ー女は剣先より繊細で壊れやすい
弟の亡き母の遺体を見てそう感じた
不用意に力を加えてしまえば、壊れてしまう
煩わしい。
剣と違って磨いたとして、
大事にしたとしてもなんの得にもならない。
女は―、そういうものだった。

だがこの女は壊れない。
世の中の影でたくさんの汚れと罪悪を抱き込んだ女。
華やかな城のメイド長。
王子を世話する使用人。
世を知らないような人形のような装いをしておきながら
血に染まった暗殺者
暗い世界を生きてきた女
しかし本気でこれも壊そうとするなら簡単だ
多少頑丈なのだろうが
この国で自分以上に強いのは、魔法使いを除けば存在しないだろうことを自負している。過大評価でも自意識過剰でもなく。

女はいつもなんてことない顔をするのだ
面白くない。間が抜けているのか、
または考えるのを拒否したいのか。
ドレスはいらない、ランチはしない
装飾品にも目を惹かれないらしい
ただ俺の傍にいる
なんてことはなかった
急くことも煩わすこともしない女
自分はどうでもいい
道具だから、感情はないほうが楽だから

―刹那的に見えたのだ
誰にでも幸せになる権利がある
少なくとも親無き子供達だとしても
俺の目指す国の民ならば
たったひとりの幸せをつくることなくしてどうして、
胸が痛くなる
どうしてもできなかった
いままで彼女を支えてきた全てを傷つけるような気がして
知らない月日を哀れむことは出来ない
ただお前がもう少し、安らかに暮らせたらいいのに
そこにいて、息をして
時間は溶けていく。
苦しみも痛みも引き連れて
ただそこにいる時間だけは
彼女がもう少しだけ息のできる優しい世界になればと思った
護衛として、割りきるには
いつの間にか懐に入れて仕舞いすぎていた


――そうだ、花を
女に似合う花を贈ろう
いつか俺の隣をたつであろう彼女に

仕事中の彼女に目が合えば柔らかに細められる瞳


ああ、そうだ

(なんてなんて)(難しいのか)(なんてことのない、何気ない)(笑顔のほうが何倍も)



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