「あなたはあまり変わりませんね。あなたと出会ったときのことは昨日のことのように鮮明に記憶しています。」
「時が経つのがはやい……瞬きの間にわたしはどんどん年を取っていにく」
 
年齢のわりに高齢者のようなことを言う主はどこか今日はやけに虚ろだった。
書きかけの絵筆は止まっているし作業を再開する様子もない。
わたしはというと彼に言われて子供のモデルが欲しいといつもの無理難題を突きつけられたため、せめてもと彼の実家の使用人に渡されていた埃被った彼の幼少期のアルバムを開いたのだった。
そこには出会ったときより幼いヨハンの姿がある。出会った頃には既に子供のときを終えて何処か青年らしくもない、そう。もう今の彼が出来上がっていたような気さえする。

「昔思い描いていた未来は半分ほどは叶った気がするな」
「そうですか」
「勿論幸福だったばかりではない。思わぬ形で痛い目をみて学んだことも多かった」

懐かしむように外に目を向けるヨハンはやはりいつもとは少し違和感がある。

「お前は年を取らないからな」
「アンドロイドですから」
「いつかわたしの子供を面倒見る未来があるのかもしれない」

彼は口をつけた紅茶を置いて、アルバムを閉じる。何処からしくない様子にわたしはなにも言わずにいる。

「お前ははわたしの未来へ行ける
わたしがどんな人生を終えるのか、科学が進歩していけばお前はわたしの孫の曾孫も見ることができる。
わたしの行けない未来まで
わたしが連れてってほしいくらいだ」

天気予報は晴れ、いつも通りにくる明日
毎日の繰り返し。そうしたものはいつか終わるのか。
いつかそうした彼のいない未来にわたしはいるのだろうか?


「…そういうことにはまずお相手の女性を見つけてきてから言ってください」
「正論過ぎて言葉もないね」

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