The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
玄関の明かりは点いていた。
ハリーは杖をジーンズのベルトに挟み込んで、ベルを鳴らし、ペチュニア叔母さんがやってくるのを見ていた。
叔母さんの輪郭が、玄関のガラス戸の模様で奇妙に歪みながら、だんだん大きくなってきた。
「ダドちゃん!遅かったわね。ママはとっても――とっても――
ダドちゃん!どうしたの?」
ハリーは横を向いてダドリーを見た。
そして、ダドリーの腋の下からさっと身を引いた。
間一髪。
ダドリーはその場で一瞬ぐらりとした。
顔が青ざめている……そして、口を開け、玄関マットいっぱいに吐いた。
「
ダドちゃん!ダドちゃん、どうしたの?バーノン?
バーノン!」
バーノン叔父さんが、居間からドタバタと出てきた。
興奮したときの常で、セイウチ口ひげをあっちへゆらゆらこっちへゆらゆらさせながら、叔父さんはペチュニア叔母さんを助けに急いだ。
叔母さんは反吐の海に足を踏み入れないようにしながら、ぐらぐらしているダドリーをなんとかして玄関に上げようとしていた。
「バーノン、この子、病気だわ!」
「坊主、どうした?何があった?
ポルキスの奥さんが、夕食に異物でも食わせたのか?」
「泥だらけじゃないの。
坊や、どうしたの?地面に寝転んでたの?」
「待てよ――チンピラにやられたんじゃあるまいな?え?坊主」
ペチュニア叔母さんが悲鳴をあげた。
「バーノン、警察に電話よ!警察を呼んで!
ダドちゃん。かわいこちゃん。ママにお話して!チンピラに何をされたの?」
てんやわんやの中で、誰もハリーに気づかないようだった。そのほうが好都合だ。
ハリーはバーノン叔父さんが戸をパタンと閉める直前に家の中に滑り込んだ。
ダーズリー一家がキッチンに向かって騒々しく前進している間、ハリーは慎重に、こっそりと階段へと向かった。
「坊主、誰にやられた?名前を言いなさい。捕まえてやる。心配するな」
「しっ!バーノン、何か言おうとしてますよ!
ダドちゃん、なあに?ママに言ってごらん!」
ハリーは階段の一番下の段に足を掛けた。
そのとき、ダドリーが声を取り戻した。
「
あいつ」
ハリーは階段に足をつけたまま凍りつき、顔をしかめ、爆発に備えて身構えた。
「
小僧!こっちへ来い!」
恐れと怒りが入り交じった気持ちで、ハリーはゆっくり足を階段から離し、ダーズリー親子に従った。
徹底的に磨き上げられたキッチンは、表が暗かっただけに、妙に現実離れして輝いていた。
ペチュニア叔母さんは、真っ青でじっとりした顔のダドリーを椅子のほうに連れていった。
バーノン叔父さんは水切り籠の前に立ち、小さい目を細くしてハリーを睨めつけていた。
「息子に何をした?」
叔父さんは脅すように唸った。
「なんにも」
ハリーには、バーノン叔父さんがどうせ信じないことがはっきりわかっていた。
「ダドちゃん、あの子が何をしたの?」
ペチュニア叔母さんは、ダドリーの革ジャンの前をスポンジできれいに拭いながら、声を震わせた。
「あれ――ねえ、『例のあれ』なの?あの子が使ったの?あの子の
あれを?」
ダドリーがゆっくり、びくびくしながら頷いた。
ペチュニア叔母さんが喚き、バーノン叔父さんが拳を振り上げた。
「やってない!」
ハリーが鋭く言った。
「僕はダドリーになんにもしていない。僕じゃない。あれは――」
ちょうどそのとき、コノハズクがキッチンの窓からサーッと入ってきた。
バーノン叔父さんの頭のてっぺんを掠め、キッチンの中をスイーッと飛んで、嘴にくわえていた大きな羊皮紙の封筒をハリーの足下に落とし、優雅に向きを変え、羽の先端で冷蔵庫の上を軽く払い、そして、再び外へと滑走し、庭を横切って飛び去った。
「
ふくろうめ!」
バーノン叔父さんが嘆いた。
こめかみに、お馴染みの怒りの青筋をピクピクさせ、叔父さんはキッチンの窓をぴしゃりと閉めた。
「またふくろうだ!わしの家でこれ以上ふくろうは許さん!」
しかしハリーは、すでに封筒を破り、中から手紙を引っ張り出していた。
心臓は喉仏のあたりでドキドキしている。
親愛なるポッター殿
我々の把握した情報によれば、貴殿は今夜9時23分過ぎ、マグルの居住地区にて、マグルの面前で、守護霊の呪文を行使した。 「未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令」の重大な違反により、貴殿はホグワーツ魔法魔術学校を退学処分となる。 魔法省の役人がまもなく貴殿の住居に出向き、貴殿の杖を破壊するであろう。 貴殿には、すでに「国際魔法戦士連盟機密保持法」の第13条違反の前科があるため、遺憾ながら、貴殿は魔法省の懲戒尋問への出席が要求されることをお知らせする。 尋問は8月12日午前9時から魔法省にて行われる。
貴殿のご健勝をお祈りいたします。 敬具
魔法省 魔法不適正使用取締局 マファルダ・ホップカーク
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ハリーは手紙を二度読んだ。
バーノン叔父さんとペチュニア叔母さんが話しているのを、ハリーはぼんやりとしか感じ取れなかった。頭の中が冷たくなって痺れていた。
たった1つのことだけが、毒矢のように意識を貫き痺れさせた。
僕はホグワーツを退学になった。すべてお終いだ。もう戻れない。
ハリーはダーズリー親子を見た。
バーノン叔父さんは顔を赤紫色にして叫び、拳を振り上げている。
ペチュニア叔母さんは両腕をダドリーに回し、ダドリーはまたゲーゲーやりだしていた。
一時的に麻痺していたハリーの脳が再び目を覚ましたようだった。
"魔法省の役人が貴殿の住居に出向き、貴殿の杖を破壊するであろう"。
道はただ1つだ。逃げるしかない――すぐに。
どこに行くのか、ハリーにはわからない。サクヤの城に逃げ込むことはできるだろうか?
1つのことだけはっきりしていた。ホグワーツだろうとそれ以外だろうと、ハリーには杖が必要だ。
ほとんど夢遊病のように、ハリーは杖を引っ張り出し、キッチンを出ようとした。
「いったいどこに行く気だ?」
バーノン叔父さんが叫んだ。
ハリーが答えないでいると、叔父さんはキッチンの向こうからドスンドスンとやってきて、玄関ホールへの出入口を塞いだ。
「話はまだ済んどらんぞ、小僧!」
「どいてよ」
ハリーは静かに言った。
「おまえはここにいて、説明するんだ。息子がどうして――」
「どかないと、呪いをかけるぞ」
ハリーは杖を上げた。
「その手は食わんぞ!」
バーノン叔父さんが凄んだ。
「おまえが学校とか呼んでいるあのバカ騒ぎ小屋の外では、おまえは杖を使うことを許されていない」
「そのバカ騒ぎ小屋が僕を追い出した。
だから僕は好きなことをしていいんだ。3秒だけ待ってやる。1――2――」
バーンという音が、キッチン中に鳴り響いた。
ペチュニア叔母さんが悲鳴をあげた。バーノン叔父さんも叫び声をあげて身をかわした。
しかしハリーは、自分が原因ではない騒ぎの源を探していた。
今夜はこれで三度目だ。すぐに見つかった。
キッチンの窓の外側に、羽毛を逆立てたメンフクロウが目を白黒させながら止まっていた。閉じた窓に衝突したのだ。
バーノン叔父さんがいまいましげに「
ふくろうめ!」と叫ぶのを無視し、ハリーは走っていって窓をこじ開けた。
ふくろうが差し出した脚に、小さく丸めた羊皮紙が括りつけられていた。
ふくろうは羽毛をプルプルッと震わせ、ハリーが手紙を外すとすぐに飛び去った。ハリーは震える手で2番目のメッセージを開いた。
大急ぎで書いたらしく、黒インクの字が滲んでいた。
ダンブルドアがたったいま魔法省に着いた。なんとか収拾をつけようとしている。 叔父さん、叔母さんの家を離れないよう。これ以上魔法を使ってはいけない。杖を引き渡してはいけない。
アーサー・ウィーズリー
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ダンブルドアが収拾をつけるって……どういう意味?
ダンブルドアは、どのぐらい魔法省の決定を覆す力を持っているのだろう?
それじゃ、ホグワーツに戻るのを許されるチャンスはあるのだろうか?
ハリーの胸に小さな希望が芽生えたが、それもたちまち恐怖で捻じれた――魔法を使わずに杖の引き渡しを拒むなんて、どうやったらいいんだ?
魔法省の役人と決闘しなくちゃならないだろうに。
でもそんなことをしたら、退学どころか、アズカバン行きにならなけりゃ奇跡だ。
次々といろいろな考えが浮かんだ……逃亡して、魔法省に捕まる危険を冒すか、踏み止まって、ここで魔法省に見つかるのを待つか。
ハリーは最初の道を取りたいという気持のほうがずっと強かった。
しかし、ウィーズリーおじさんがハリーにとって最善の道を考えていることを、ハリーは知っていた……それに、結局、ダンブルドアは、これまでにも、もっと悪いケースを収拾してくれたんだし。
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