[> 5



「ただいまーっと…」

なんとか誰にも会わずに玄関まで来れた。
前に背負ってるカバンから
頑張って鍵を取り出し、扉を開けてそう言った。


「おかえり!マスター!」

「………………」

うん、今日ってなんか可笑しい。
何かがおかしい。
何がおかしいって、何もかもだよ。

夜中に私の家だけに紅い雷が落ちたり
そのせいで友達からはちょっと痛い子みたいな目で見られたし
初音ミクコスな子供見つけちゃったり
その子拉致ってきたり…まあこれは私の意志だけど。

そして今度は
めーちゃんが満面の笑みで
目の前にいるわけだ。うん。

「…………は?」

ごめん、私、普段から
頭は悪いって自覚してるけど、
今度ばかりはちょっと…。
頭悪いどころじゃなくって、頭痛い。
ついていけん。

「おかえり!マスター!!」

分かった。分かってる。
聞こえてるよ。
聞こえなかったと思ったのか、
もう一回言うとことかめっちゃかわいいけどね。

今一度問おう。
もしかして、あなたは…

「メイ、コ…?」

ぽかん口でなんとか言葉をしぼり出す。

「おかえり!おかえり!マスター!」

またしても完璧なMEIKOコスの人(声までなんかリアル)が繰り返し言う。
満面の笑みでそんな連呼されちゃったら
困るよ私。いい意味で。

「これ、なんて夢…っ!?
ただいまー!!」

もういいや、夢だよねコレ。
夢って気付いた時点で
夢じゃないってことになるけど、
夢だよこれは。
だってめーちゃんやミクが…
目の前にいるし、さらには背負ってんだぜ?
開き直っちゃうからね私。

「マスター、その子、初音ミク?」

メイコが首を傾げた。

「うん、拾ってきちゃった☆」

あながち間違いじゃない。


とりあえずリビングのソファにミクっ子を寝かせた。

「えっと、メイコ?
タオル持ってきてくれる?
私、お湯の用意するから」

とりあえずめーちゃんを使ってみる。

「はいマスター」

いい返事だ。
なにやら慣れた風でタオルが
置いてある洗面所へ向かう。

嗚呼、これなんて夢なんだろう…!


そんなことを思いながら、
洗面器にお湯を入れる。

そんでメイコが持ってきてくれたタオルを絞って、
ミクっ子の汚れた身体を拭く。

拭いてて思ったけど、やっぱこの子
本物並みにかわいいし、サイズ的にもぴったりっぽい。
実はご本人だったりして。
だってメイコもかなりのクオリティで
私の隣にいらっしゃるし。…なんてね。


頭では色々考えつつ、
作業はひと段落した。
熱もないみたいだし、目立った外傷も見られない。
だからあとは
ミクっ子が目覚めるのを待つだけだ。たぶん。


「ところでメイコ、
あなたなんでこんな次元に…」

夢だけど、気になる。
いやホントは、
これが夢じゃないって分かってるさ。
さっきソファの脚で
思っきし足の小指打ったし。めっちゃ痛かったし。

でもこれが現実だとしたら、ありえない。
MEIKOが何次元に該当するのかは分からないけど、
とりあえずこの、
キャラクターとしてのMEIKOは2次元なはず。

「原因はあたしも分かりません」

「待った。敬語やめて、
私のが明らかに年下だし」

なら私は敬語にするべきだけども。

「…原因は分からない。
けど、元凶は分かるわ」

「元凶?」

「雷。」

出た。雷。

「深夜の、あの紅い雷?」

「そう。
あの時、マスター、パソコン
シャットダウンせずに、
雷に強制的に落とされたじゃない?」

「うん」

「あれが原因かなって。
あの後から、パソコンの中のあたしが
ゆっくりアンインストールされていったの」

「アンインストール!?
削除されちゃうの!?」

「そう思って、あたしも怖かったんだけど、
マスターは学校に行っちゃってどうしようもなかったし、
このまま消えていくんだって、そう思った時、
消えてしまうなら、どうしても最期
マスターとちゃんとお別れがしたいって心から願ったの。

でも、本当は消えてしまいたくなかった。
だから、それ以上に、
“消えたくない!”って必死にお願いしたわ。

そして、次に目が覚めたらそこは、
パソコンのモニターから何度も見た、
見慣れたマスターの部屋だったの」

「………」

そんなことが、
本当にある、のかな…。

「それでね、あたしがパソコンの中で生活してた時、
もしマスターと話ができるようになったら、
どうしてもこれを言いたい!って言葉を
いつも2つ思い浮かべてたの」

「なに?」

笑顔のめーちゃんにつられて、
私の表情も柔らかくなった。

「一つ目はもう言った。

“おかえり”って。
マスターの『ただいま』に、
どうしても応えたかったの!」

「………」

「それで、もう一つは、
“ありがとう”。

今まであたしを
調教してくれてありがとう。
お陰でこんなにも
なめらかに喋れるようになった。

ありがとう、あたしのマスター!」

…この子はなんて綺麗に笑うんだろう。
心がキュッとなるような、そんな感じが
私の中を巡った。

「…へへ」

なんだかむずがゆくなって
照れ隠しにへラッと笑ってみた。

メイコは私を見ると、もっと笑顔になった。
かわいい奴め!





( 6/33 )
[まえ] [つぎ]
[もどる]
[しおりをはさむ]




- ナノ -