The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「ロン?」
階段の一番上で右に曲がったとき、サクヤが気づかなければハリーは危うくロンとぶつかるところだった。
ロンが「ひょろ長ラックラン」の像の陰から、箒を握ってこそこそ現れたのだ。
ハリーたちを見るとロンは驚いて飛び上がり、新品のクリーンスイープ11号を背中に隠そうとした。
「何してるんだ?」
サクヤが訊ねた。
「あ――なんにも。
君たちこそ何してるの?」
ハリーは顔をしかめた。
「さあ、僕たちに隠すなよ!
こんなところになんで隠れてるんだ?」
「僕――僕、どうしても知りたいなら言うけど、フレッドとジョージから隠れてるんだ」
ロンが言った。
「たったいま、1年生をごっそり連れてここを通った。また実験するつもりなんだ。
だって、談話室じゃもうできないだろ。ハーマイオニーがいるかぎり」
ロンは早口で熱っぽくまくし立てた。
「だけど、なんで箒を持ってるんだ?飛んでたわけじゃないだろ?」
ハリーが聞いた。
「僕――あの――あの。オッケー、言うよ。笑うなよ。いいか?」
ロンは刻々と赤くなりながら、防衛線を張った。
「僕――僕、グリフィンドールのキーパーの選抜に出ようと思ったんだ。今度はちゃんとした箒を持ってるし。さあ、笑えよ」
「笑ってないよ」
「笑うわけない!」
ハリーとサクヤが言った。ロンがきょとんとした。
「それ、すばらしいよ!君がチームに入ったら、ほんとにグーだ!」
「ロンがキーパーをやるのを見たことないけど、上手いのか?」
「下手じゃない」
ロンは2人の反応で心からほっとしたようだった。
「チャーリー、フレッド、ジョージが休み中にトレーニングするときは、僕がいつもキーパーをやらされた」
「それじゃ、今夜は練習してたのか?」
「火曜日から毎晩……1人でだけど。
クアッフルが僕のほうに飛んでくるように魔法をかけたんだ。
だけど、簡単じゃなかったし、それがどのぐらい役に立つのかわかんないし」
ロンは神経が昂って、不安そうだった。
「フレッドもジョージも、僕が選抜に現れたらバカ笑いするだろうな。
僕が監督生になってからずっとからかいっ放しなんだから」
「僕たちも行けたらいいんだけど」
ハリーは久しぶりにサクヤへ顔を向けた気がしながら、同意を求めた。
3人で談話室に向かいながら、サクヤも苦々しく言った。
「ほんとそう思うよ。ロンが来るならなおさらだ――」
「ハリー、君の手の甲、それ、何?」
ハリーは、空いていた左手で鼻の頭を掻いたところだったが、手を隠そうとした。
しかし、ロンがクリーンスイープを隠し損ねたのと同じだった。
「ちょっと切ったんだ――何でもない――なんでも」
しかし、ロンはハリーの腕をつかみ、手の甲を自分の目の高さまで持ってきた。
一瞬、ロンが黙った。
ハリーの手に刻まれた言葉をじっと見て、それから、サクヤが引っ込める前に彼女の手もつかみ、アームガードで隠された左手の甲を露わにさせた。
ロンは不快な顔をして、サクヤの手を離した。
「あいつは書き取り罰則をさせてるだけだって、そう言っただろ?」
ハリーは迷った。
しかし、結局ロンが正直に打ち明けたのだからと、アンブリッジの部屋で過ごした何時間かが本当は何だったのかを、ロンに話した。
「あの鬼ばばぁ!」
「太った婦人」の前で立ち止まったとき、ロンはむかついたように小声で言った。「太った婦人」は額縁にもたれて安らかに眠っている。
「あの女、病気だ!マクゴナガルのところへ行けよ。何とか言ってこい!」
「いやだ」
サクヤが何か言う前に、ハリーが即座に断った。
「僕たちを降参させたなんて、あの女が満足するのはまっぴらだ」
「
降参?こんなことされて、あいつをこのまま放っておくのか!」
「確かに
こんなことだよな。
こんなことで、アンブリッジなんかに負ける気はしないね」
サクヤが毅然として言った。
「それに、マクゴナガルがあの女をどのくらい抑えられるかわからない」
ハリーが言った。
「じゃ、ダンブルドアだ。ダンブルドアに言えよ!」
「いやだ」
ハリーはにべもなく言った。
「どうして?」
「ダンブルドアは頭がいっぱいだ」
そうは言ったが、それが本当の理由ではなかった。
ダンブルドアが6月から一度もハリーと口をきかないのに、助けを求めにいくつもりはなかった。
「うーん、僕が思うに、君がするべきことは――」
ロンが言いかけたが、「太った婦人」に遮られた。
婦人は眠そうに3人を見ていたが、ついに爆発した。
「合言葉を言うつもりなの?
それともあなたたちの会話が終わるのを、ここでひと晩中起きて待たなきゃいけないの?」
サクヤは談話室への穴をよじ登ると、ハリーとロンの言い合いの合間を縫って「おやすみ」を言い、女子寮への階段を上った。
ロンに捲られたアームガードを戻していると、カナリアイエローの裏地に、手の甲から滲んだ血が染みついているのを見つけた。切り刻まれた傷口は、まだてらてらと血で光っている。
サクヤはしばしそれを見つめたのち、自室の前でまた手の甲を覆うと、扉を静かに開いた。
「――ああ、サクヤ、おかえり」
屋敷しもべ妖精の帽子を魔法をかけた棒針で編ませながら、うとうととしていたハーマイオニーが肩を揺らした。
「ただいま、ハル。
眠いならもう寝ちゃったらよかったのに」
サクヤは鞄をどさっと置きながら言った。
そのままローブを脱ぎ、シャワー室に入ったところで、ハーマイオニーが伸びをしながら眠たげにそのドアにもたれ掛かった。
「やっぱり、起きて待っていたいじゃない」
ハーマイオニーがそうにっこり笑うので、サクヤは心がじんわりと暖かくなった。
「ありがと。
でも、そこに立ってられると、ドアを閉められないんだけど――?」
「別に、かまわないでしょ?」
「……ハル、相当眠いね?」
サクヤがそうからかうと、ハーマイオニーはまたふふっと笑った。
しかし、未だそこを動こうとしないので、サクヤはいよいよ困ってきてしまった。
シャワーついでに、アームガードをこっそり洗おうとしていたのだ。
裸の付き合いを何度もしてきたせいで、ここで照れて追い出すのもまた不自然だ。そう逡巡している時間もまた、不自然になってしまった。
「どうしたの?あの女に何かされた?」
ハーマイオニーが半分覚醒した。
「えーっと……」
サクヤは曖昧な声を出したが、心を決め、ハーマイオニーにも正直に話すことにした。
聞いているうちに、ハーマイオニーは残りの眠気もどこかへ飛んでいったようで、いまやパッチリと目が開いている。
黙っていたサクヤに怒ろうか、アンブリッジを罵倒しようか決めかねるように口を開いて、閉じてを何度か繰り返したあと、ハーマイオニーはそこからため息だけこぼした。
「そうね――そう――あの女がただの書き取りなんかさせるわけないものね。気づくべきだったわ……」
サクヤの手の傷の状態を労わるように確認しながら、ハーマイオニーは自分に言い聞かせるように言った。
怒られやしないかと少し思っていたサクヤは、それでも謝らずにはいられなかった。
「言い出せなくてごめん。
あいつに負けるもんかって意地になってた。悪に屈するみたいで」
ハーマイオニーは首を横に振った。
それから血で汚れたアームガードを受け取ると、サクヤの代わりに洗面台で洗い始めた。
しばらく黙ってもみ洗いをして、それから手を止め、やっと口を開いた。
「私、きちんとあなたを守れるようになりたいのに」
ハーマイオニーは顔を上げ、隣で眺めていたサクヤの目をしっかり見つめた。
「こんなことをする人が、まともなことを教えるわけないわ。
ちょっと、考えさせてちょうだい――解決方法を――」
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