[> 4
燧は腕を押さえながら息を荒げしばらく走り、後ろを振り返る。
追ってくる気配はない。
「はぁっ…」
一安心し、木に寄りかかり腕の傷をまじまじと見てみた。
「これは痛い…」
傷はぱっくりと口を開け、細かい木のささくれも血と混じっている。
博麗神社に戻ろうか、とも考えたが、来た道も長い。
それに無茶苦茶に走ってしまったために来た道すら分からなくなっていた。
燧は頑張ってもう少し道を進もうと決めた。
幻想郷は心地のいい晴れで、太陽が燦々と燧を照りつける。
昨日から飲まず食わずな燧に、それは酷だった。
フラフラと木々を伝って歩いていたが、ついに動けなくなってしまった。
「(頭痛とめまいはいい。
幸か不幸か瀉血はできたわけだし。
ただそろそろ本当にやばくなってきた…。
いい加減血ィ止まってもらわないと…)」
虚ろに辺りを見回すが、何かいい案を思いつくことはなかった。
ふらっと立ち上がると、燧は黙ってまた歩きだした。
少し行くと、さらさらと水の音がしているのに気が付いた。
「!」
耳を澄ませ水源を探す。
希望が見え小走りに近づくと、大きな湖に出た。
燧は立ち止まることなく水面に走り寄り、バッと湖を覗き込んだ。
澄んでいる。飲めそうだ。
燧は顔をつっこみ喉を鳴らして飲んだ。
「…っふぅ」
ひと息つくと、腕の傷の回りをざっと洗い流した。
スーツの下のシャツを裂き傷口をギュッと縛り付ける。
「っ、つー…!」
燧は身震いした。
傷は熱いはずなのに、どうも寒い。
吐く息が白いことに今やっと気が付いた。
「?」
スーツを着直してあたりを見回す。
なぜこんなに寒いのだろうか?
「あたいが最強!!」
その言葉を最後まで聞く間もなく、あたりは一瞬で氷の世界となった。
「!?」
「…あれ?
おまえ凍ってない!かえる以上か!」
ふと振り返ると、青い小さな子供がこちらを見て驚いていた。
「え?は?」
「かえるより強いのか!!」
「たぶ、ん…」
「あたいと弾幕ごっこしろ!」
「え?」
子供の周りの温度が目に見えて一気に下がる。
また今のような瞬間冷却のようなものをする気なのだろうか。
「凍符『パーフェクトフリーズ』!」
「っ!」
燧は咄嗟に攻撃射程外へ転がり出た。
放射状に広がるそれは、また全てを凍らせた。
「豆腐完璧に凍らせてどうするんだよ!
てか豆腐ここにないし!!」
燧は思わずつっこんだ。
「かえる凍らせる遊びしてたんだよ!お豆腐じゃない!」
意味が分からない、と燧は子供を見つめた。
水色の髪に青い瞳、青地のワンピース、
そして視線を持っていくのが、背に浮く6つの氷の翼…のようなもの。
「お前なんなんだ…」
「?
あたいはチルノだよ!最強なんだ!」
「失礼、人間なの?」
「妖精さまだ!」
「そ、そう…」
やっと人に会えた、と期待した燧だったが、彼女曰く人間ではないらしい。
「でも、言葉は通じるみたいでよかった。
君についていろいろ聞きたいことがあるんだけど、その前に別な質問」
燧はチルノに近づいて、屈んで目線を合わせた。
「このあたりに、病院とかお医者さんはいるかな」
血の付いた手を後ろに隠して尋ねる。
「ないよ!」
「…じゃあ、町とか村とか…人が住んでるようなとこは…?」
「ないよ!」
「………」
ガクッと項垂れた燧を見、チルノはその頭をぼすっと叩いた。
「あっちに赤い城がある!
悪魔の館だけど!」
チルノが指差した先は霧でよく見えなかった。
「悪魔がいるの?」
自称妖精に聞く。
「あたいの方が強いけどね!」
えへん、とばかりに胸を張るチルノ。
「ちょっと行ってみるか…」
燧はチルノが指さした方へ向かってみることにした。
「『弾幕ごっこ』とやらはもういいのだろうか…。
ていうかなんだあの背中の氷…あと周りが一瞬で凍った…」
チルノが見えなくなったころに呟く。
「豆腐…」
( 5/11 )
[前] [次]
[戻る]
[しおりを挟む]