The ounder of rphan U 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




サクヤは相変わらず、
「闇の魔術に対する防衛術」のクラスでは
機嫌が最悪になり、ほとんど完全に授業放棄していた。
が、それをロックハートが気付くはずもなく、
ピクシー小妖精の悲惨な事件以来、
ロックハート先生は教室に生き物を
持ってこなくなった代わりに自分の著書を拾い読みし、
ときには、その中でも劇的な場面を演じてみせた。

現場を再現するとき、たいていハリーを自分の相手役に、
サクヤをヒロイン役に指名した。

ハリーがこれまで無理やり演じさせられた役は、
「おしゃべりの呪い」を解いてもらったトランシルバニアの田舎っぺ、
鼻風邪をひいた雪男、
ロックハートにやっつけられてからレタスしか食べなくなってしまった吸血鬼などだった。

サクヤは毎回、ロックハート曰く、事件に見合った麗しいヒロイン役を強要された。
(「そんな都合よく“美人で可愛くて悲劇的なヒロイン”が事件のたびに現われるかっての!!」)


今日の「闇の魔術に対する防衛術」のクラスでも、
ハリーとサクヤはまたもやみんなの前に引っ張り出され、
狼男と襲われそうになった街一番の娘をそれぞれやらされることになった。
サクヤは危うくキレそうになったが、ハリーに肘でつつかれて我に返った。

今日だけはロックハートを上機嫌にしておかなければならないという、
ちゃんとした理由があったからだ。
そうでなければ、サクヤがキレるのを、ハリーは止めようとは思わないだろう。

「ハリー。大きく吼えて―そう、そう―
そしたらサクヤは恐怖で悲鳴を上げるんだ―うん、いいね、
そしてですね、信じられないかもしれないが、
私は飛び掛かってくる狼男からその子を庇ったんだ―こんなふうに…」

ロックハートはハリーに襲いかかってくるように目配せすると、
サクヤに覆いかぶさるように、いかにも白々しく抱きついた。

「(くっつくな…!
抑えろ…、抑えるんだオレ…!!)」

右ストレートが火を吹かないように必死で自分を落ち着けた。

「そうしてですね―…、
危うくかわして―狼男の一瞬のスキを突いて床に叩きつけた―」

ハリーが床に叩きつけられた。

「―こうして―片手でなんとか押さえつけ―
もう一方の手で杖を喉元に突きつけ―
それから残った力を振り絞って非常に複雑な『異形戻しの術』をかけた―
敵は哀れなうめき声を上げ―ハリー、さあうめいて―もっと高い声で―
そう―毛が抜け落ち、牙は縮み―そいつはヒトの姿に戻った。
簡単だが効果的だ―こうして、その街も、
満月のたびに狼男に襲われる恐怖から救われ、
私を永久に英雄と称えることになったわけです」

ちょうどタイミングよく、終業のベルが鳴った。

「宿題。男子はワガワガの狼男が私に敗北したことについての、
女子は街娘が私に救われたときの気持ちの、詩を書くこと!
書きにくかったらもう一方の詩にしてもよろしい!
もちろん両方を書いても構いませんよ。
一番よく書けた生徒にはサイン入りの『私はマジックだ』を進呈!」

「(なんだその無駄としか言いようがない宿題は!)」

サクヤは終始眉間に皺が入りっぱなしだった。

やがてみんなが教室から出て行きはじめた。
ハリー達は教室の一番後ろに戻り、そこで待機していたロン、ハーマイオニーと一緒になった。

「用意は?」

ハリーが呟いた。

「みんないなくなるまで待つのよ」

ハーマイオニーは神経をピリピリさせていた。

「いいわ…」

ハーマイオニーは紙切れを一枚しっかり握りしめ、
ロックハートのデスクに近づいていった。
サクヤとハリーとロンがすぐあとからついて行った。

「あの―ロックハート先生?」

ハーマイオニーは口ごもった。

「わたし、あの―図書館からこの本を借りたいんです。
参考に読むだけです」

ハーマイオニーは紙を差し出した。
かすかに手が震えている。

「問題は、これが『禁書』の棚にあって、それで、
どなたか先生にサインをいただかないといけないんです―
先生の『グールお化けとのクールな散策』に出てくる、
ゆっくり効く毒薬を理解するのに、きっと役に立つと思います…」

「あぁ、『グールお化けとのクールな散策』ね!」

ロックハートは紙を受け取り、ハーマイオニーにニッコリと笑いかけながら言った。

「私の一番のお気に入りの本と言えるかもしれない。
おもしろかった?」

「はい。先生」

ハーマイオニーが熱を込めて言った。

「ほんとうにすばらしいわ。
先生が最後のグールを、茶漉しで引っ掛けるやり方なんて…」

「そうね、学年の最優秀生をちょっと応援してあげても、
誰も文句は言わないでしょう」

ロックハートはにこやかにそう言うと、とてつもなく大きい孔雀の羽根ペンを取り出した。

「どうです。素敵でしょう?」

ロンとサクヤが盛大な呆れ顔をしたのをどう勘違いしたか、ロックハートはそう言った。

「これは、いつもは本のサイン用なんですがね」

とてつもなく大きい丸文字ですらすらとサインをし、
ロックハートはそれをハーマイオニーに返した。
4人はお礼を言ってから教室を出、急いで廊下を歩いた。

「信じられないよ」

4人でサインを確認しながら、ハリーは言った。

「僕たちが何の本を借りるのか、見もしなかったよ」

「ほんと、あの人の何もかもが信じらんないね」

サクヤが小さく毒づいた。

「そりゃ、あいつ、能無しだもの。どうでもいいけど。
僕たちは欲しいものを手に入れたんだし」

ロンが言った。

「能無しなんかじゃないわ」

図書館に向かって半分走りながら、ハーマイオニーが抗議した。

「君が学年で最優秀の生徒だって、あいつがそう言ったからね…」

図書館の押し殺したような静けさの中で、4人とも声をひそめた。
司書のマダム・ピンスは痩せて怒りっぽい人で、飢えたハゲタカのようだった。

「『最も強力な魔法薬』?」

マダム・ピンスは疑わしげにもう一度聞き返し、許可証をハーマイオニーから受け取ろうとした。
しかし、ハーマイオニーは離さない。

「これ、わたしが持っていてもいいでしょうか?」

息を弾ませ、ハーマイオニーが頼んだ。

「ダメ。
ちゃっちゃと渡せ」

サクヤがサインを取り上げてマダム・ピンスに渡した。

「え、なんでよ、いいじゃない!」

「よくないだろ、
マダム・ピンスも偽物じゃないかって疑ってんだ。
持って帰ったら余計怪しまれるだろ?」

尤もな理由を並べたが、サクヤの本心はもちろん違った。
ロックハートに関わるものを少しでもハーマイオニーに持たせたくなかった。

マダム・ピンスは紙を明かりに透かして見たりして、
偽物なら何がなんでも見破ってやるという雰囲気だった。
しかし検査は無事に通過し、見上げるような書棚の間をツンとして闊歩した。
数分後には大きな黴くさそうな本を持ってきた。
ハーマイオニーが大切そうにそれをカバンに入れ、
4人はあまり慌てた歩き方に見えないよう、
後ろめたそうに見えないよう気をつけながら、その場を離れた。





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