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急いでいたこともあり、紅魔館へあっという間に戻ってきた。
咲夜の案内で、奥へと通される。
燧は彼女についていきながらもキョロキョロと屋敷内を見て回り、
開け放たれた大扉からはとんでもない蔵書のある図書館を見た。
「(何ここ行きたい…!)」
咲夜たちはその図書館のすぐ隣の部屋へと入っていった。
慌てて燧も中へと入ると、そこには天蓋付きベッドに息苦しそうに横たわる紫髪の少女と、
傍らにコウモリのような翼をもつ青髪のもっと小さな少女、
そして右往左往している耳からも小さなコウモリの羽が生えた赤髪の女の子がいた。
「お嬢様、お連れしました」
咲夜がそう言った相手は、青髪の少女だった。
「…へ、その子が…ここの主…?
確か、レミリア・スカーレット…さん」
頼んだわ、とどこか高圧的に永琳に診察をお願いしたレミリアは、
そう間抜けに呟いた燧に振り返った。
「咲夜から聞いてるわ。
あんたが腕切ってうちに手当て求めてやってきたっていう…
名は…何と言ったかしら?」
「あ、…はい!
丞烽院 燧と申します!
この度は応急手当とお医者さんの紹介、ありがとうございました!」
小さな子供と言えどこの館の主だ。
失礼がないように、と燧は頭を下げた。
「いいのよ、ちょうど退屈してたところだし」
「…?」
ニヤリと笑うレミリアに、何とも言えない理由を返された燧は疑問符を浮かべた。
「…はい、これで落ち着くと思うわ」
吸入器や処方薬をベッドサイドの机に置き、永琳はレミリアに言った。
赤髪のコウモリ耳の子はひと安心した顔でベッドに横になっている少女を看ていた。
「ありがとう」
レミリアはそう言ってお代を渡した。
「あ、僕の治療分もまだ払ってなかっ、た…」
思い出し、燧は財布を取り出そうとしたが、おかしい。
「…ない…!?」
必死にポケットを漁るが、どこにもなかった。
「お、落とした…?
どどどどうすれば!?」
身体でも売るか、と考えた燧を永琳は笑い飛ばした。
「財布が見つかるか、お金ができたときでいいわ。
その時に払ってもらえれば十分よ」
「…ありがとうございます、八意先生!」
深く深くお辞儀をし、紅魔館を去る永琳を姿が見えなくなるまで見送った。
*****
「(働き口を探さないとな…)」
なにせ燧は今、幻想郷で家もなければ就職先もない。
重ねてお金もない。
完全なホームレスニートだ。
「ふーん…?」
「おわっ」
考え込んでいた燧の顔を、レミリアが下から覗きこんだ。
レミリアは燧の腰程度しか背丈がない。
「いい髪ね」
手を伸ばして、血のように赤い燧の髪の先をいじった。
「は、はぁ…」
レミリアは羽をパタつかせて燧の周りをぐるっと一周回る。
「(飛べるのか…!)」
内心感動しつつ、品定めをするような目で見るレミリアの言葉を待った。
「あの…」
「いい匂いがする…あなたの血、何型?」
「あ、っと…Bです」
「素敵ね」
会話の先が見えない。
B型のどこがどう素敵に思ったのか燧には分からなかった。
「あ、今更だけど、
私が紅魔館の主、レミリア・スカーレット」
ぐるっと回り込んで燧の目の前に立って少女が思い出したように言った。
「寝てるのが友人のパチュリー・ノーレッジ、
そばで慌ててたのが小悪魔。
あと、咲夜と美鈴ね」
体を起こしていたパチュリーと、それを支える小悪魔が軽く頭を下げた。
その隣に立つ咲夜は目を伏せていて、扉の隣に寄りかかる美鈴はにっこり笑った。
「あ、改めまして、丞烽院 燧です」
「あと私に妹がいるけど…まあもし出遭うようなことがあったら、死にたくなければ逃げなさい」
「? えっと…」
「気が振れているから」
ごくり、と生唾を飲んだ。
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