The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
ハリーとサクヤは今度こそハーマイオニーのそばまで行った。
鞄を置いて、サクヤが身体を向けて隣に座ると、ハーマイオニーがびくっとして目を覚ました。
「ああ、サクヤ、あなたなの……ハリーもお疲れさま……ロンのこと、よかったわね」
ハーマイオニーはとろんとした目で言った。
「私、と――と――とっても疲れちゃった」
ハーマイオニーは欠伸をした。
「帽子をたくさん作ってて――すごい勢いでなくなってるのよ!」
たしかに、見回すと、談話室の至る所、不注意なしもべ妖精がうっかり拾いそうな場所には毛糸の帽子が隠してあった。
「いつも遅くまで付き合ってくれてありがとな」
サクヤが傷の痛みを忘れようとするかのように、にこにこ微笑みながらハーマイオニーを見た。
ハーマイオニーはバタービールが入っているゴブレットを机に戻すと、アンブリッジと同じようにサクヤの手をとって、手の甲の傷を調べはじめた。
しかし、アンブリッジの太く短い、ゴテゴテとした指とは大違いなハーマイオニーのすらりとした指先は、無条件にサクヤに癒しを与えた。
「ひどい傷……。
マダム・ポンフリーから、切り傷用の薬をもらっておいたわ。ほら……」
「サクヤ、どうしてそんなに罰則を頑張ったの?」
ハーマイオニーが黄色い液体をしみこませたガーゼを手の甲に巻き付けるのを見ながら、ハリーが訊ねた。
ハリーのほうの手の傷を見たハーマイオニーも、その傷口の差を見てサクヤへ顔を向けた。
「早く血が出れば、早く罰則を終わらせられないかと思ったんだ」
サクヤが肩をすくめた。
「失敗したけどな。
あの女、こっちがどんだけ合図を送っても全部無視しやがった。選抜が終わるまできっちり待ってたんだ」
「そういうことか……ほんと、いい性格してるよ」
ハリーもハーマイオニーの手当てを受けながら、苦々しげに言った。
それから、ハリーは額の傷も強く痛んだことを思い出した。
「ねえハーマイオニー、あいつが僕の腕に、そうやって触ったとき……」
ハーマイオニーは注意深く聴いて、ハリーが話し終わると、考えながらゆっくり言った。
「『例のあの人』がクィレルをコントロールしたみたいに、アンブリッジをコントロールしてるんじゃないかって心配なの?」
「うーん」
ハリーは声を落とした。
「可能性はあるだろう?」
「あるかもね」
ハーマイオニーはあまり確信が持てないような言い方をした。
「でも、『あの人』がクィレルと同じやり方でアンブリッジに『
取り憑く』ことはできないと思うわ。
つまり、『あの人』はもう生きてるんでしょう?
自分の身体を持ってる。誰かの身体は必要じゃない。
アンブリッジに『服従呪文』をかけることは可能だと思うけど……」
「そんな感じはしないんだよな……」
サクヤが、アンブリッジの振舞い方を思い返しながら言った。
ハリーは、フレッド、ジョージ、リー・ジョーダンがバタービールの空き瓶でジャグリングをしているのをしばらく眺めていた。
するとハーマイオニーが言った。
「でも、去年、誰も触っていないのに、サクヤの目やハリーの傷痕が痛むことがあったわね。
ダンブルドアがこう言わなかった?
『例のあの人』がそのとき感じていることに関係している。
つまり、もしかしたらアンブリッジとはまったく関係がないかもしれないわ。
たまたまアンブリッジと一緒にいたときにそれが起こったのは、単なる偶然かもしれないじゃない?」
「オレの目の痛みはハリーと同時だったけど、その前に、左腕が焼けるように痛くなったんだ。アンブリッジが手の甲を調べてるときだった」
サクヤが考えながら言った。
「そのあとにハリーの手の甲を調べて、そのときはハリーの額の傷が痛んだ。本当にこれが偶然なのかな……」
「それに、あいつは邪悪なやつだ。根性曲がりだ」
ハリーが言った。
「ひどい人よ、たしかに。
でも……ハリー、ダンブルドアに、傷痕の痛みのことを話さないといけないと思うわ」
ダンブルドアのところへ行けと忠告されたのは、この2日で二度目だ。
そしてハリーのハーマイオニーへの答えは、ロンへのとまったく同じだった。
「このことでダンブルドアの邪魔はしない。
いま君が言ったように大したことじゃない。
この夏中、しょっちゅう痛んでたし――ただ、今夜はちょっとひどかった――それだけさ――」
「ハリー、ダンブルドアはきっとこのことで
邪魔されたいと思うわ――」
「うん」
ハリーはそう言ったあと、言いたいことが口を衝いて出てしまった。
「ダンブルドアは僕のその部分だけしか気にしてないんだろ?僕の傷痕しか」
「何を言い出すの。そんなことないわ!
サクヤは、もちろんこのことをダンブルドアに話すでしょう?」
ハーマイオニーが、こちらに身体を向けて座っているサクヤへ向かい合うように座りなおした。
サクヤは背もたれに肘をついたまま、考えるように返事を渋っている。
「言うべき、なんだろうけど……。
夏休みの後半くらいから、ダンブルドアは前よりもっと忙しそうにしてる。
現に、
あれ以来ひと言も話せていないし、会ってもいない――」
「それでも言いに行くべきよ――」
「
サクヤも、ダンブルドアに避けられてると思うかい?」
ハリーは急に気が付いて、ハーマイオニーを遮った。
この話題について、まだサクヤときちんと話していない。
ダンブルドアがハリーと目も合わせてくれないこと、そしてキングズリー・シャックルボルトがルーピンに話していた「2人へ信頼を示せたはずだ」という言葉を思い出した。
「会えてないから、避けられてるかは分からないな……。いや、避けようとしてるから会ってないのか……?」
サクヤが首をひねった。
「とにかく、僕は手紙を書いて、シリウスにこのことを教えるよ。シリウスがどう考えるか――」
「ハリー、そういうことは手紙に書いちゃダメ!」
ハーマイオニーが驚いて言った。
「覚えていないの?
ムーディが、手紙に書くことに気をつけろって言ったでしょう。
いまはもう、ふくろうが途中で捕まらないという保証はないのよ!」
「わかった、わかった。
じゃ、シリウスには教えないよ!」
ハリーはイライラしながら立ち上がった。
「僕、寝る。ロンにそう言っといてくれる?」
「あら、だめよ」
ハーマイオニーがほっとしたように言った。
「あなたが行くなら、私も行っても失礼にはならないってことだもの。
私、もうくたくたなの。
それに、明日はもっと帽子を作りたいし。
ねえ、あなたも手伝わない?おもしろいわよ。
私、だんだん上手になってるの。いまは、模様編みもボンボンも、ほかにもいろいろできるわ」
ハリーは喜びに輝いているハーマイオニーの顔を見つめた。
そして、少しはその気になったかのような顔をしてみせようとした。
「あー……ううん。遠慮しとく」
ハリーが言った。
「えーと――明日はだめなんだ。
僕、山ほど宿題やらなくちゃ……」
ちょっと残念そうな顔をしたハーマイオニーと、宿題のことを思い出しげんなりした顔のサクヤをあとに残し、ハリーはとぼとぼと男子寮の階段に向かった。
>>To be continued
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