The ounder of rphan U 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




その夜12時過ぎ、ようやく寮のみんなが寝静まった。
ハリー達3人は「透明マント」を被り、肖像画の裏の穴を這い登った。

先生方ぶつからないようにしながら城を抜けるのは、今夜も一苦労だった。
やっと玄関ホールに辿り着き、樫の扉の閂を外し、蝶番が軋んだ音を立てないよう、そーっと扉を細くあけて、その隙間を通り、
3人は月明かりに照らされた校庭に踏み出した。

「ウン、そうだ」

黒々と広がる草むらを大股で横切りながら、ロンが出し抜けに言った。

「森まで行っても後をつけるものが見つからないかもしれない。
あのクモは森なんかに行かなかったかもしれない。
だいたいそっちの方向に向かって移動していたように見えたことは確かだけど、でも…」

ロンの声がそうであって欲しいというふうにだんだん小さくなっていった。
ハグリッドの小屋に辿り着いた。
真っ暗な窓がいかにももの悲しく寂しかった。
ハリーが入口の戸を開けると、3人の姿を見つけたファングが狂ったように喜んだ。
ウォン、ウォンと太く轟くような声で鳴かれたら、
城中の人間が起きてしまうのではないかと、気が気でなく、
サクヤは急いで暖炉の上の缶から、糖蜜ヌガーを取り出し、ファングに食べさせた―ファングの上下の歯がしっかりくっついた。

ハリーは「透明マント」をハグリッドのテーブルの上に置いた。
真っ暗な森の中では必要がない。

「ファング、おいで。散歩に行くよ」

ハリーは、自分の腿を叩いて合図した。
ファングは喜んで跳び跳ねながら3人について小屋を出て、森の入口までダッシュし、楓の大木の下で脚を上げ、用をたした。

ハリーが杖を取り出し「ルーモス!光よ」と唱えると、
杖の先に小さな明かりが点った。
森の小道にクモの通った跡があるかどうかを探すのに、やっと間に合うぐらいの灯りだ。

「いい考えだ」

ロンが言った。

「僕も点ければいいんだけど、でも、僕のは―爆発したりするかもしれないし…」

「ルーモス、光よ…」

ロンの隣で、サクヤが唱えた。
サクヤはロンを見ると、腕にぴったりくっついた。

「あ、ああ、そっか、
僕は明かりがない、サクヤは暗闇が怖い。
ウン、これがベストだ」

ロンは自分を納得させるようにそう言った。
ハリーはロンの肩をトントンと叩き、草むらを指差した。
はぐれグモが二匹、急いで杖灯りの光を逃れ、木の影に隠れるところだった。

「オーケー」

もう逃れようがないと覚悟したかのように、ロンはサクヤの掴む手の上から自分の手を重ねた。

「いいよ。行こう」

お互いの怖いものをフォローし合うかのように、
まるですごく怖いお化け屋敷に入る格好で、森に入るハリーの後に続いた。
ファングは、木の根や落ち葉をクンクン嗅ぎながら、3人の周りを敏捷に走り回ってついてきた。
クモの群れがザワザワと小道を移動する足取りを、3人はハリーとサクヤの杖の灯りを頼りに追った。
小枝の折れる音、木の葉のこすれ合う音の他に何か聞こえはしないかと、
耳をそばだて、3人は黙って歩き続けた。

約20分ほど歩いたろうか、やがて、木々が一層深々と生い茂り、空の星さえ見えなくなり、
闇の帳りに光を放つのはハリーとサクヤの杖だけになった。
サクヤがロンの腕を掴む力が強くなったのを、ロンは感じた。

その時、クモの群れが小道からそれるのが見えた。
ハリーは立ち止まり、クモがどこへ行くのかを見ようとしたが、杖灯りの小さな輪の外は一寸先も見えない暗闇だった。
こんなに森の奥まで入り込んだことは無かった。
前回森に入った時、「道を外れるなよ」とハグリッドに忠告されたことを、ありありと思い出した。
しかし、ハグリッドは、今や遠く離れたところにいる―たぶんアズカバンの独房に、つくねんと座っているのだろう。
そのハグリッドが、今度はクモの後を追えと言ったのだ。

3人は意を決して、その深い茂みの中を進むことにした。
行く手を木の根や切り株が遮ったが、それさえも見えない暗闇だった。
それから30分は歩いただろう。地面が下り坂になっているのに気がついた。

不意に、ファングが大きく吠える声がこだまし、3人は跳び上がった。

「なんだ?」

ロンは大声をあげ、真っ暗闇を見回し、ハリーの肘をしっかりつかんだ。サクヤもハリーの裾をつかんだ。

「向こうで何かが動いている」

ハリーは息をひそめた。

「シーッ…何か大きいものだ」

耳をすませた。
右の方、少し離れたところで、何か大きなものが、
木立の間をバキバキ折りながら道をつけて進んでくる。

「もうダメだ」

ロンが思わず声を漏らした。

「ハ、ハリー…!」

震える声を必死で抑えつけようとしながら、不自然な声色でサクヤはハリーの名を呼んだ。

「シーッ!君たちの声が聞こえてしまう」

「僕たちの声?」

ロンが上ずった声を出した。

「とっくに聞こえてるよ。ファングの声が!」

恐怖に凍りついて立ちすくみ、ただ待つだけの3人の目玉に、闇が重くのしかかった。
ゴロゴロという奇妙な音がしたかと思うと、急に静かになった。

「何をしているんだろう?」

とハリー。

「飛びかかる準備だろう」

とロン。

「つ、杖…構えなきゃ…」

とサクヤ。
ルーモスで光っている杖を前に構えた。
震えながら、金縛りにあったように、3人は待ち続けた。

「行っちゃったのかな?」

とハリー。

「さあ―」

突然右の方にカッと閃光が走った。
暗闇の中でまぶしい光に、3人は反射的に手をかざして目を覆った。
ファングはキャンキャンと鳴いて逃げようとしたが、荊に絡まってますますキャンキャン鳴いた。

「ハリー!」

ロンが大声で呼んだ。
緊張が取れて、ロンの声の調子が変わった。

「僕たちの車だ!」

「えっ?」

「ほらサクヤも、もう大丈夫だよ!
行こう!」

途端に勇気づいたロンは、サクヤの手を引いて光の方に向かった。
ウィーズリー氏の車だ。誰も乗っていない。
深い茂みに囲まれ、木の枝が屋根のように重なりあう中で、ヘッドライトをギラつかせている。
ロンが口をアングリと開けて近づくと、車はゆっくりと、まるで大きなトルコ石色の犬が、飼い主に挨拶するように擦り寄ってきた。

「こいつ、ずっとここにいたんだ!」

ロンが車の周りを歩きながら嬉しそうに言った。

「ご覧よ。
森の中で野生化しちゃってる…」

サクヤも車のヘッドライトのお陰で震えが止まった。
光源も確保できたので杖を仕舞い、引き続きクモを探し始めたが、
ギラギラする明りから急いで逃げ去ってしまっていた。

「見失っちまったな…。
また探しに行かなくちゃ」

ロンは何も言わなかった。
身動きもしなかった。
ハリーのすぐ後ろ、地面から2,3m上の一点に、目が釘付けになっている。
気がついたサクヤも、みるみる顔から血の気が引いて行った。

ハリーは振り返る間もなかった。
カシャッカシャッと大きな音がしたかと思うと、何か長くて毛むくじゃらなものが、ハリーの体を鷲掴みにして持ち上げた。
ハリーは逆さまに宙吊りになった。
恐怖に囚われ、もがきながらも、ハリーはまた別のカシャッカシャッという音を聞いた。
ロンの足が宙に浮くのが見え、
サクヤのもがく声とファングのウォンウォン鳴き喚いている声が聞こえた。
―次の瞬間、ハリーは暗い木立の中にサーッと運び込まれた。




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