すっかり夜になってしまった。
ここのところずっと雨続きだと言うのにあろうことかヨハンがコーヒーを溢したのは彼のお気に入りのクッションだった。あれがないと絵が進まないといって中々洗わないでいたから思わずよい機会ではあるがいかんせんこんな日でなければ良かったのに。
また明日使えるようにわたしは町のコインランドリーを訪れている。

乾燥を待つ間外に出てコンビニで彼の好きなバニラの匂いのタバコを買う。彼は好んでソフトパックを買う。昔映画で見たタバコ叩いて出す仕草に子供ながらに憧れたのだと言っていたように記憶している。

小雨だが雨はまだ止む気配がない。
ふとバス停をみやると二人の親子連れが目にはいる。もうバスは終わっているのにそこでじっと座っている。

「雨宿りですか?」
そう声を掛けるとハッとしたように顔をあげる女性。艶やかなブロンドだが寒いせいなのか顔がやけに蒼白く見える。少し大きめな男物のマウンテンパーカーがやけにアンバランスな格好だった。

「……ええ、この辺で泊まれるところを探していたのだけれど」

その様子では泊まれるところは見つからなかったのだろうか。少し訳ありのようにも見える
「移動にお困りであれば傘をお貸ししましょう。用事がそろそろ終わるのでわたしは予備の傘で帰ります」
「いえ……また会えるかもわからないのに」
「お帰りは明日ですか?」
「え、ええ。」
「ならあそこのコンビニの店主に預けておいてください。彼とは顔が繋がりますので」
「ありがとうございます。助かります」
「お兄さんありがとう」

隣にいた子供がぺこ、と頭を下げる。小学生くらいだろうか。可愛らしいポニーテールが小雨で少し湿っている。
「当てがあるなら早めに行った方がいい。また一雨きてはいけません。わたしの名はハムザ。」

「私はカーラ。こっちはアリス。
お会いできたら必ずお返しするわ」

礼を言ってその場を後にする二人の背中はなにかもの悲しさを醸していたもののわたしはすぐに踵を返し主人への土産話について考えていた。
もうすぐランドリーの乾燥も終わるだろう。

主はクッションを待ちわびつつ日常の風景のインスピレーションを欲しがっている頃であろうから。

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