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「はい、これで大丈夫!
あとこれ、抗生物質と痛み止めね」

永琳のてきぱきとした手際で、処置はすぐに終わった。
燧は飲み薬を受け取った。

「そうだ、帰ったらパチュリー様に何の妖怪か調べてもらいましょうよ!」

美鈴が手をパンと叩いて言う。

「誰?」

「お嬢様のご友人の魔法使いさんです!
ちょっとお身体の弱い方なんですけど…」

そこで美鈴は黙ってしまった。
というより固まっている。

「え?」

燧は驚き、何が起きたのかわからなかった。
振り返っても後ろにいる永琳も鈴仙も動かない。
鳥のさえずりも、風の吹く音さえも聞こえない。

「な、なんなんだよさっきから!
ってかここにきてから!」

どうしたらいいかわからず、
美鈴の目の前で手を振ってみたりつついたりしてみたが、
一向に動く気配もなかった。
瞳孔さえ動かない、本当に固まっているようだ。
永遠亭の中を見回したが、何匹もいる兎もピクリとも動かない。

「なんで世界が止まってるみたいなことになってんの…」

永遠亭を出て、しばらくそのあたりを右往左往していると、
ガサッと竹林が動く音がした。

「!」

「あ、あなた…」

咲夜が息を切らせてそこに立っていた。

「十六夜さん!
なんか変なんだけど!みんな動かない!」

燧が駆け寄り言うと、咲夜は息を整え永遠亭の入り口へと向かった。

「私の能力よ。
時間を止めたの。
でもなぜあなたの時間は止まっていないのかしら…」

咲夜がそう言うと、
時計の針が動くような、カチッという音とともに、
世界の時間が戻ってきた。
鳥のさえずりが聞こえる。

「え?え!?」

「あ、咲夜さん!」

美鈴は何事もなかったように振る舞っている。

「パチュリー様の喘息が、いつもよりひどいの。
永琳に一度診てもらいたくて」

「そう、じゃあ急ぎましょう」

燧は、自分だけが止まっていないのに、自分だけが置いてけぼりだった。

「あ、あの…!」

「今はそんな立ち止まって詳しく話してる時間はないの」

咲夜が突っぱねて言う。

「じゃ、じゃあ走りましょう!」

美鈴が努めて明るく言うと、

「うどんげはお留守番ね」

「お師匠様、気をつけて!」

咲夜、美鈴、永琳、燧の4人で紅魔館への道を急いだ。

「…やっぱり!
燧さんはやっぱり妖怪ですよ!」

「え?」

道すがら、燧の前を行く美鈴が振り返って言った。

「だって、私達の速さに普通についてこられるって、
少なくとも普通の人間ではないです!」

「でも、十六夜さんは…」

聞く限りでは、十六夜咲夜は人間だ。

「まあ、咲夜さんは『普通の』人間ではないですからね」

美鈴の言葉に、燧は先ほど世界が止まったことを思い出した。
一番前を走る咲夜を見ると、この人間離れしたスピードになんの苦の表情も示していない。
確かに一般的な「普通の」人間ではないようだ。




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