[> 5



夜が明ける数時間前…
街中が一番静かになる時間帯、
浦風家もまた静寂に包まれていた。

宴会のあと、一人また一人と眠ってしまい、
あの状態のまま皆、雑魚寝していた。

最後に眠った者か他の者か、誰かが灯りを消し、部屋は暗闇に包まれていた。

もぞもぞ、とソファの上の一人が動き、起き上がった。

「………」

きょろきょろと、目的の人物…七華を探す。
机の下に身体を半分入れた状態で、七華は床で深く眠り込んでいた。

「………」

少年は、静かに近寄り、寝転ぶ七華の額に自分の額をそっと当てた。
目を閉じて意識を七華に集中させた。




『あれ…ここは…?』

気が付いたら、私は何もない真っ暗な空間にいた。
“立っている”という感覚も、“浮いている”という感覚もない、不思議なところだった。

これは夢?

『唄風さん、こっち。
ここにリンがいる』

振り向くと、レンがいた。
レンの周りは淡い光を帯びていて、暗闇でも見失うことはなかった。
先導するレンに、私はついていく。
自分の身体を見ると、レンと同じように、少しだけ光っていた。

すごく…SFちっくです…。

目の前のレンが止まったので、私も足を止めた。

『リンはこの鏡の中にいるんだ』

顔を上げると、そこには姿見よりも少し大きめの鏡が自立していた。
鏡もまた淡く光ってる。

レンが鏡の前に立つと、そこに映ったのはレンではなく、
リンだった。

『リンはオレ。
オレはリンであり、レンでもある。
リンはレンであり、オレなんだ…』

謎解きか何かですか?
私はレンの隣に立ってリンを見つめた。
うん、リンだ。
リンの格好をしたレンでも、
レン女体化のレンカでもない。
まごうことなき、リンだ。

『夢の中でしか、意識の中でしか、
オレはリンに会えないんだ。
他の人間に見せるのはこれが初めてだよ』

レンは私を見上げた。
私はそれを鏡越しに見ていた。
リンは私のすぐ隣にいるレンと同じ動きをしている。
そこだけが、これを「鏡」といえることを示していた。

ただ、私にはこれを
「鏡」と判断して納得することは難しかった。

『鏡音、ねぇ…』

『?』

………。

私は近づいて、もっとよく見てみた。
触ってみた。

なぜ、
私がこれを鏡だと認めないのか。
それは、この私自身が、

鏡に映らないからだ。

『それは…違うんじゃないかな…』

私は、レンしか映さない鏡を…、
…グーパンで叩き割った。

『っ!!
何、すんだ…!
この鏡の中じゃないと!
リンに会えないんだって…、
言ったばかりじゃないか!!』

レンは私の胸倉を掴んで、ものすごい形相で睨んだ。
リンがほんとに大好きなんだなぁ…。

『大丈夫だって。
マスターを信じなさいっ!』

胸倉掴まれたまま、私はそれを包むようにしてレンを抱きしめた。

『何を信じろって…リンはもう…』

レンは泣きそうな声で抵抗した。

『…レン、レン』

そう呼んだのは私じゃない。
この声の主は…

『リン!?』

私はそう叫んだレンを解放した。

『あれは鏡じゃなかったんだよ』

粉々に砕け散った欠片を見て、私は言った。


『ただの、ガラスだ』


私はリンに歩み寄り、
ちゃんとそこにいる「リン」の頭を撫でた。


リンとレンを遮る壁は、もうなくなった。



>>To be continued

( 27/33 )
[まえ] [つぎ]
[もどる]
[しおりをはさむ]




- ナノ -