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「歌い手としてもすごいのよ!
…見てみる?マスターの動画」

「はイ」

メイコは七華の部屋にミクを通し、
パソコンの電源を付ける。

「すご、い…!」

VOCALOID有名どころの歌から
知名度の低い曲を、“歌ってみた”で有名にしたり…。
コメントも荒らしが少なく、
マイリスト率も安心できる多さだったり。

「こ、この声…萌えませんか!」

ミクはだんだんと心を開きだし、
メイコとともに、
七華のいわゆる“歌ってみたリスト”で
唄風巡りをしていた。

「この声はかっこよくってお勧めよ」

「何、この可愛い物体…」

「…どう?
歌って人間性を一番よく表すものだって思ってるけど、
マスターの人柄、だいたい分かってきたんじゃない?」

「百聞は一見に如かず、ならぬ、
百見は一聴に如かず、ですね…」

「…うまいわね」

「MEIKO、さん…、あたし、
ここに…住みたいです。
あの人を、マスターと呼びたいです…!」

「そう、じゃあ、“さん”と敬語はいらないわね。
家族になるんだから!」

「メイ、コ…メイコお姉ちゃん!」

「それと、マスター完全に名乗るタイミング逃してるから、
あたしから紹介しておくわね。

あたしたちのマスターの名前は
浦風七華。
オンラインの世界では“唄風”と名乗ってるわ」

「浦風…七華…」



*****



「ただいまー」

「おかえり!マスター!」

っいやぁ、いいね!
「ただいま」に「おかえり」が
返ってくるのって!久々だ!

「あれ、ミクは?」

も、もしかして出てった、とか…ないよね…!?
そしたら探しに行っちゃうかも。
束縛権ないっつーにw

「マスターの部屋よ」

「ななな何、その含み笑い!?」

「まぁまぁ、とりあえず覗いてみて!」

「…?」

自分の部屋を覗くとかどんな体験。

「♪〜」

「?」

どこかで聴き覚えが…。

「もう唄風さんの歌ってみたに
夢中で夢中で…、パソコンの前から離れないの」

「っ!?」

ガバッと扉を開ける。

「ミミミミミミクさん!?
何を聴いてるの!?」

ガクブルと震える私に向かって、
ミクはパァッと満面の笑みを浮かべた。

「あ、おかえりなさい!

…マスター!」

「え、あ…、っ!
ゴメン、聞こえなかったもっかい言って!?」

「おかえりなさい!マスター!」

「もっかい!」

「マスター!マスター!マスター!!」

「きゃーミクありがとぉ!!」

思わず抱きついちゃったよ!
うわーミク柔らけぇ…。

「メイコも一緒に!」

微笑ましげに眺めていたメイコも
巻き込んで一緒にハグを楽しんだ!

「マスター!
おかえり、マスター!」

一番うれしかったのは、
ミクがなめらかに喋っていたこと。

「ただいま!
メイコ、ミク、ただいま!!」

ひとしきり騒ぎ倒した後、
ループ再生状態になっているニコ動の画面が
映っているパソコンが目に入った。

「うん、ところでさ、その…画面さ…、
あと、聴き覚えありまくりなこの声ってさ…ッ!!!」

「うん!マスター、歌じょうずだね!」

「ッなんで知ってんの!?
メイコかっ!?教えたのメイコか!?」

バッとメイコを振り返る。

「だって、マスターの良いとこ悪いとこ、
ミクに全部教えようと思ったら、コレ忘れちゃダメでしょう」

“ダメでしょう”って…!

「くぁぁあぁ…恥ずかしい…!
ってかなんでメイコも知ってんのさ」

「マスターよりも、パソコンの中なら詳しいわよ?
一昨日まであたしの家だったんだもの、あの中」

「は、ははハ歯…」

顔ひきつるって。



「…マスター、」

「ん?
何?ミク」


「ミクを、この家に置いてください」







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