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「じゃあ、学校行ってくるね」

翌日、またいつもの朝がきて、
いつもと違う風景で朝食を摂って、
いつもの制服に袖を通して、
いつもと違う風景に見送られて玄関を出る。

「いってらっしゃい!マスター!」

いつもと違う風景ってのは、
笑顔のめーちゃんと、僅かな微笑みを湛えるミク。

「ウチにあるものはなんでも好きに使っていいからね?
メイコも、ミクも!」

“あれ”の返事は保留ってことになってる。
雰囲気的には、今はお試し期間って感じかな。

「じゃ!」

見送りがあるって…いいなぁ!
何年振りだろ!
たぶん1年ぶりくらいだけど、
とんでもなく懐かしい感じになる!

「うへへ…」

顔が緩みっぱなしの私は、
学校でいじり倒されることとなる…。



*****


「さて、と…」

七華を見送ったメイコとミクは、
玄関に突っ立っていた。

「知りたいでしょ?マスターのこと。
あたしがいろいろ教えたげる!」

メイコはニコニコとミクの手を引いて
リビングのソファに連れてきた。

「はい、では、年長VOCALOID・MEIKOによる
マスター解説をはじめます!」

「はイ」

未だミクは、表情と言葉が固かった。

「まずマスターは、バカです」

「………」

「ただし、愛すべきバカです。
普通、段ボールに入れられた人を
背負って家まで運ばないわ。

その点は、感謝してもいいと思う。


そして次に、優しくってやわらかい、自由人。
このマンションに、一人暮らししてるの。
まあ、今はあたしと二人暮らし、
ミクも一緒に住んでくれるってなら、三人暮らしになれるわ!」

「でも、あノ人は…学生じゃ…」

「そうなのよ!
学生なのに一人で生計成り立たせてるのって、
それなりにすごいことじゃない?

そう、マスターはすごい人なのよ!
バカなのに、すごいのよ!」

メイコの誉めてるのか貶してるのか
よく分からない解説は続く。

「それと…とってもあったかい人よ」

にっこりと、幸せそうに微笑んで、メイコは言った。

「ここまでは、昨日一緒にいて、もう分かってると思うわ」

「(確かに感じた、あったカイ背中…)」

「これは確かな事実。
あたしが自信を持って保証できるわ」

「(あの暖かさが、揺るぎナイものナらば…
…ここに、いたイな…)」

ミクは視線を伏せ、
この家で暮らせた時の幸せな瞬間を思い浮かべた。

「あとは、かなりのVOCALOID好きで、ニコ厨で、」

「………」

「でも、この世界でもオンラインの世界でも、
人望に厚い人」

「それハ、分かる気がします…。
(あの人懐っこさが…所以ジャ…)」

「それにバイトもしてる。

学校に家事にバイトに、自分のオンラインの活動…
ときどきそういうののイベントにも行ったりするのよ。
いつ時間をとってくれてるのか分かんないけど、
それでも、ちゃんとあたしを構ってくれたわ。

本当に、すごい人。

そんな人に拾われて、
マスターにもなってくれるって言ってくれて、
あたしとしては、ミク、あなたは幸せだと思うのよ」

「(そう、なのカな)」





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