あの日はスランプが続いて何もかもうまくいかなくてイライラしていた。


あの火事が起きたあの日。絵なんか本当はどうでも良かった。下敷きになったハムザを見つけた時、大きなショックを受けた。


今日はぬいぐるみのようにハムザを隣に寝かせている。液体燃料だから充電もない。科学の進歩には驚かされる。
電源をオフにしている彼は勿論寝息も鼓動も聞こえない。

しかし私にとって彼は単なる鉄の塊ではないのだ。ハムザという名前、声、顔立ちに皮肉めいた話し方…何もかもが自分と出会ってからそのままの彼、でもどこか変わっていく姿。自分にとってはそれがハムザの全てだ。
人も互いに影響をしながら生きていく。
不思議なものでこの館には生き物は自分しかない、理解している。それでもこの家に帰るのも目覚めるのも、この家がいいのはハムザがいるからなのだ

「お前はまるで睡眠導入剤だな」
当然、声をかけたところで応答は返って来ない。翌朝のタイマーに則し彼は一定の時間になると起動する。
起動中は点滅する頬のライトも静まり返り、目を覚まさないかのように思える
しかし翌朝彼は自分の布団を剥ぎ取り、朝食の香りをさせて起こしにくるとわかっている、今はそれだけでいい。
それでもここにいることだけがヨハンにとっての事実だ
「これは…私のエゴなのだろう
それでもやっぱり…、君が望んでくれたらいいと思う。我が友」

その日私は夢を見た。私が学生だったときの夢だった。青臭く、夢を語るような少年の姿だった。

ありし日の1日のようなその日の夢にはいるはずのないハムザが出てきて
当たり前にそうしてきたかのように共に机に向かい合って、くだらないやり取りをした
何をするでもない、食事や何気ない会話を交わす程度の
ひどくありふれた日常の夢だった。

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