The founder of orphan T
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
やがて興奮の波が収まり、ようやくハリーも人の波から解放されてこちらに来た。
「はぁ…はぁ……」
ほぼ酸欠状態だ。
「今夜はよく眠れそうだよ…」
サクヤは、“クィディッチより疲れたんじゃないか”と心配したとか。
「ねぇ、サクヤの弱点って…知ってる?」
ロンは先ほど知った意外な情報について尋ねた。
「あ、おいロン!」
サクヤがロンの口を押さえようと頑張るが、ロンは背が高い。届くわけがない。
「知らない。なに?弱点って」
「な、何でもない!さあ着替えに…ぅあっ」
どうにか言わせまいと、ハリーとロンの間に割って入り、
ハリーを更衣室へ向かわせようとしたサクヤの首を、ロンはそっと撫でたのだ。
「ああ…首、ね」
納得した声を発したハリー。
「納得すんなよ!」
「そ、そんなに気を張らなくても…。
…さ、ハーマイオニーがさっきからずっと君を待ってるし…着替えてきたら?
箒はぼくが返しておくから」
「べっ別にサクヤを待ってるわけじゃないわ!」
「……ハル…」
こころなし悲しそうな顔をしたサクヤを見たハリーは小さく耳打ちをした。
「…サクヤ、よく分かんないけど…
ぼくとロンはこの場にいない方がいい気がするから…任せたよ…?」
「…おう」
サクヤが返事をすると、状況を察したロンもハリーと共に箒置き場へ去っていった。
「ちょっと2人とも!」
ハーマイオニーが止めるが、聞こえないふり。
なんともいえない空気が流れる中、先に口を開いたのはサクヤだった。
「ハル」
「な、なに」
いつもの雰囲気とは違う、サクヤが時々見せる別の顔。
それにハーマイオニーはいつも心拍数を上げられる。
「おいで?」
ハーマイオニーの手をとり、歩き出すサクヤ。
ハーマイオニーの手首を掴んでいる手は、
クィディッチのユニフォームの1つである保護グローブを着けている所為もあってか、いつもの手より大きかった。
ハーマイオニーがそんな事を考えていると、2人は更衣室に着いた。
サクヤに中に促され、ハーマイオニーは初めて更衣室に入った。
「私、更衣室に入るの初めて。
…中はこうなっているのね」
「うん。
…ハル、こっち」
サクヤは中に置いてある長椅子に座り、膝をポンポンと叩いた。
「え?」
「大丈夫、誰も見てないから」
渋るハーマイオニーに優しく言い、微笑む。
「……、」
遠慮気味に膝の上に座ったハーマイオニーの両頬を、サクヤはいきなりつまんだ。
「っ?」
それを上に下に左右に引っぱる。
「いはいいはい!
(痛い痛い!)」
サクヤのこの行動の意味が分からないハーマイオニーは戸惑った。
「…よし!
機嫌直ったか?」
漸く手を放したサクヤが言った。
「…ハルってばずっと眉間に力入ってたろ?」
「…サクヤは何も悪くないわ」
そう、これはハーマイオニーの勝手な嫉妬だ。
今のこの顔を見られたくなくて、ハーマイオニーは隠すようにサクヤを抱きしめた。
「この頃サクヤが遠い気がするの…!
朝は早くからクィディッチの練習、昼休みはウッド達と作戦会議…授業が終われば夜までまた練習…
仕方のない事なんだけど…私は応援しなきゃいけない立場なんだけど…!」
サクヤを抱きしめる力が強くなる。
「…よしよし」
サクヤも、ハーマイオニーの背に手を回し、背中をさする。
「一番疲れてるサクヤに、何かを求めてる自分が嫌なの…っ
さっきだって…『おつかれさま』さえ言えなくて…」
「…求めてもいいのに…」
サクヤが小さく呟く。
「え…?」
思わぬ言葉に、ハーマイオニーはサクヤを見た。
「だから、求めてもいいんだよ」
その顔は、とても穏やかで。
「でも…!」
連日のハードな練習の疲れの色は見て取れなかった。
「疲れなんて、ひと晩寝りゃ取れちまうし…
…む、むしろ、ハルと何かしたほうが癒されるし…」
やんわり、サクヤの頬は赤みを帯びていた。
それがとても嬉しくて、ハーマイオニーは自然に笑うことができた。
「…やっぱ笑顔が一番だなっ!」
笑みに気付いたサクヤも自然と笑った。
「そうね!」
完全に機嫌が直ったハーマイオニーは、サクヤの首の後ろまで回していた手を少し引き、肩の位置で止めた。
「ハ、ハル…?」
ゆっくりと肩から首へ。
「…っ、」
途端に真っ赤になったサクヤは、小さく縮こまった。
「ふふっ、実は私もやってみたかったの」
「ハル…っこら…!」
首の両サイドを包み込むように手を沿え、引き寄せる。
「おつかれさま、サクヤ」
耳もとで、今日一番言いたい事を言った。
「…うんっ!」
サクヤは今日一番の笑顔で返した。
>>To be continued
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