The ounder of rphan U 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




そんな日々が続いたある日の夜、
ついに今までの努力が報われる日が来た。

サクヤの動物もどきが完成したのだ。

「(か、完成…!?)」


その姿は凛々しかった。

綺麗に生えそろった金混じりの茶色い羽毛と、
つやつやな毛並みの後ろ脚、
鋭く射抜くような金目。

「(これは…、ヒッポグリフ?)」

半鳥半馬のその姿は、
サクヤは以前教科書で少し読んだ魔法生物そのものだった。

その大きな翼で羽ばたいてみると、本当に飛べるような気がした。
もっと力強く羽ばたくと、身体が浮き上がった。

「(うおっ…飛べた!!)」

風に乗り、さらに高く高く舞い上がった。

「(箒で飛ぶのと、違う感じで新鮮だな…、
…楽しい!)」

ようやく手に入れた自分自身の動物もどき、
そして、箒以外で空を飛ぶこと。
両方がとても嬉しかった。

しばらく空を旋回して飛びまわっていると、
地上で何か生き物が暴れまわっているのを見つけた。

「(?)」

凝視してみると、狼男がそこら中の木に頭をぶつけたり
自分自身を引っ掻いたりしていた。
全身からは血が滲んでいる。

「(これは…!?
とにかく止めなきゃ!)」

急いで舞い降りて、その姿のままそっと近寄ってみた。

狼男はそれに気付くと威嚇するように大きく唸った。

「(荒れてるな…
なんとかして落ち着かせないと…)」

サクヤはじっと目を見つめて、
刺激しないようにゆっくりと間を詰めていった。

あともう1mとなったとき、
狼男は大きく吠えてサクヤに襲いかかってきた。

「(っ!?)」

瞬発的にかわすことのできなかったサクヤの身体に、
狼男の爪が深く刺さった。
厚い羽毛で大けがは避けられたが、やはりそれでも痛かった。

「(確か、噛まれたらダメなんだよな…)」

サクヤは狼男の特徴を思い出し、牙に注意を払うことにした。

なおも襲いかかってくる狼男。
サクヤは牙だけはかわしたが、体当たりや爪は避けずに受け止めた。
狼男特有の破壊衝動を抑えるためだ。

生身の人間の姿ではどうしようもなかったことが、
動物もどきの姿ではちゃんと向き合える。
そのことを自分自身に証明した。


そうして月が沈むまで、サクヤは耐え続けた。
狼男の身体もサクヤの身体も全身に血が滲んでいたが、
致命的ではなかった。

月が沈むと、自然と狼男は大人しくなっていった。
やがて自我を取り戻し、今まで爪を喰い込ませていたヒッポグリフに気付くと
慌てて爪を仕舞い、姿は人間に戻った。

「(よかった…元に戻った…)」

その姿は病人のようにやつれた顔で、ローブは継ぎはぎだらけだった。

「ヒッポグリフ…。
すまない、そして、ありがとう。
夜中こんなわたしに付き合ってくれたんだね…。
お陰で今夜はいつもよりずいぶんと楽だった。

しかし、この森にヒッポグリフなんていたものだろうか…」

深く辞儀をしてから(それがヒッポグリフへの礼儀だからだ)、
その男は労わるようにサクヤの羽を撫でた。

「脱狼薬をどこかに落としてしまってね…わたしとしたことが。
だから満月の夜は狼男になるしかなかったんだ」

「(やばい…、気が遠くなりそうだ…。
今日は一段と練習を頑張ったし、最近まともに寝れてなかった…。
傷も痛いし…、寝ても、いいか、な…)」

男の肩に頭を置き、サクヤは睡魔に身を委ねた。

「ヒッポグリフ、どうかしたのか…?
うわっ…」

ヒッポグリフの体重を支えきれなくなった男は、地面に倒れてしまった。
さらに意識のないヒッポグリフが倒れこんでくると思い、
身を固くしていたが、自分の上に倒れてきたのは一人の少女だった。

「えっ…」

意識がなくなったことで動物もどきが解け、
サクヤは人の姿に戻ったのだった。

「君は…、ロー、ザ…?」

かつての級友の面影を思い出したが、すぐに違うことに気付く。

「いや、ローザの娘…サクヤか…」


すやすやと眠っているその顔を見て、
その男は柔らかにほほ笑んだ。


「君に会いに来たんだ、サクヤ」




>>To be continued

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