The ounder of rphan U 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「殺してやる…今夜こそ…」

「、っ…!?」

その夜、サクヤは寝苦しく、
寝返りを何度も打ってようやく眠れたと思ったら、
その声が聞こえてきて目が覚めた。

「腹が減った…獲物はどこだ…」

とても小さな声だったが、確かに聞こえた。
遠くだが、学校内にいる。

サクヤはハーマイオニーを見た。
何も聞こえないハーマイオニーはぐっすり眠っている。

「ハリー…」

声が聞こえるのは今のところ、自分以外にハリーしかいない。
直感的に、ハリーに今すぐ会わなくては、という衝動に駆られたので、
サクヤはベッドを抜け出し、医務室へと急いだ。

「左眼が痛い…。
いつもはこんなに痛まないのに…」

急いで、しかし細心の注意を払って暗い廊下を走った。
幸い先生には見つからなかった。
姿なき声の主も見つけることができなかったが、
何事もなく医務室についた。

中に入り、暗い医務室の中を目を凝らして進む。
窓から差し込む月明かりに照らされ、
ハリーがうなされながら眠っていた。腕が痛むのだろう。

「っ!!」

危うく叫びそうになった口を、サクヤは慌てて押さえた。
なんと、眠っているハリーのそばに、誰かがいる。
それは人間と呼ぶにはあまりにも小さな生き物だった。

その生き物は心配そうな表情で、
海綿でハリーの汗を拭っていた。

「君…、誰?というより、何?
ってか何してるの?
なんでここにいるの?」

その光景から、害を加える生き物ではないと察し、
そっと近寄って尋ねた。

その生き物はテニスボール並みの大きい緑の目を見開き、
サクヤを凝視した。

サクヤも生き物を凝視した。
コウモリのように長い耳、細長い鼻、
古い枕カバーのような服―…ドビーだ。
話に聞いていただけだが、
そんな特徴を聞いていたサクヤは、
他にこんな特徴をもつ者はいないだろうと思った。

「えっと…、君が、ドビー?」

静かな医務室で、サクヤの声が響いた。

ドビーは見開かれた大きな目を、いっそう大きくさせた。

「サクヤ・フェリックス様!」

ドビーは目の大きさに負けないほどの大きな声で叫んだ。

「ああ、ついにお目にかかれた…!
まさかこんなところで、こんな時間に
お目にかかれるとは思いもしませんでした!

それに、ドビーめを存じ上げていた!
このドビー、これほど幸せに感じるのは
初めてでございます!」

「あ、ああ、ありがとう…。
でもごめん、もうちょっと静かにしてくれるかな」

これでは学校中を起こしてしまいかねない。
サクヤはそう言って、ドビーの横に椅子を持ってきて座った。

「いけません、いけません…、
ドビーめなんかと並んで座っては…」

ドビーはすかさず椅子を下り、
地べたに正座した。

「なんで?
いいじゃん、椅子に座りなよ」

椅子をポンポンと叩く。

サクヤはそう言ったことをすぐに後悔した。
ドビーの目がまた大きく見開かれ、涙があふれ出した。

「なんとお優しい!
ハリー・ポッターもサクヤ・フェリックスも、
本当に偉い方は本当にお優しい!
このドビーなんぞに…」
「分かった、分かった!
頼むから大声を出さないでくれ!」

サクヤはなんとかドビーを黙らせ、一息ついた。

「ドビーは、その、まともな扱いを受けてないんだな…。
オレがなんとかできればいいんだけど…。

で?なんでここにいるの?」

「はい、屋敷しもべが
真っ当な扱いを受けることはございません」

ドビーはそう項垂れて、サクヤの質問に答えようとしたが、
ハッと顔を上げると、ベッドの脚に頭をぶつけ始めた。

「またご主人様の悪口を言ってしまった!
ドビーは悪い子!
ドビーは悪い子!」

「ちょ、ちょっと!
そんなことしたら…!」

「サクヤ!?ドビー!?」

ぐらぐら揺れるベッドで寝ていられるほど、
ハリーは鈍感ではなかった。

「ほら、起きちまったじゃねぇか」

ヒィヒィ言って頭を押さえるドビーに、サクヤは毒づいた。

ドビーは目が覚めたハリーを見ると、また涙があふれ出した。

「ハリー・ポッターは学校に戻ってきてしまった。

ドビーめが、ハリー・ポッターになんべんも警告したのに。
あぁ、なぜあなた様はドビーの申し上げたことを
お聞き入れにならなかったのですか?
汽車に乗り遅れた時、なぜお戻りにならなかったのですか?」

ハリーは体を起して、ドビーに詰め寄った。

「なぜここに来たんだい?
それに、どうして僕が汽車に乗り遅れたことを、知ってるの?」

ドビーは唇を震わせていた。

「まさか…」

サクヤも感づいたようだ。

「あれは、君だったのか!
僕とロンがあの柵を通れないようにしたのは君だったんだ」

「その通りでございます」

ドビーが激しく頷くと、耳がパタパタはためいた。

「ドビーめは隠れてハリー・ポッターを待ち構えておりました。
そして入口を塞ぎました。
ですから、ドビーはあとで、
自分の手にアイロンをかけなければなりませんでした―」

ドビーは包帯を巻いた10本の長い指をハリーに見せた。

「―でも、ドビーはそんなことは気にしませんでした。
これでハリー・ポッターは安全だと思ったからです。
ハリー・ポッターが別の方法で学校へ行くなんて、
ドビーめは夢にも思いませんでした!」

ドビーは醜い頭を振りながら、体を前後に揺すった。

「ドビーめはハリー・ポッターがホグワーツに戻ったと聞いたとき、
あんまり驚いたので、ご主人様の夕食を焦がしてしまったのです!
あんなにひどく鞭打たれたのは、初めてでございました…」

ハリーは枕に体を戻して横になった。

「君のせいでロンも僕も退校処分になるところだったんだ」

ハリーは声を荒げた。

「ドビー、僕の骨が生えてこないうちに、とっとと出て行った方がいい。
じゃないと、君を絞め殺してしまうかもしれない」

「ハリー!」

サクヤは咎めるように名前を呼んだ。
しかしドビーは弱々しく微笑んだ。

「ドビーめは殺すという脅しには慣れっこでございます。
お屋敷では1日5回も脅されます」

ドビーは、自分が着ている汚らしい枕カバーの端で鼻をかんだ。
その様子があまりにも哀れで、
ハリーは思わず怒りが潮のように引いていくのを感じた。

「ドビー、どうしてそんな物を着ているの?」

サクヤも同じ気持ちなのだろう、そう尋ねる口調は優しかった。

「これのことでございますか?」

ドビーは着ている枕カバーをつまんで見せた。

「これは、屋敷しもべ妖精が、
奴隷だということを示しているのでございます。
ドビーめはご主人様が衣服をくださったとき、
初めて自由の身になるのでございます。
家族全員がドビーにはソックスの片方さえ
渡さないように気をつけるのでございます。
もし渡せば、ドビーは自由になり、
その屋敷から永久にいなくなってもよいのです」

ドビーは飛び出した目を拭い、
出し抜けにこう言った。

「ハリー・ポッターはどうしても家に帰らなければならない。
ドビーめは考えました。
ドビーのブラッジャーでそうさせることができると―」

「君のブラッジャー?」

ハリーは怒りがまたこみあげてくるのを感じた。

「いったいどういう意味?
君のブラッジャーって?
君が、ブラッジャーで僕を殺そうとしたの?」

「殺すのではありません。
めっそうもない!」

ドビーは驚愕した。

「ドビーめは、ハリー・ポッターの命をお助けしたいのです!
ここに留まるより、大怪我をして
家に送り返される方がよいのでございます!
ドビーめは、ハリー・ポッターが家に送り返される程度に
怪我をするようにしたかったのです!」

「その程度の怪我って言いたいわけ?」

ハリーは怒っていた。

「僕がバラバラになって家に送り返されるように
したかったのは、いったいなぜなのか、話せないの?」

「嗚呼、ハリー・ポッターが、おわかりくださればよいのに!」

ドビーは呻き、またポロポロとボロ枕カバーに涙をこぼした。

「じゃあ、ドビー?」

サクヤが至極優しい口調で口を開いた。

「君の話せる範囲でいいから、
全部ぜんぶ、包み隠さず話してくれないかな」






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