The ounder of rphan U 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




庭先―といっても途轍もなく広い―へ出ると、
そこは森とも呼べるほど、木々が生い茂っていた。

「ここでなら…、
集中して“あの”練習ができるな」

そう呟いて、つねに持ち歩いている黒表紙の本を取り出した。
表紙に書かれている金文字を撫でながら読んだ。

「“動物もどき”…。

もう少しで…、できるんだ…。
できれば、おじいちゃんとおばあちゃんに
見せて、あげたかったな…」

サクヤが意識を集中させると、
周りにかすかな風がとりまいた。

しかし、それ以上は何も起こらず、
サクヤはため息をついて目を開いた。

「よし、もう一回…」

それを何度も繰り返した。夜遅くまで。
次の日は朝早くから、また夜半まで。
その次の日も、明くる日も、一日中庭で試行錯誤練習した。

城へは、寝るときと食事以外、戻らなかった。
食事も、城の中で適当に手軽なものを作って、
外で黒表紙の本を読みながら食べた。


城の中は、恐ろしいほどに静まり返っている。
その中にいるよりは、
鳥のさえずりや遠くに聞こえる汽笛の音がある外の方が、
何倍も居心地が良かった。


必死に動物もどきの練習をするのは、
なにか夢中になれるものが欲しかったからだ。
身体を酷使して、疲れ果てさせ、夜にぐっすり眠るために。
ガランとした城の、無駄に広い寝室では、
静寂に押し潰れそうになった。

少しでも睡眠が浅いと、いつもの悪夢を見た。
決して慣れることのない、重く暗い夢だった。

それから逃れるために、毎日毎日必死に練習した。



しかしどうしても、悪夢はサクヤにとり付いていた。

夢の中では、サクヤはいつも暗く狭い部屋に閉じ込められていた。
出口は天井。
しかしそこから漏れる光は
希望の光などと呼べるようなものとはかけ離れていた。

『出して…ここから…、
誰か、出して…っ!』

そう叫んでみても、声が出ることはなかった。

天井の隙間からは、絶えず悲鳴や叫び声が響いていた。
サクヤは悲鳴を上げている人をどうしても助けたかった。
だが押しても引いても、天井の扉は開かなかった。
いや、きっと力を込めれば開くのだろうが、
サクヤがどんなに力を込めても、腕はちっとも力まなかった。
それがもどかしくて何度も叫ぶが、やはり声は出ない。

「………い…!
あの子…、絶……渡さ……!!」


かろうじて聞き取れる男性の声はまるで断末魔だった。
その声の人物は、なにかを護るかのように叫んでいた。
それに続いて、別の男の声が聞こえた。

「貴様…、殺……
気…喰わ……、………ね…!!!」

「…イン…逃……っ!!」


男が何かを叫んだとき、また他の、今度は女性の声が聞こえた。
しかしその声はすぐに聞こえなくなり、
サクヤが閉じ込められている小部屋に、
なにか生温かい液体が垂れてくるのだった。

『こ…れは…っ』

手に垂れたその液体は、天井から洩れる光に照らされ、
赤黒く鈍く光っていた。

『…っ、』

「てめ……人を殺……何人…!
…は、…許……い…!!
俺…っ、…ロー……っ!
……ぁぁあぁあ…あ…!!!」


間も無くして、もう一人、男性の声も叫び声とともに消えた。
そして滴り落ちてくる赤い液体の量も増えた。

『嫌あああぁあああぁぁああ!!!』

その叫びさえも、声になることはなかった。
泣きたくても、その夢の中では絶対に涙は出なかった。
自分は何もできない、
まるで“赤子”のように無力な存在だった。




「…はっ……はっ…ッ…」

目を覚ますと、そこには誰もいない。
夢の続きのような錯覚にとらわれ、膝を抱えて身体を小さくした。

やっと流すことのできた涙も、
ただ虚しくベッドのシーツにしみを作るだけだった。
拭ってくれる人は誰もいない。




「父さん…ッ、母さん…っ!」






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