The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




管理人のフィルチが、ゼイゼイ言いながら入ってきた。
痩せて静脈が浮き出た頬のあちこちが赤黒い斑になり、顎は震え、薄い白髪頭を振り乱している。
ここまで駆けてきたに違いない。
ミセス・ノリスがそのすぐ後ろからトコトコ走ってきて、ふくろうたちをじっと見上げ、腹がへったとばかりニャーと鳴いた。
ふくろうたちは落ち着かない様子で羽を擦り合わせ、サクヤのペットで大型のふくろう、オークルが脅すように嘴をカチカチ鳴らした。

「アハーッ!」

フィルチは垂れ下がった頬を怒りに震わせ、ドテドテと不格好な歩き方でハリーのほうにやってきた。

「おまえが糞爆弾をごっそり注文しようとしてると、垂れ込みがあったぞ!」

ハリーは腕組みして管理人をじっと見た。

「僕が糞爆弾を注文してるなんて、誰が言ったんだい?」

チョウも顔をしかめて、ハリーからフィルチへと視線を走らせた。
チョウの腕に止まったふくろうが、片脚立ちに疲れて、催促するようにホーと鳴いたが、チョウは無視した。

「こっちにはこっちの伝手があるんだ」

フィルチは得意げに凄んだ。

「さあ、なんでもいいから送るものをこっちへよこせ」

「できないよ。もう出してしまったもの」

手紙を送るのにぐずぐずしなくてよかったと、ハリーは何かに感謝したい気持ちだった。

出してしまった?

フィルチの顔が怒りで歪んだ。

「出してしまったよ」

ハリーは落ち着いて言った。
フィルチは怒って口を開け、2,3秒パクパクやっていたが、それからハリーのローブを舐めるようにジローッと見た。

「ポケットに入ってないとどうして言える?」

「どうしてって――」

「ハリーが出すところを、私が見たわ」

チョウが怒ったように言った。
フィルチがさっとチョウを見た。

「おまえが見た――?」

「そうよ。見たわ」

チョウが激しい口調で言った。
一瞬、フィルチはチョウを睨みつけ、チョウは睨み返した。
それから、背を向け、ぎごちない歩き方でドアに向かったが、ドアの取っ手に手を掛けて立ち止まり、ハリーを振り返った。

「糞爆弾がプンとでも臭ったら……」

フィルチが階段をコツンコツンと下りていき、ミセス・ノリスは、ふくろうたちをもう一度無念そうに目で舐めてからあとに従いていった。
ハリーとチョウが目を見合わせた。

「ありがとう」

ハリーが言った。

「どういたしまして」

メンフクロウが上げっ放しにしていた脚にやっと小包を括りつけながら、チョウが微かに頬を染めた。

「糞爆弾を注文してはいないでしょう?」

「してない」

ハリーが答えた。

「だったら、フィルチはどうしてそうだと思ったのかしら?」

チョウはふくろうを窓際に運びながら言った。
ハリーは肩をすくめた。
チョウばかりでなくハリーにとっても、それはまったく謎だった。
しかし、不思議なことに、いまはそんなことはどうでもよい気分だった。

2人は一緒にふくろう小屋を出た。
城の西塔に続く廊下の入口で、チョウが言った。

「私はこっちなの。
じゃ、あの……またね、ハリー」

「うん……また」

チョウはハリーににっこりして歩きだした。
ハリーもそのまま歩き続けた。気持ちが静かに昂っていた。
ついにチョウとまとまった会話をやってのけた。しかも、一度もきまりの悪い思いをせずに……。
あの先生にあんなふうに立ち向かうなんて、あなたはとっても勇敢だったわ……。
チョウがハリーを勇敢だと言った……ハリーが生きていることを憎んではいない……。
しかも、アンブリッジに立ち向かったのはサクヤだって同じだし、彼女たちは面識もあるはずなのに、ハリーもチョウもふくろう小屋ではなぜかサクヤの名前を出さなかった。

もちろん、チョウはセドリックのほうが好きだった。それはわかっている……。
ただ、もし僕があのパーティーでセドリックより先に申し込んでいたら、事情は違っていたかもしれない……僕が申し込んだとき、チョウは断るのが本当に申しないという様子だった……。
パーティーの途中で、サクヤがセドリックを引き取り、僕とチョウが踊ったときだって、彼女はとても楽しそうだった……。

「おはよう」

大広間のグリフィンドールのテーブルで、ハリーはロンとハーマイオニー、サクヤのところに座りながら、明るく挨拶した。

「なんでそんなにうれしそうなんだ?」

ロンが驚いてハリーを見た。

「う、うん……あとでクィディッチが」

ハリーは幸せそうに答え、ベーコンエッグの大皿を引き寄せた。

「ああ……うん……」

ロンは食べかけのトーストを下に置き、かぼちゃジュースをがぶりと飲み、それから口を開いた。

「ねえ……僕と一緒に、少し早めに行ってくれないか?
ちょっと――えー――僕に、トレーニング前の練習をさせてほしいんだ。
そしたら、ほら、ちょっと勘がつかめるし」

「ああ、オッケー。サクヤも来るだろ?」

ハリーが訊ねると、サクヤは顔をしかめた。

「あー、ごめん。宿題をやらなくちゃ。
本トレーニングの時間は確保できてるけど――」

「2人とも聞いた?」

ハーマイオニーが割り込んできた。真剣な顔をしている。

あなたたちもやらなくちゃいけないのよ。ほんとに遅れてるじゃない――」

しかし、ハーマイオニーの言葉はそこで途切れた。
朝の郵便が到着し、いつものようにコノハズクが「日刊予言者新聞」をくわえてハーマイオニーのほうに飛んできて、砂糖壷すれすれに着地した。
コノハズクが片脚を突き出し、ハーマイオニーはその革の巾着に1クヌートを押し込んで新聞を受け取った。
コノハズクが飛び立ったときには、ハーマイオニーは新聞の一面にしっかりと目を走らせていた。

「何かおもしろい記事、ある?」

ロンが言った。
ハリーはニヤッとした。宿題の話題を逸らせようとロンが躍起になっているのがわかるのだ。

「ないわ」

ハーマイオニーがため息をついた。

「『妖女シスターズ』のベース奏者が結婚するゴシップ記事だけよ」

ハーマイオニーは新聞を広げてその陰に埋もれてしまった。サクヤもマーマレードをたっぷり塗ったパンをかじりながら、その隙間から記事を斜め読みしている。
ハリーはもう一度ベーコンエッグを取り分け、食べることに専念した。
ロンは、何か気になってしょうがないという顔で高窓を見つめていた。



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