The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「2人とも、こっちへいらっしゃい」

何時間経ったろうか、アンブリッジが言った。
ハリーとサクヤは立ち上がった。手がズキズキ痛んだ。

「手を」

アンブリッジが言った。
ハリーとサクヤが手を突き出した。
お互いの手の甲を見ると、切り傷は治っているものの、同じくらい赤くミミズ腫れになっていた。
アンブリッジがそれぞれの手を取った。ずんぐり太ったアンブリッジの指には醜悪な古い指輪がたくさん嵌まっていた。
その指がハリーの手に触れたとき、悪寒が走るのをハリーは抑え込んだ。

「チッチッ、まだあまり刻まれていないようね」

アンブリッジがにっこりした。

「まあ、明日の夜もう一度やるほかないわね?帰ってよろしい」

ハリーもサクヤもひと言も言わずその部屋を出た。
学校はがらんとしていた。真夜中を過ぎているに違いない。
2人は歩幅を合わせてゆっくり廊下を歩き、角を曲がり、絶対アンブリッジの耳には届かないと思ったとき、わっと駆けだした。

「くそったれだ」

「まだ宿題をこなす時間あるかな」

2人はまっすぐ前を向きながら、しかしこれでもかと悪態を吐きつつ寮へ戻ると、挨拶もそこそこにそれぞれの部屋へ戻った。
ハリーは「消失呪文」を練習する時間もなく、夢日記は1つも夢を書かず、ボウトラックルのスケッチも仕上げず、レポートも書いていなかった。
翌朝ハリーは朝食を抜かし、1時間目の「古い学」用にでっち上げの夢をいくつか走り書きした。
驚いたことに、ボサボサ髪のロンもつき合った。

「どうして夜のうちにやらなかったんだい?」

何か閃かないかと、きょろきょろ談話室を見回しているロンに、ハリーが聞いた。
ハリーが寮に戻ったとき、ロンはぐっすり寝ていた。
ロンは、「ほかのことやってた」のようなことをブツブツ呟き、羊皮紙の上に覆い被さって、何か書きなぐった。

「これでいいや」

ロンはピシャッと夢日記を閉じた。

「こう書いた。僕は新しい靴を1足買う夢を見た。
これならあの先生、へんてこりんな解釈をつけられないだろ?」

2人は一緒に北塔に急いだ。

「ところで、アンブリッジの罰則、どうだった?何をさせられた?」

ハリーはほんの一瞬迷ったが、答えた。

「書き取り」

「そんなら、まあまあじゃないか、ん?」

ロンが言った。

「ああ」

ハリーが言った。

「そうだ――忘れてた――金曜日は自由にしてくれたか?」

「いや」

ハリーが答えた。
ロンが気の毒そうに呻いた。

その日もハリーにとっては最悪だった。
「消失呪文」を全然練習していなかったので、「変身術」の授業では最低の生徒の1人だった。
昼食の時間も犠牲にしてボウトラックルのスケッチを完成させなければならなかった。
その間、マクゴナガル、グラブリー-プランク、シニストラの各先生は、またまた宿題を出した。
今夜は2回目の罰則なので、とうていその宿題を今晩中にやり終える見込みはない。
おまけに、アンジェリーナ・ジョンソンが夕食のときにハリーとサクヤを追い詰め、金曜のキーパー選抜に来られないとわかると、その態度は感心しない、選手たるもの何を置いても訓練を優先させるべきだ、と説教した。

「罰則を食らったんだ!」

アンジェリーナが突っけんどんに歩き去る後ろから、ハリーが叫んだ。

「僕たちがクィディッチより、あのガマばばぁと同じ部屋で顔つき合わせていたいとでも思うのか?」

「ただの書き取り罰だもの」

ハリーが座り込むと、ハーマイオニーが慰めるように言った。
ハリーはステーキ・キドニーパイを見下ろしたが、もうあまり食べたくなかった。

「恐ろしい罰則じゃないみたいだし、ね……」

ハリーは口を開いたが、また閉じて頷いた。
ロンやハーマイオニーに、アンブリッジの部屋で起こったことをどうして素直に話せないのか、はっきりわからなかった。
ただ、2人の恐怖の表情を見たくなかった。
見てしまったら、何もかもいまよりもっと悪いもののように思えて、立ち向かうのが難しくなるだろう。
恐らくだが、サクヤもまたハリーと同じ気持ちなのだろう――現にハーマイオニーは、ロンと同じように書き取り罰則の正体を知らない。
サクヤの左手の甲を何気なく見てみると、ミミズ腫れの痕をローブと同じような色の黒いアームガードでうまく隠している。
ハリーと同じように黙ったままのサクヤの顔もあまり見られなかったし、サクヤも必要以上にハリーに話しかけてこなかった。
2人とも、心のどこかで、これは自分とアンブリッジの1対1の精神的な戦いだという気がしていた。
弱音を吐いたなどと、アンブリッジの耳に入れて、あいつを満足させてなるものか。

「この宿題の量、信じられないよ」

ロンが惨めな声で言った。

「ねえ、どうして昨夜何にもしなかったの?」

ハーマイオニーがロンに聞いた。

「いったいどこにいたの?」

「僕……散歩がしたくなって」

ロンがなんだかこそこそした言い方をした。
隠し事をしているのは自分だけじゃない、とハリーははっきりそう思った。


2回目の罰則も1回目に劣らずひどかった。
手の甲の皮膚が、昨日より早くから痛みだし、すぐに赤く腫れ上がった。
傷がたちまち治る状態も、そう長くは続かないだろう。
まもなく傷は刻み込まれたままになり、アンブリッジはたぶん満足するだろう。
しかしハリーもサクヤも、痛いという声を漏らさなかったし、互いに目も合わさなかった。
部屋に入ってから許されるまで――また真夜中過ぎだったが――「こんばんは」と「おやすみなさい」しか言わなかった。

しかし、ハリーの宿題のほうはもはや絶望的だった。
グリフィンドールの談話室に戻ったとき、ハリーはぐったり疲れていたが、寝室には行かず、本を開いてスネイプの月長石のレポートに取りかかった。
サクヤにレポートを見せてほしいと頼みたかったが、アンブリッジへの意地が長引いているのか、サクヤが寝室へ上がっていくまでに声をかけることができなかった。
月長石が終わったときにはもう2時半を過ぎていた。
いいできでないことはわかっていた。しかし、どうしようもない。
何か提出しなければ、次はスネイプの罰則を食らうだろう。
それから大至急、マクゴナガル先生の出題に答えを書き、ボウトラックルの適切な扱い方についてグラブリー-プランク先生の宿題を急拵えし、よろよろとベッドに向かった。
服を着たまま、ベッドカバーの上で、ハリーはあっという間に眠りに落ちた。


木曜は疲れてぼーっとしているうちに過ぎた。
サクヤがとても眠そうなのは自分と同じような状況だしよくわかるのだが、ロンもまた眠そうで、こちらはどうしてそうなのか、ハリーには見当がつかなかった。
3日目の罰則も、前の2日間と同じように過ぎた。
ただ、2時間過ぎたころ、"私は嘘をついてはいけない"の文字が手の甲から消えなくなり、刻みつけられたまま、血が滲み出してきた。
先の尖った羽根ペンのカリカリという音が止まったので、アンブリッジ先生が目を上げた。

「ああ」

自分の机から出てきて、ハリーの手を自ら調べ、アンブリッジがやさしげに言った。

「これで、あなたはいつも思い出すでしょう。ね?今夜は帰ってよろしい」

それからアンブリッジはサクヤの机の方へ向かい、同じようにサクヤの手を調べると、満足げにうんうんと頷いた。

「あなたも戻ってよろしい。また明日ね」

サクヤは黙ってアンブリッジを見上げると、机の脚に凭せ掛けていた鞄を肩にかけた。

「明日も来なければいけませんか?」

ハリーはズキズキする左手ではなく、右手で鞄を取り上げた。

「ええ、そうよ」

アンブリッジ先生はいつもの大口でにっこりした。

「ええ、もうひと晩やれば、言葉の意味がもう少し深く刻まれると思いますよ」

ハリーは、スネイプより憎らしい先生がこの世に存在するとは考えたこともなかった。
しかし、サクヤと並んでグリフィンドール塔に戻りながら、手強い対抗者がいたと認めないわけにはいかなかった。
邪悪なやつめ。8階への階段を上りながらハリーはそう思った。
あいつは邪悪で根性曲がりで狂ったクソばばぁ――。



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