The ounder of rphan U 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ハーマイオニー達が襲われてから、校内の規則が大きく変わった。
門限は夕方6時まで、それまでに各寮に戻らなければならなく、それ以後は決して寮を出てはいけないこと、
授業に行く時は必ず先生が一人引率すること、
トイレに行く時は必ず先生に付き添ってもらうこと、
クィディッチの練習も試合も全て延期、
夕方は一切のクラブ活動は禁止。

サクヤはその話をハリーとロンから聞いた。

「どうしたらいいんだろう?」

ロンがハリーとサクヤの耳元で囁いた。

「ハグリッドが疑われると思うかい?」

「ハグリッドに会って話さなくちゃ」

ハリーは決心した。

「同感。
オレはハグリッドだとは思えない。
けど、オレたちの知らない何かを知っているはずだ。
それを糸口にできると思う。会ってみよう」

サクヤも同意した。

「だけど、マクゴナガルが、
授業の時以外は寮の塔から出るなって――」

「今こそ」

ハリーが一段と声をひそめた。

「パパのあのマントをまた使う時だと思う」

ハリーが父親から受け継いだたった一つの物、それは、
長い銀色に光る「透明マント」だった。
誰にも知られずにこっそり学校を抜け出して、ハグリッドを訪れるのにはそれしかない。
ハリーとロンはその夜、いつもの時間にベッドに入り、
ネビル、ディーン、シェーマスがやっと「秘密の部屋」の討論をやめ、寝静まるのを待った。
それから起き上がり、ローブを着直して「透明マント」を被った。

男子寮の階段を下りると、女子寮への階段の前でサクヤが待っていた。
サクヤはハーマイオニーとの相部屋なので抜け出すのは容易だったらしい。

「行こう」

サクヤもマントに入り、3人でグリフィンドール寮を出た。

「こうして3人で透明マントを被るのは1年生の時以来だね」

ハリーが先導しながら言った。
去年のクリスマスに、「みぞの鏡」の部屋へ行くのに、3人でこっそり寮を抜け出して以来、
3人でマントを被ることはなかった。

「あの時もハーマイオニーはいなかったな」

ロンがつぶやいたが、去年と今回とでは事情が違った。
とても明るい気持ちにはなれない。

「去年は休暇で家に帰ってたけど、今回は…」

暗い、人気のない城の廊下を歩きまわるのは楽しいとはいえなかった。
ハリーは前にも何度か夜、城の中をさまよったことはあったが、
日没後に、こんな込み合っている城を見るのは初めてだった。

先生や監督生、ゴーストなどが二人ずつ組になって、不審な動きは無いかとそこいら中に目を光らせていた。
「透明マント」は3人の物音まで消してはくれない。
得に危なかったのが、ロンが躓いてサクヤにぶつかったときだった。
ほんの数メートル先にスネイプが見張りに立っていた。
うまい具合に、サクヤの「いたっ」という声とスネイプのくしゃみがまったく同時だった。
正面玄関に辿り着き、樫の扉をそっと開けた時、3人はやっとホッとした。

星の輝く明るい夜だった。
ハグリッドの小屋の明かりを目指し、3人は急いだ。
小屋のすぐ前に来た時、初めて3人は「マント」を脱いだ。
戸を叩くと、すぐにハグリッドがバタンと戸を開けた。
真正面にヌッと現れたハグリッドは3人に石弓を突きつけていた。
ボアハウンド犬のファングが後ろの方で吼えたてている。

「おぉ」

ハグリッドは武器を下ろして、3人をまじまじと見た。

「3人ともこんなとこで何しとる?」

「それ、なんのためなの?」

3人は小屋に入りながら石弓を指差した。

「なんでもねぇ…なんでも」

ハグリッドがもごもご言った。

「ただ、もしかすると…うんにゃ…座れや…茶、入れるわい…」

ハグリッドは上の空だった。
やかんから水をこぼして、暖炉の火を危うく消しそうになったり、
どでかい手を神経質に動かした弾みで、ポットをこなごなに割ったりした。

「ハグリッド、大丈夫か?」

サクヤが声をかけた。

「ハルのこと、その…聞いた?」

「あぁ、聞いた。たしかに」

ハグリッドの声の調子が少し変わった。

その間もチラッチラッと不安そうに窓の方を見ている。
それから3人に、たっぷりと熱い湯を入れた大きなマグカップを差し出した。
(ティーバッグを入れ忘れている)
分厚いフルーツケーキを皿に入れている時、戸を叩く大きな音がした。

ハグリッドはフルーツケーキをボロリと取り落とし、ハリーとロンとサクヤはパニックになって顔を見合わせ、
さっと「透明マント」を被って部屋の隅に引っ込んだ。
ハグリッドは3人がちゃんと隠れたことを見極め、石弓を引っつかみ、もう一度バンと戸を開けた。

「こんばんは、ハグリッド」

ダンブルドアだった。
深刻そのものの顔で小屋に入ってきた。
後ろからもう一人、とてもチンケな男が入ってきた。

見知らぬ男は背の低い恰幅のいい体にくしゃくしゃの白髪頭で、悩み事があるような顔をしていた。
奇妙な組み合わせの服装で、細縞のスーツ、真っ赤なネクタイ、黒い長いマントを着て先の尖った紫色のブーツを履いている。
ライムのような黄緑色の山高帽を小脇に抱えていた。

「パパのボスだ!」

ロンがささやいた。

「コーネリウス・ファッジ、魔法省大臣だ!」

ハリーはロンを肘で小突いて黙らせた。

ハグリッドは青ざめて汗をかき始めた。
椅子にドッと座りこみ、ダンブルドアの顔を見、それからコーネリウス・ファッジの顔を見た。

「状況はよくない。ハグリッド」

ファッジはぶっきらぼうに言った。

「すこぶるよくない。
来ざるをえなかった。
マグル出身が4人もやられた。
もう始末に負えん。
本省が何かしなくては」

「俺は、決して」

ハグリッドが、すがるようにダンブルドアを見た。

「ダンブルドア先生様、知ってなさるでしょう。
俺は、決して…」

「コーネリウス、これだけは分かってほしい。
わしはハグリッドに全幅の信頼を置いておる」

ダンブルドアは眉をひそめてファッジを見た。

「しかし、アルバス」

ファッジは言いにくそうだった。

「ハグリッドは不利な前科がある。
魔法省としても、何かしなければならん―学校の理事たちがうるさい」

「コーネリウス、もう一度言う。
ハグリッドを連れて行ったところで、なんの役にも立たんじゃろう」

ダンブルドアの瞳に、これまでハリーが見たことがないような激しい炎が燃えている。

「わしの身にもなってくれ」

ファッジは山高帽をもじもじいじりながら言った。

「プレッシャーをかけられてる。
何か手を打ったという印象を与えないと」

「はっ。それでもあいつ男かよ」

思わずサクヤは毒づいた。

「ハグリッドではないと分かれば、彼はここに戻り、なんの咎めもない。
ハグリッドを連行せねば、どうしても。
わたしにも立ち場というものが―」

「俺を連行?」

ハグリッドは震えていた。

「どこへ?」

「ほんの短い間だけだ」

ファッジはハグリッドと目を合わせずに言った。

「罰ではない。ハグリッド。
むしろ念のためだ。
他の誰かが捕まれば、君は十分な謝罪の上、釈放される…」

「まさかアズカバンじゃ?」

ハグリッドの声がかすれた。
ファッジが答える前に、また激しく戸を叩く音がした。
ダンブルドアが戸を開けた。
今度はハリーが脇腹を小突かれる番だった。
みんなに聞こえるほど大きく息を呑んだからだ。

ルシウス・マルフォイ氏がハグリッドの小屋に大股で入ってきた。
長い黒い旅行マントに身を包み、冷たくほくそ笑んでいる。
ファングが低く唸りだした。

「もう来ていたのか。ファッジ」

マルフォイ氏は「よろしい、よろしい…」と満足げに言った。

「なんの用があるんだ?」

ハグリッドが激しい口調で言った。

「俺の家から出ていけ!」

「威勢がいいね。
言われるまでもない。
君の―あー―これを家と呼ぶのかね?
その中にいるのは私とてまったく本意ではない」

ルシウス・マルフォイはせせら笑いながら狭い丸太小屋を見回した。

「ただ学校に立ち寄っただけなのだが、校長がここだと聞いたものでね」

「それでは、いったいわしになんの用があるというのかね?ルシウス?」

ダンブルドアの言葉は丁寧だったが、あの炎が、ブルーの瞳にまだメラメラと燃えている。

「ひどいことだがね。ダンブルドア」

マルフォイ氏が、長い羊皮紙の巻紙を取り出しながら物憂げに言った。

「しかし理事たちは、あなたが退く時が来たと感じたようだ。
ここに『停職命令』がある―12人の理事が全員署名している。
残念ながら、私ども理事は、あなたが現状を掌握できていないと感じておりましてな。
これまでいったい何回襲われたというのかね?
先日の午後にはまた二人。そうですな?
この調子では、ホグワーツにはマグル出身者は一人もいなくなりますぞ。
それが学校にとってはどんなに恐るべき損失か、我々すべてが承知しておる」

「おぉ、ちょっと待ってくれ、ルシウス」

ファッジが驚愕して言った。

「ダンブルドアが『停職』…ダメダメ…今という時期に、それは絶対困る…」

「校長の任命―それに停職―理事会の決定事項ですぞ。ファッジ」

マルフォイはよどみなく答えた。

「それにダンブルドアは、今回の連続攻撃を食い止められなかったのであるから…」

「ルシウス、待ってくれ。
ダンブルドアでさえ食い止められないなら―」

ファッジは鼻の頭に汗をかいていた。

「つまり、他に誰ができる?」

「それはやってみなければわからん」

マルフォイ氏がニタリと笑った。

「しかし、12人全員が投票で…」

ハグリッドが勢いよく立ちあがり、ぼさぼさの黒髪が天井をこすった。

「そんで、いったいきさまは何人脅した?
何人脅迫して賛成させた?えっ?マルフォイ」

「おぅ、おぅ。
そういう君の気性がそのうち墓穴を掘るぞ、ハグリッド。
アズカバンの看守にはそんなふうに怒鳴らないよう、ご忠告申し上げよう。
あの連中の気に障るだろうからね」

「ダンブルドアをやめさせられるものなら、やってみろ!」

ハグリッドの怒声で、ボアハウンドのファングは寝床のバスケットの中ですくみ上がり、クィンクィン鳴いた。

「そんなことしたら、マグル生まれの者はお終いだ!
この次は『殺し』になる!」

「落ち着くんじゃ。ハグリッド」

ダンブルドアが激しくたしなめた。
そしてルシウス・マルフォイに言った。

「理事たちがわしの退陣を求めるなら、ルシウス、わしはもちろん退こう」

「しかし―」

ファッジが口ごもった。

「だめだ!」

ハグリッドが唸った。
ダンブルドアは明るいブルーの目でルシウス・マルフォイの冷たい灰色の目をじっと見据えたままだった。

「しかし」

ダンブルドアはゆっくりと明確に、その場にいる者が一言も聞きもらさないように言葉を続けた。

「覚えておくがよい。
わしがほんとうにこの学校を離れるのは、
わしに忠実な者が、ここに一人もいなくなったときだけじゃ。
覚えておくがよい。
ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる」

一瞬、ダンブルドアの目が、ハリー達の隠れている片隅にキラリと向けられたと、
ハリーは、ほとんど確実にそう思った。

「あっぱれなご心境で」

マルフォイは頭を下げて敬礼した。

「アルバス、我々は、あなたの―あー―非常に個性的なやり方を懐かしく思うでしょうな。
そして、後任者がその―えー―『殺し』を未然に防ぐのを望むばかりだ」

マルフォイは小屋の戸の方に大股で歩いて行き、戸を開け、ダンブルドアに一礼をして先に送りだした。
ファッジは山高帽をいじりながらハグリッドが先に出るのを待っていたが、
ハグリッドは足を踏ん張り、深呼吸をすると、言葉を選びながら言った。

「誰か何かを見っけたかったら、クモの後を追っかけて行けばええ。
そうすりゃちゃんと糸口がわかる。
俺が言いてえのはそれだけだ」

ファッジはあっけに取られてハグリッドを見つめた。

「よし。今行く」

ハグリッドは厚手木綿のオーバーを着た。
ファッジのあとから外に出るとき、戸口でもう一度立ち止まり、ハグリッドが大声で言った。

「それから、誰か俺のいねえ間、ファングに餌をやってくれ」

戸がバタンと閉まった。
ロンが「透明マント」を脱いだ。

「大変だ」

ロンがかすれ声で言った。

「ダンブルドアはいない。
今夜にも学校を閉鎖した方がいい。
ダンブルドアがいなけりゃ、一日一人は襲われるぜ」

ファングが、閉まった戸を掻きむしりながら、悲しげに鳴き始めた。




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