The ounder of rphan U 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




雨はますます激しくなっていた。

タイムアウトを挟んでも、相変わらず狂ったブラッジャーは
ハリーだけを執拗に狙った。
ハリーはそれをかわすべく、
輪を描き、急降下し、螺旋、ジグザグ、回転と飛びまわり、
少しクラクラした。

ハリーの耳元でヒュッという音がして、
またブラッジャーがかすった。
ハリーはくるりと向きを変え、ブラッジャーと反対方向に疾走した。

「バレエの練習かい?ポッター」

ブラッジャーをかわすのに、ハリーが空中で
クルクルとバカげた動きをしているのを見て、
マルフォイが叫んだ。
ハリーは逃げ、ブラッジャーは、そのすぐあとを追跡した。
憎らしいマルフォイの方を睨むように振り返ったハリーは、
そのとき、見た!
金色のスニッチを。
マルフォイの左耳のわずか上の方を漂っている―
マルフォイは、ハリーを笑うのに気をとられて、まだ気づいていない。

スピードを上げてマルフォイの方に飛びたい。
それができない。
マルフォイが上を見てスニッチを見つけてしまうかもしれないから。
辛い一瞬だ。
ハリーは空中で立ち往生した。

「ハリー、危ない!!!」

バシッ!

ほんの一瞬のスキだ。
ブラッジャーがついにハリーを捉え、肘を強打した。
サクヤの叫びも虚しく、腕を折ってしまった。

「ハリー!交代だ!
こっちへ戻ってこい!」

サクヤが箒に跨り、必死に叫んだ。

ハリーはまだ襲ってくるブラッジャーをかわし、
燃えるような腕の痛みでボーッとしながら、
ずぶ濡れの箒の上で、横様に滑った。
使えなくなった右腕をダランとぶら下げ、
片足の膝だけで箒に引っかかっている。

ブラッジャーが再び突進してきた。
今度は頭を狙っている。
ハリーはそれをかわした。
意識が薄れる中で、たった一つのことだけが
脳に焼きついていた―マルフォイのところへ行け。

「ハリー!はやく!!」

僕はもうスニッチを見つけている。
あとは掴むだけ。
サクヤと交代すればまた探すところからやり直しだ。

ハリーはサクヤの方を向き、首を横に振った。

そして雨と痛みですべてが霞む中、
ハリーは、下のほうにチラッチラッと見え隠れする
マルフォイのあざ笑うような顔に向かって急降下した。
ハリーが襲ってくると思ったのだろう―
マルフォイの目が恐怖で大きく見開かれるのが見えた。

「い、いったい―」

マルフォイは息を呑み、ハリーの行く手を避けて疾走した。
ハリーは折れていない方の手を箒から放し、
激しく空を掻いた―指が冷たいスニッチを握り締めるのを感じた。

「と、取った…!!」

サクヤはハリーが確かにスニッチを掴んだのを見た。

ハリーはもはや脚だけで箒を挟み、
気を失うまいと必死にこらえながら、
まっしぐらに地面に向かって落ちていった。

「ハリー!」

サクヤの声がすぐ耳元で聞こえる―
僕は泥の中に突っ込んだんじゃないのか…?
―僕の左手の中にあるのは、確かにスニッチだ…
よかった、勝ったんだ…。
でも、その手をさらに誰かが掴んでる…。

それに、あたたかい…


「やったな、ハリー!」

「サクヤ…」

すべてが限界に達しているハリーは、なんとかそう呟くと、
抱きとめられたサクヤの腕の中で気を失った。



*****


「私に任せなさい」

「だから、嫌だって言ってんだろ!
直接マダム・ポンフリーのとこに行くよ!」

「いいからいいから、私に任せればあっという間さ」


その会話でハリーの意識は引き戻された。
雨が顔を打っている。
ハリーはまだグラウンドでサクヤに抱きかかえられていた。

「あ、ハリー!
大丈夫か?腕、折れてるよな…」

「ですから、私にお任せあれ!」

ロックハートがハリーを受け取ろうとしている。

「やだ!」

サクヤがすかさず引き戻す。
きっとずっとこのかけ引きが続いていたのだろう。
サクヤの顔はうんざりしていた。

「やめてくれ。
よりによってあなたなんて…」

ハリーもロックハートに向かって弱々しくだが唸った。

「ははは、自分の言っていることが分かってないのだ」

ロックハートが笑顔でグイッとハリーを引っ張った。

「ハリー、心配するな。
私が君の腕を治してやろう」

「やめて!
僕、腕をこのままにしておきたい。
かまわないで…」

ハリーが言った。
飛び退こうとしたが、激痛が走った。
すぐそばで聞き覚えのある「カシャッ」という音が聞こえた。

「コリン、こんな写真は撮らないでくれ」

ハリーは大声を上げた。

「横になって、ハリー」

ロックハートがあやすように言った。

「この私が、数え切れないほど使ったことがある
簡単な魔法だからね」

「ま、待て待て!
すぐに医務室へ運ぶべきだって!」

サクヤが慌てて言った。

「先生、そうするべきです」

ウッドが言った。
チームのシーカーが怪我をしているというのに、
ウッドはどうしてもニコニコ顔を隠せないでいる。

「ハリー、ものすごいキャッチだった。
すばらしいの一言だ。
君の自己ベストだ。ウン」

周りに立ち並んだ脚の向こうに、フレッドとジョージが見えた。
狂ったブラッジャーを箱に押し込めようと格闘している。
ブラッジャーはまだがむしゃらに戦っていた。

「みんな、下がって」

ロックハートが翡翠色の袖をたくし上げながら言った。

「やめて―ダメ…」

ハリーが弱々しい声を上げたが、
ロックハートは杖を振り回し、次の瞬間、
それをまっすぐハリーの腕に向けた。

サクヤも魔法をかけている最中に邪魔して
いらない惨事まで引き起こしてしまうのを恐れ、
ごまごまと見守っていた。

奇妙な気持ち悪い感覚が、肩から始まり、
指先までずーっと広がっていった。
まるで腕がぺしゃんこになったような感じがした。
何が起こったのか、ハリーはとても見る気がしなかった。

ハリーは目を閉じ、腕から顔をそむけた。
ハリーの予想した最悪の事態が起こったらしい。
覗き込んだ人たちが息を呑み、
コリン・クリービーが狂ったようにシャッターを切る音で分かる。
中でもサクヤの「う、わ…」という
明らかに引いた声を聞いたのが
一番腕の惨事に現実味を帯びさせた。

腕はもう痛みはしなかった。
しかし、もはやとうてい腕とは思えない感覚だった。

「あっ」

ロックハートの声だ。

「そう。まあね。
時にはこんなことも起こりますね。
でも、要するに、もう骨は折れていない。
それが肝心だ。
それじゃ、ハリー、医務室まで気を付けていきなさい。
サクヤ、彼が歩くのを助けてあげるといい。
―あっ、ウィーズリー君、ミス・グレンジャー、
付き添って行ってくれないかね?
マダム・ポンフリーが、その―少し君を―
あー…―きちんとしてくれるでしょう」

「信じらんね…仮にも教授なのに…。

…ハリー、立てるか?」

サクヤは呆れかえって、
ハリーの左腕を掴んで肩を貸してくれた。

ハリーが立ち上がった時、なんだか身体が傾いているような気がした。
深呼吸して、身体の右半分を見た途端に、ハリーはまた失神しそうになった。

ローブから突き出していたのは、
肌色の分厚いゴムの手袋のようなものだった。
指を動かしてみた。ぴくりとも動かない。
ロックハートはハリーの腕の骨を治したのではない。
骨を抜き取ってしまったのだ。





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