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「…ん?
めーちゃんがここにいるってことは、
パソコンの中にはもういないってこと?」

「うん」

「そっか…そっかぁ!」

「?」

なんでそんなに嬉しそうなんだ
って顔だなメイコよ!

「これからメイコの歌の収録は
生でできるね!!」

生録音だよ生録音!
これでもっと自然な、人間的な声で歌ってもらえる!

「はいマスター!」

メイコもそれを理解したみたいで、
めっちゃかわいい笑顔になった。



「でさ、メイコって、
人間になったわけじゃあないんだよね…?」

何気なく聞いた。本当に何気なく。

「…うん」

でも別にさ、それは気にすることないよね。

「あ、そんなことで気を落とす必要なんかないよ?」

そう言って、言葉を続ける。

「同じVOCALOIDなら、分かるかな…。
この子も、VOCALOID…?」

ただの完成度の高いコスプレではなく。

メイコはミクっ子に寄って、そっと触れた。

「…うん、この子も
あたしと同じ、VOCALOID」

ほ、本当に本人だった…!!

その時、ずっと閉じられていた
ミクの目がゆっくりと開かれた。

「っ起きた!よかったー!!
あ、おかしいとこない?
どこか痛いとか、ノイズ入ってるとか、ない?」

ミクっ子だとしても、本物の
VOCALOID・初音ミクだとしても、
心配なワケで。
起き上ったミクの手を思わず握った。


「(あったカイ人…。
まるデ…マスターみタ、イ…)」


「お前はここにいろ。
次に目が覚めた時、お前に笑いかけた奴が、
お前の新しいマスターだ」

あたしを路地裏に連れてきたマスターが、
あたしを段ボールに入れて、
覗き込みながらそう言った。

「マ、マスター!
どういう…っ」

その日初めてマスターとお話出来て、
初めて外に連れ出してもらえた。
それがとても嬉しかったのに。

マスターは悲しそうに微笑んで、
あたしが入った段ボールの蓋を閉じt…


「ッ…」

ミクは急に目を固く瞑り頭を抱えた。


…そう、だよね…。
あんな路地裏に、段ボールに入れられて放置なんて…。
きっと前のマスターさんに捨てられたんだ…。

それも、きっとちゃんとした説明もされないまま。
遠まわしに捨てる、なんて、一番傷つくやり方で。
普通なら、欲しがる人を探して、
ちゃんと安全に渡されるはず。

この子は、私が思ってるよりも…

「ミク、安心して?
ここは寒い思いもしないし、
怖い思いも、寂しい思いも、
しなくてすむとこだよ。

ね、めーちゃん」

「うん」

メイコはそれだけ言って、
しゃがんでミクの頭を撫でた。

「………、」

頭をグッと抱えていた手は、
少し力が抜けたようだ。

ミクがこっちを恐る恐る見た。
綺麗な緑の目と、ばっちり目が合った。

透き通るような、透明な目。
これが本当にVOCALOID?

「マ、マスター…」

気づいたらメイコとミクを
ぺたぺたと触っていた。

苦笑いのめーちゃんと、キョトン顔のミク。
ガン見で、観察した。
否、せざるを得ない。

「(何、この可愛い物体)」

メイコとミクが
そんな事を思ってるとは露知らず。
私は思ったことを口にした。

「何、この可愛い物体」

メイコもミクもめっちゃかわいい。
何この可愛い物体!

「…それはあなたです、マスター」

メイコが小さくつぶやいた。
いやいやいや、そんな
呆れた目もかわいいよメイコ。


それ、と。
さっきから考えてたことを…言わなきゃ。

「ねぇ、ミク、もし…
あなたさえよければさ、
…ここに住まないか?」

ミクが小さく肩を揺らした。

「めーちゃんもいるし、
私は絶対に絶対に、
あなたを捨てたりなんかしない」

私はミクが安心できるように、
できるだけの柔らかい笑顔を向けた。


「私がマスターじゃ…、
 ダメですか…?」





>>To be continued

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