The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「さあ、もう一度いこうか」

アンジェリーナが言った。
スリザリン生は「♪グリフィンドールの負ーけ、グリフィンドールの負ーけ」と囃しはじめていたが、アンジェリーナは無視した。
しかし、箒の座り方がどことなく突っ張っていた。

今度は3分も飛ばないうちに、アンジェリーナのホイッスルが鳴った。
ハリーとサクヤはちょうど反対側のゴールポストの回りを旋回しているスニッチを見つけ一斉に加速したところだったので、残念無念だったが急停止した。

「今度は何だい?」

ハリーは一番近くにいたアリシアに聞いた。

「ケイティ」

アリシアがひと言で答えた。
振り返ると、アンジェリーナ、フレッド、ジョージが全速力でケイティのほうに飛んでいくのが見えた。
ハリー、サクヤとアリシアもケイティのほうへと急いだ。
アンジェリーナが危機一髪で練習中止にしたことが明らかだった。
ケイティは蝋のように白い顔で、血だらけになっていた。

「だ、大丈夫なの?」

サクヤが聞いた。

「医務室に行かなくちゃ」

アンジェリーナが言った。

「俺たちが連れていくよ」

フレッドが言った。

「ケイティは――えー――間違って――『流血豆』を飲んじまったかもしれない――」

「ビーターもいないし、チェイサーも1人いなくなったし、まあ、続けてもむだだわ」

アンジェリーナが塞ぎ込んで言った。
フレッドとジョージはケイティを挟んで支えながら、城のほうに飛んでいった。

「さあ、みんな。引き揚げて着替えよう」

全員がとぼとぼと更衣室に戻るあいだ、スリザリン生は相変わらず囃し立てていた。

「お疲れさま、練習はどうだった?」

30分後、ハリー、ロン、サクヤが肖像画の穴を通ってグリフィンドールの談話室に戻ると、ハーマイオニーがサクヤに訊ねた。

「練習は――」

サクヤが言いかけた。

「めちゃめちゃさ」

ロンがハーマイオニーの脇の椅子にドサッと腰掛けながら、虚ろな声で言った。
ロンを見て、ハーマイオニーの男子2人組への冷淡さが和らいだようだった。

「そりゃ、初めての練習じゃない」

ハーマイオニーが慰めるように言った。

「時間がかかるわよ。そのうち――」

「めちゃめちゃにしたのが僕だなんて言ったか?」

ロンが噛みついた。

「言わないわ」

ハーマイオニーは不意を衝かれたような顔をした。

「ただ、私――」

「ただ、君は、僕が絶対ヘボだって思ったんだろう?」

「違うわ、そんなこと思わないわ!
ただ、あなたが『めちゃめちゃだった』って言うから、それで――」

「僕、宿題をやる」

ロンは腹立たしげに言い放ち、荒々しく足を踏み鳴らして男子寮の階段へと姿を消した。
ハーマイオニーはハリーとサクヤを見た。

「あの人、めちゃめちゃだったの?そうなの?」

「ううん」

ハリーは忠義立てした。サクヤもハリーに同意するように頷いてくれた。
ハーマイオニーが眉をぴくりとさせた。

「そりゃ、ロンはもっと上手くプレイできたかもしれない」

ハリーがモゴモゴ言った。

「でも、これが初めての練習だったんだ。君が言ったように……」

その夜は、ハリーもロンも宿題が順調に進まなかった。
ロンはクィディッチの練習での自分のヘボぶりで頭がいっぱいだろうと、ハリーにはわかっていた。
ハリー自身も、「♪グリフィンドールの負ーけ」の囃し言葉が耳について、なかなか振り払えなかった。

「お、終わったぁ……!」

そんななか、サクヤが山ほどあった宿題をついに片付けきって、声を上げた。
談話室の暖炉前にあるソファに身を投げ出し、ぺちゃんこになっていた。

「おいおい、まじかよ……」

ロンがうめいた。
全く動いていない手元には、まっさらな羊皮紙が長いこと肘に潰されていた。

「これで明日はハーマイオニーと遊べるんじゃないか?」

ハリーが笑うと、サクヤは「んー、いいねぇ……」と目を閉じたまま恍惚と言った。

「でも、まずはたっぷり寝たいな……それから、明日の午後はスネイプ先生の特訓だ……」

サクヤがそうこぼすと、ロンはさらにうめき、ハリーも顔をしかめた。
ハリーは、スネイプの特訓がまだ続いていることをすっかり忘れていたのだ。
誰よりも時間がないはずのサクヤが、すきま時間を見つけては宿題に取り組んでいたのは、何も遊びたいがためではなかった。

「お疲れさま、サクヤ」

談話室に戻ってきたハーマイオニーが、天を仰ぐサクヤの目元に、持ってきたホットタオルをそっと置いた。
サクヤは深く息を吐いて、羊皮紙や教科書とにらみ合って凝り固まった目の緊張がほぐれていくのを全身全霊で感じていた。

日曜はハリーもロンも、1日中談話室で本に埋もれていた。
朝の談話室はいったん生徒でいっぱいになり、それから空っぽになった。
その日も晴天で、他のグリフィンドール生は校庭に出て、今年はあと数日しか味わえないだろうと思われる陽の光を楽しんでいた。
サクヤは昼まで眠りこけ、昼食を食べに浮腫んだ目をこすりながら大広間へ降りてきたときには、寝ぼけていてパジャマ姿のままだった。
監督生であるハーマイオニーは、「だらしがない」と一応注意をしたものの、着ていたパーカーを羽織らせるに留まっていた。
サクヤはペコペコになっていたお腹にしっかりかぼちゃパイを詰め込むと、ようやく覚醒し、――パジャマ姿のままだったが――いつものサクヤに戻った。
4人で談話室に戻ると、ハリーとロンは宿題のレポートの続きと参考用の教科書を山積み持ってきて、暖炉前のいつものスペースに陣取った。
着替えてきたサクヤはハーマイオニーと一緒に、校庭の穏やかな陽光のなかへ繰り出し、ひとときの散歩を楽しんだ。

昼過ぎにスネイプの研究室へ向かうサクヤを見送ったあとは、大した集中ができないまま無為な時間が過ぎていった。
夕方になると、ハリーは、まるで頭蓋骨の内側で誰かが脳みそを叩いているような気分だった。

「ねえ、宿題は平日にもう少し片づけとくようにしたほうがいいな」

ハリーがロンに向かって呟いた。
マクゴナガル先生の「無生物出現呪文」の長いレポートをやっと終え、惨めな気持ちで、シニストラ先生の負けずに長く面倒な「木星の月の群れ」のレポートに取りかかるところだった。

「そうだな」

ロンは少し充血した目を擦り、5枚目の羊皮紙の書き損じを、そばの暖炉の火に投げ入れた。

「ねえ……ハーマイオニーに、やり終えた宿題、ちょっと見せてくれないかって、頼んでみようか?」

ハリーはチラッとハーマイオニーを見た。
クルックシャンクスを膝に乗せ、ジニーと楽しげにぺちゃくちゃしゃべっている。
その前で、宙に浮いた2本の編み棒が、形のはっきりしないしもべ妖精用ソックスを編み上げていた。

「だめだ」

ハリーが言った。

「見せてくれないのはわかりきってるだろ」




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