「師匠がしんだ」

雨が降っている。今日は彼の絵の師であるカール様の埋葬の日だ。
確か息子がいたはずだがその彼が喪主を勤めるらしい

「私は出てくる。帰ってくるまでに熱い風呂を沸かしておいてくれ。」
「私は待機ですか」
「師匠はアンドロイドに対して否定的ではないが息子の方がわからない。とりあえず今日は私だけでいい」

傘を差し、暗闇にペンライト1つで家屋の前に待ち合わせていたタクシーに乗り込む主人を見送って
彼のいない部屋を茫然と見回す。アンドロイド一体と、男1人の所帯には些か広いその空間も、生活の跡があるこそすれ人のいない静けさが妙に薄寒く映る。
確かあの家にもアンドロイドがいたはずだが、カール様が亡くなったなら彼は廃棄処分されたのだろうか。
荷物を届けにヨハンに連れたって来たときに、美しい窓際で車椅子を押す彼とカール様は本当の家族のようだった。

「新聞によると彼は変異体となったと、……」

変異体とは本当にただのバグなのだろうか。
人みたいに我を忘れて、泣いたり苦しんだりするんだろうか
ヨハンがいない未来を考えたことがなかった。

「私がいなくなったら、ヨハンはどうするだろう」

新しいアンドロイドを買うのだろうか
少しは悲しんだりするのだろうか
人間でない私にはわからなかった。

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