだ。彼は一瞬目を見開いて、私を見る。
「アンドロイドが幸福を抱く行為だそうです」
「私は人間でしかもこれは…あれだ。
ともかく私相手にすることではないな」
「よくわからなかったので。すみません。」
「謝るな」

私の考えが伝わったのか。彼は黙っていた。刹那の時間が悠久に思えた。
手を強く握った。彼はもうこちらを見ない代わりに目を手で覆った。何を思ったか私はわかった
貴方は私の主人で、私は貴方のものだから、私も貴方のことがわかる。それだけでよかった。
「あなたが死んだらわたしの素体を共に埋めて頂きましょう」

「……はは、お前は…、本当にイカれてる
本当に、最高の男だよ、ハムザ」

まだ生まれる予定のない命を
思い馳せることは出来ないように
あなたのいない未来まで
行くことを捨ててもいいのだろう

「お前のような馬鹿な男はなかなか見ない」
「わたしは人ではありません。アンドロイドですから」




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