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木々がまばらになり、整地された道と合流した燧は、道なりに歩いていた。

「妖精?と一応会話はできたし、悪魔さんとも言葉通じるといいな…」

そんなことを呟いていると、チルノが言った通りの赤い城が見えた。

「本当に赤いな」

近づくと、立派な城にふさわしく門番が立っていた。
緑色のチャイナ服に身を包み、長いオレンジ髪を持つ背の高い女性が門を背にもたれ掛っていた。

「(もしかして中国の人…?
これは言葉、本当に通じないかも…)

あの、すみません…」

燧は恐る恐る話しかけてみた。

「?
どうしました?」

「(日本語だ…!すっごい流暢!!)」

燧が驚いていると、彼女の目線が顔から腕へ移っていった。

「ちょっと!怪我してるじゃないですか!」

血が斑についているシャツは破れ、
腕に巻かれた簡易包帯からは滲み出た血が滴っていた。

「あの、こちらのお城にお医者さんはいますか?」

燧にはもうこれ以上歩ける体力が残っていなかった。
希望の目を向けるが、門番は首を横に振った。

「うちに医者はいません」

「そんな…」

「が、応急処置をして医者の元へ連れていくことはできます」

一瞬は望みを絶たれたが、なんとか助かった、と燧は安堵のため息をついた。

「もう立っていたくない…」

足の感覚がなくなり倒れるその瞬間に、燧は門番に抱き止められた。

「肩を貸しますから、もう少しだけ頑張ってください」

門番の彼女は、心底心配そうに顔をのぞき込んでいだ。

「(ここは本当に『悪魔』の城なのか…?
こんなに優しい人がいるのに)」

肩を担がれ、案内されるがままに赤い城の中へ入ると、
薄く透けた羽を持つメイド数人がこちらに気づきやってきた。

「(羽…?)」

「咲夜さんを呼んできてもらえますか?」

門番がそう伝えると、メイドの一人が城の奥へと飛んでいった。

「え、っと…」

「あ、この子たちは妖精メイド達です。
今咲夜さん…メイド長を呼びましたので、もう少し奥で待ちましょう」

「また、『妖精』…」

幽霊に妖精に、もしかしたら幻想郷という所は本当にとんでもない世界なのかもしれない。
燧はようやくそう思い始めた。

「あ、咲夜さん!」

通された部屋に入ると同時に、後ろから先ほど門番が言っていた人物であろうメイドが入ってきた。

もみあげから小さなおさげを結った銀色の髪に、
青色の綺麗な瞳、凛とした背筋はどこか垢抜けた雰囲気を醸していた。

「…! なんの用?」

「あ!あの、えっと、この子が怪我をしていまして…。
永遠亭へ連れていく前に応急処置でもしてもらえたらと…」

咲夜の睨みに、門番は慌てて答えた。

「?」

燧は目を疑った。
今の今まで綺麗な青の目をしていた咲夜が、こちらを睨んだ時には瞳の色が赤く染まっていたのだ。
この女性も妖精か何かなのだろうか…。

「…いいわ、そこに掛けて」

瞳に見入る燧の目線をはねのけるように目を伏せ、
咲夜は妖精メイドが持ってきた救急箱から消毒液と包帯を取り出した。

「すみません突然…」

燧は別な妖精メイドから差し出された紅茶と茶菓子を一気に食べた。
空腹も限界だったのだ。

「気にしないで」

咲夜が黙々と手当をするのを、門番は覗き込んでいた。

「うっわ痛そう…!
一体どうしたらそんなパックリ…」

「森を迷っていたら、突然木が降ってきて…。
笑い声も聞こえてきて気味が悪かった…」

「妖精のいたずらですか…、
気を緩めすぎていたんですよそれ」

門番は苦笑いして言った。

「あの…妖精とか、幽霊も見ちゃったんだけど…、
それに、ここは悪魔の館だって…。
もしかして、門番さんやメイド長さんも悪魔?」

その燧の問いに、咲夜と門番は顔を見合わせた。
咲夜は小さくため息をつき、門番は吹きだして笑った。

「違いますよ!
私は紅美鈴。ただの門番妖怪です!

こっちは十六夜咲夜さん、人間です」

「妖怪!?」

「?
そうですよ?」

さも当然と言うような美鈴の口ぶりに、
燧はあいている方の手で眉間を掻いた。

「えっと…僕は丞烽院燧って言います…」

名乗ってもらったからには、と燧も名乗るが、いまいち妖怪だとか妖精だとかが信じがたかった。

「じゃあ燧さんと呼びます!」

美鈴がにこっと笑った。

「いたっ!」

傷口に刺さった木のささくれを取る咲夜の手元が狂ったようだった。

「…これ以上は無理ね、あとは医者に診てもらいなさい」

消毒をして包帯を巻きなおした。

「美鈴、あなたが案内しなさい。
私はお嬢様にこの事を報告しておくわ。
門番は誰かに立たせておくから」

「分かりました!
では行って参ります!」

美鈴は元気に答えた。

「い、十六夜さん!
ありがとう!」

早々に立ち去ろうとする咲夜の背に燧が言うが、咲夜は肩越しに一瞥して出て行ってしまった。

「僕、何か気に障ること言ったかな…」

「どうでしょうね、
たまたま機嫌が悪かっただけかもしれません。
立てますか?」

対照的に優しくそう言ってくれる美鈴に、燧は少し安心した。

「ん、少し休んだしお茶ももらったから大丈夫」

「じゃあ行きましょうか」

美鈴に連れられ、燧は「永遠亭」へと向かうことになった。


>>To be continued

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