The ounder of rphan U 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「なんで…っ、
死んじまうんだよ…ッ!!」

喉の奥にグッと込み上げてくる
何かを必死に抑えながら、
サクヤは止まらない涙を拭った。



その時、なにか、
森の中では聞かないような音がした。

結界が解かれるような、
パキンという音が。


「!」

その音があまりにも大きな音で、
サクヤは驚いて飛び起きた。

そして、続く音は、
ガラスのようなのものが
ガラガラと崩れ落ちていくような音。

「なん、だ…?」

キョロキョロと辺りを見まわすと、
鬱蒼と生い茂った森の木々の向こうに、
今まで見たことがない城の一部と思われる塔の
屋根が突き出していた。

「あんなもの、
あんなところにあったっけ…?」

無性にその城が気になったため、
サクヤは涙を拭って
惹きこまれるように走って行った。



「はっ…っは、っは…、」

なかなか近くに行けない
その城にようやく着くと、
距離感がおかしくなるくらい本当に大きな城だった。

正門と思われる扉は壮大で、
しかしとても古びていた。


サクヤはまるで初めから
そうしようと思っていたかのように、
その扉に手をかけて、開いた。



ドクン.


城の中に足を踏み入れた途端、
自分の心臓と、
この城自体が同時に脈打った。

「ここ…
なんでだ…?
なんか、懐かしい…?」

中は広々としていたが、少し埃っぽかった。

エントランスを通り抜け、少し歩いていくと、
リビングルーム(といっても途轍もなく広いが)
に出た。

そこに置いてある大きな長テーブルの端に、
羊皮紙の古びた手紙とまだ新しい手紙が二巻き、置いてあった。

なんとどちらもサクヤ宛てだ。
サクヤはまず新しい方の手紙を
手に取って読んでみた。





サクヤ。

よくこの城を、この手紙を見つけてくれた。
お前は“誰もが最初に教わる魔法”の答えを見つけたようじゃな。

お前が答えを悟り、あの切り株に近づいたとき、
城を守る結界が破れるように、
言わば“時限魔法”をかけておいたのじゃ。

面と向かって褒めてやることはできないが、
儂らはいつもお前の心にいる。

ほんとうにえらいぞ。よくやった。


この城のことを知りたいのなら、
そこにあるもう一通の手紙を読むといい。
一言一言を、大切に読むのじゃぞ。


…友達を、最愛の人を、
そして自分を大切にすることを
常に忘れるでないぞ。

過去に縛られず、
闇に取り込まれることなく、
お前らしくまっすぐに生きていきなさい。

それが儂らの願いであり、一番の幸せじゃ。
お前にご加護がありますよう。


しがなき老夫婦から、
世界一の魔女へ

愛をこめて。







サクヤは膝を折って蹲った。

「お、じーちゃん…!
おばーちゃ、ん…っ!!」

その目には涸れることを知らない大粒の涙が、
止めどなく流れていた。



「ありがとう…!」




今まで12年間の全ての感謝の気持ちを
その言葉に込めて、サクヤはそう言った。


そして、二通目の手紙を取り上げると、
また泣きそうになった。
宛名はサクヤ。
送り主は…


「父さん、母さん…!」






私たちの大切な娘、サクヤへ。

この手紙を読んでいる貴女は、
いったいいくつになったのかしら。
元気に育っている事を祈ります。

きっともう知っていると思いますが、
私たちフェリックス一族は
貴女を一人残して間もなく滅ぶでしょう。
(これを読んでいるころにはもう…)

あの人…ヴォルデモートは
魔法界に大きな影響を及ぼす私たち一族は
厄介だと考え、滅ぼそうとしています。

そしてそれは半分成功し、
しかし半分は失敗に終わるでしょう。
私たちが、貴女を守るから。

この城は、私たちフェリックス一族の
初代から代々大切に引き継いでいる城です。

ヴォルデモートの手から逃れるために城を出るとき、
近くに住む、古くからの知り合いの
ザンカンという夫妻にこの城の管理を任せました。

今あなたがここにいるということは、
“あの問題”の答えが分かった、ということでしょうね。
私たちはそのことをとても誇りに思うわ。


サクヤ。
貴女の名前を呼んだのは
数えるほどしかないけれど、
私は貴女を生めて本当によかったと思っているわ。

一緒にいられなくてごめんなさい。
そして、生まれてきてくれて、
本当にありがとう。

この言葉を伝えたくて、
この手紙を書きました。


今までも、今も、これからも。
ずっとずっと、
私たちは貴女を見守っています。


あなた自身の思う道が、
きっと最良の道でしょう。


セイン=フェリックス、
ローザ
          より。







そう終わっている手紙の最後に、
二人の手形があった。

左手は大きく、父親セインのものだろう。
サクヤは左手を手紙の上に、
手を合わせるように置いた。

右手は小さく、母親のローザのものだ。
サクヤは自分の手とそれほど大きさが
変わらないその手形の上に、
同じように手を重ねた。


「父さん、母さん…」


二人が微笑んでいるのが脳裏に浮かんだ。

目を閉じると、
二人の間にいる自分に
笑いかけているのが分かった。



心がすうっと
整理されるような気持ちだった。

老夫婦の事件で塞ぎこんでいた心が、
まるで遠い昔のように思えた。
夫妻の死を受け入れる余裕ができたのだ。



「セイン・フェリックス、
ローザ・フェリックス、
それに、ザンカンの
おじいちゃんにおばあちゃん…。

オレは、4人の親を持てた
幸せな奴だな」


誰に向けるでもなく、
サクヤはニッコリ笑った。


目を閉じた時、
爽やかな風が吹き抜けた。

城の中の埃を
飛ばし去るような風が、
本当に吹いていた。


「?」

驚いて目を開けると、
城の中の全てが再生していくようだった。

埃は風に乗って飛んでいき、
朽ちていた木製の家具も
錆びていた真鍮の扉も綺麗になっていく。
蜘蛛の巣や鼠穴もなくなり、

やがて人が住むのに十分なほど、
綺麗に修復された。


「一族の、復興…?」

突然頭に浮かんだ言葉だった。

両親が、城が、そう望んでいるかのように。



サクヤはいろいろな部屋を見て回った。

リビングルーム、ダイニングルーム、
キッチン、寝室、客室…、
どれも広く整っていた。

「すっ、げぇ…」

城中を見て回るだけで疲れてしまった。

「でも…、この造り…、
心なしか、ホグワーツに似てる…?」

城の客間とホグワーツの大広間の位置、
いくつかある寝室と寮の位置、
城自体の建築様式など、似通う点が多々見られた。

「ああ、ホグワーツがここに似てるんだ。
『魔法の創始者』の城、だから」

己の祖先の偉大さを、サクヤは改めて体感した。

城にはたくさんのものがあった。
ホグワーツ図書館に劣らぬほどの蔵書、
スネイプの研究室よりも魔法薬が詰まった倉庫、
パーティーが開けそうなほどのさまざまな食材。

すべてがサクヤを魅了した。




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