The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「えっ!ねえ、ハル……ここ!」
突然声を上げたサクヤが指さした記事を読むやいなや、ハーマイオニーもアッと声を漏らした。
「ああ、だめ……シリウス!」
「何かあったの?」
ハリーが新聞をぐいっと乱暴に引っ張ったので、新聞は半分に裂け、ハリーの手に半分、ハーマイオニーの手にもう半分残った。
「『魔法省は信頼できる筋からの情報を入手した。
シリウス・ブラック、悪名高い大量殺人鬼であり……云々、云々……は現在ロンドンに隠れている!』」
ハーマイオニーは心配そうに声をひそめて、自分の持っている半分を読んだ。
「ルシウス・マルフォイ、絶対そうだ」
ハリーも低い声で、怒り狂った。
「プラットホームでシリウスを見破ったんだ……」
「見送りについてきたの?」
サクヤが驚いて声をあげた。
「誰も止めなかったのか?」
「シーッ!」
ハリーとハーマイオニーがパッとサクヤの口を手で押さえた。
サクヤはモゴモゴと「ごめん」と声を漏らした。
ハリーが息を潜めて説明した。
「止めたよ。ウィーズリーおばさんがカンカンになって。
でも、どうしてもついてきたかったみたいで、犬の姿で――」
「……『魔法省は、魔法界に警戒を呼びかけている。ブラックは非常に危険で……13人も殺し……アズカバンを脱獄……』いつものくだらないやつだわ」
ハーマイオニーは新聞の片われを下に置き、怯えたような目で3人を見た。
「つまり、シリウスはもう二度とあの家を離れちゃいけない。そういうことよ」
ハーマイオニーがひそひそ言った。
「ダンブルドアはちゃんとシリウスに警告してたわ」
「でもきっと、シリウスの気持ちはサクヤが一番分かるんだろうな」
ロンが横目でサクヤを見ながら言った。
サクヤはちょうど、シリウスの心情を想像して眉を下げたところだった。
「正しいことと易いこと――難しいよ、ほんとに」
ダンブルドアの言葉を思い出し、サクヤがぽつりとこぼした。
ハリーは塞ぎ込んで、破り取った新聞の片割れを見下ろした。
ページの大部分は広告で、「マダム・マルキンの洋装店――普段着から式服まで」がセールをやっているらしい。
「えーっ!これ見てよ!」
ハリーは3人に見えるように、新聞を平らに広げて置いた。
「僕、ローブは間に合ってるよ」
ロンが言った。
「違うよ」
ハリーが言った。
「見て……この小さい記事……」
ロンとハーマイオニー、サクヤが新聞に覆い被さるようにして読んだ。
6行足らずの短い記事で、一番下の欄に載っている。
魔法省侵入事件
ロンドン市クラッパム地区ラバーナム・ガーデン2番地に住むスタージス・ポドモア(38)は8月31日魔法省に侵入並びに強盗未遂容疑でウィゼンガモットに出廷した。 ポドモアは、午前1時に最高機密の部屋に押し入ろうとしているところを、ガード魔ンのエリック・マンチに捕まった。 ポドモアは弁明を拒み、両罪について有罪とされ、アズカバンに6ヵ月収監の刑を言い渡された。 |
「スタージス・ポドモア?」
サクヤが疑問符を飛ばした。
「頭が茅葺屋根みたいな、あいつだよな?騎士団のメンバーの――」
「ロン、シーッ!」
ハーマイオニーがびくびくあたりを見回した。
「アズカバンに6ヵ月!」
ハリーはショックを受けていた。
「部屋に入ろうとしただけで!」
「バカなこと言わないで。
単に部屋に入ろうとしただけじゃないわ。
魔法省で、夜中の1時に、いったい何をしていたのかしら?」
ハーマイオニーがひそひそ言った。
「騎士団のことで何かしてたんだと思うか?」
ロンが呟いた。
「ちょっと待って……」
ハリーが考えながら言った。
「スタージスは、僕たちを見送りにくるはずだった。ロンとハーマイオニーは覚えてるかい?」
2人がハリーを見た。
それからハリーは、サクヤにも分かるように説明を付け加えながら続けた。
「そうなんだよ。
この人は、キングズ・クロスに行く僕の護衛隊に加わるはずだったんだ、サクヤ。
それで、現れなかったもんだから、ムーディがずいぶんやきもきしてた。
だから、スタージスが騎士団の仕事をしていたはずはない。そうだろ?」
「つまり、騎士団はスタージスが捕まるとは思ってなかったってこと?」
サクヤが聞いた。
「ハメられたかも!」
ロンが興奮して声を張りあげた。
「いや――わかったぞ!」
ハーマイオニーが怖い顔をしたので、ロンは声をがくんと落とした。
「魔法省はスタージスがダンブルドア一味じゃないかと疑った。
それで――わかんないけど――連中がスタージスを魔法省に誘い込んだ。
スタージスは部屋に押し入ろうとしたわけじゃないんだ!
魔法省がスタージスを捕まえるのに、何かでっち上げたんだ!」
ハリー、サクヤ、ハーマイオニーは、しばらく黙ってそのことを考えた。
ハリーはそんなことはありえないと思ったが、サクヤは首をひねりながらもウンウンと頷き、ハーマイオニーは、かなり感心したような顔をした。
「ねえ、納得できるわ。そのとおりかもしれない」
ハーマイオニーは、何か考え込みながら、手にした新聞の片われを折り畳んだ。
ハリーがナイフとフォークを置いたとき、ハーマイオニーはふと我に返ったように言った。
「さあ、それじゃ、スプラウト先生の『自然に施肥する灌木』のレポートから始めましょうか。
4人で。うまくいけば、昼食前に、マクゴナガルの『無生物出現呪文』に取りかかれるかもしれない……」
上階の寮で待ち受けている宿題の山を思うと、ハリーは良心が疼いた。
しかし、空は晴れ渡り、わくわくするような青さだったし、ハリーはもう1週間もファイアボルトに乗っていなかった……。
「今夜やりゃいいのさ」
ハリーと連れ立ってクィディッチ競技場に向かう芝生の斜面を下りながら、ロンが言った。
2人とも肩には箒を担ぎ、耳には「2人ともOWLに落ちるわよ」というハーマイオニーの警告と、「今やっておけば、あとが楽になるぞ」というサクヤの呆れ声がまだ鳴り響いていた。
「それに、まだ明日ってものがある。
ハーマイオニーは勉強となると熱くなる。最近じゃサクヤにもそれが伝染ってきてる。そのあたりが問題……」
ロンはそこで一瞬言葉を切った。
そして、ちょっと心配そうに言った。
「あいつ、本気かな。
ノートを写させてやらないって言ったろ?」
「ああ、本気だろ」
ハリーが言った。
「だけど、こっちのほうも大事さ。
クィディッチ・チームに残りたいなら、練習しなきゃならない……」
「うん、そうだとも」
ロンは元気が出たようだった。
「それに、宿題を全部やっつける時間はたっぷりあるさ……」
2人がクィディッチ競技場に近づいたとき、ハリーはちらりと右のほうを見た。
禁じられた森の木々が、黒々と揺れている。森からは何も飛び立ってこなかった。
遠くふくろう小屋のある塔の付近をふくろうが数羽飛び回る姿が見える他は、空はまったく何の影もない。
心配の種は余るほどある。空飛ぶ馬が悪さをしたわけじゃなし。
ハリーはそのことを頭から押し退けた。
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