The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




17時5分前、ハリーとサクヤは2人に「さよなら」を言い、4階のアンブリッジの部屋に出かけた。
ドアをノックすると、甘ったるい声がした。

「お入りなさいな」

ハリーもサクヤも用心して周りを見ながら入った。
3人の前任者のときのこの部屋は知っていた。
ギルデロイ・ロックハートがここにいたときは、にっこり笑いかける自分の写真がべたべた貼ってあった。
ルーピンが使っていたときは、ここを訪ねると、檻や水槽に入ったおもしろい闇の生物と出会える可能性があった。
ムーディの偽者の時代は、怪しい動きや隠れたものを探り検知する、いろいろな道具や計器類が詰まっていた。

しかし、いまは、見分けがつかないほどの変わりようだった。
壁や机はゆったり襞を取ったレースのカバーや布で覆われている。
ドライフラワーをたっぷり生けた花瓶が数個、その下にはそれぞれかわいい花瓶敷、一方の壁には飾り皿のコレクションで、首にいろいろなリボンを結んだ子猫の絵が、1枚1枚大きく色鮮やかに描いてある。
あまりの悪趣味に、ハリーは見つめたまま立ちすくんだ。
するとまたアンブリッジ先生の声がした。

「こんばんは、ミスター・ポッター。ミス・フェリックス」

2人は驚いてあたりを見回した。
最初に気づかなかったのも当然だ。
アンブリッジは花柄べったりのローブを着て、それがすっかり溶け込むテーブルクロスを掛けた机の前にいた。

「こんばんは、アンブリッジ先生」

ハリーとサクヤの声は揃って突っ張っていた。

「さあ、お座んなさい」

アンブリッジが指さした先には、レースの掛かった小さなテーブルと背もたれのまっすぐな椅子が、少し距離を取って背を向ける形で置かれている。
それぞれの机の上にはハリーたちのためと思われる羊皮紙が1枚用意されていた。

「あの」

ハリーは突っ立ったまま言った。

「アンブリッジ先生、あの――始める前に、先生に――お願いが」

アンブリッジの飛び出した目が細くなった。

「おや、なあに?」

「あの、僕たち……グリフィンドールのクィディッチのメンバーです。
金曜の17時に、新しいキーパーの選抜に行くことになっていて、それで――その晩だけ罰則を外せないかと思って。
別な――別な夜に……代わりに……」

言い終えるずっと前に、とうていだめだとわかった。

「ああ、だめよ」

アンブリッジは、いましがた殊更においしい蠅を飲み込んだかのように、ニターッと笑った。

「そこをなんとか、できないでしょうか……。
さらに2回分でも、3回分でも余分に罰則を受けます――」

食い下がるサクヤに、アンブリッジのニタニタ笑いがさらに深くなった。

「ええ、もちろんダメ。ダメ、ダメよ。
たちの悪い、いやな、目立ちたがりのでっち上げ話を広めた罰ですからね、ミスター・ポッター。
それに、罰則に余分も何もないのよミス・フェリックス。
罰というのは当然、罪人の都合に合わせるわけにはいきません。だめです。
あなたたちは明日17時にここに来るし、次の日も、金曜日も来るのです。
そして予定どおり罰則を受けるのです。
あなたたちが本当にやりたいことができないのは、かえっていいことだと思いますよ。
わたくしが教えようとしている教訓が強化されるはずです」

ハリーは頭に血が上ってくるのを感じ、耳の奥でドクンドクンという音が聞こえた。
それじゃ僕は、質の悪い、いやな、目立ちたがりのでっち上げ話をしたって言うのか?
隣で深く息を吸い込む音が聞こえたので、ハリーも真似をしてこの怒りをなんとか落ち着けようとした。
アンブリッジはニタリ笑いのまま小首を傾げ、2人を見つめていた。
ハリーやサクヤが何を考えているかずばりわかっているという顔で、ハリーがまた怒鳴りだすかどうか、サクヤがさらに歯向かってくるかどうか様子を見ているようだった。
ハリーは、力を振り絞ってアンブリッジから顔を背け、鞄を椅子の脇に置いて片方の机に腰掛けた。
振り返ると、もう片方の椅子にどかっとサクヤが座った。彼女も怒りをやり過ごすことに成功したようだ。

「ほうら」

アンブリッジがやさしく言った。

「もうわたくしに従うのが上手になってきたでしょう?
さあ、ミスター・ポッター、ミス・フェリックス、書き取り罰則をしてもらいましょうね。
いいえ、あなたたちの羽根ペンでではないのよ」

ハリーが鞄を開くとアンブリッジが言い足した。

「ちょっと特別な、わたくしのを使うのよ。はい」

アンブリッジが細長い黒い羽根ペンをそれぞれに配った。
異常に鋭いペン先がついている。

「書いてちょうだいね。
『私は嘘をついてはいけない』って」

アンブリッジが柔らかに言った。

「何回ですか?」

サクヤが無機質に訊ねた。

「ああ、その言葉が滲み込むまでよ。
ミスター・ポッター、いちいち振り返らなくてよろしい」

アンブリッジが甘い声のまま言った。

「さあ始めて」

アンブリッジ先生は自分の机に戻り、積み上げた羊皮紙の上に屈み込んだ。
採点するレポートのようだ。
ハリーは鋭い黒羽根ペンを取り上げたが、足りないものに気づいた。

「インクがありません」

「ああ、インクは要らないの」

アンブリッジ先生の声に微かに笑いがこもっていた。
ハリーは羊皮紙に羽根ペンの先をつけて書いた。

"私は嘘をついてはいけない"

ハリーは痛みでアッと息を呑んだ。
赤く光るインキで書かれたような文字が、てらてらと羊皮紙に現れた。
同時に、左手の甲に同じ文字が現れた。
メスで文字をなぞったかのように皮膚に刻み込まれている――しかし、光る切り傷を見ているうちに、皮膚は元どおりになった。
文字の部分に微かに赤みがあったが、皮膚は滑らかだった。
背後でもサクヤの小さな息を漏らす音が聞こえてきたので、同じようなことが起こっているらしい。

ハリーはアンブリッジを見た。向こうもハリーを見ている。
それからサクヤのほうへ目を移したので、彼女ももしかしたらアンブリッジを見ているのかもしれない。
ガマのような大口が横に広がり、笑いの形になっていった。

「何か?」

「いえ」

「なんでもありません」

ハリーとサクヤが静かに言った。
ハリーは羊皮紙に視線を戻し、もう一度羽根ペンを立てて、"私は嘘をついてはいけない"と書いた。
またしても焼けるような痛みが手の甲に走った。
再び文字が皮膚に刻まれ、すぐにまた治った。
それが延々と続いた。
何度も何度も、ハリーは羊皮紙に文字を書いた。
インクではなく自分の血だということに、ハリーはすぐに気づいた。
そして、そのたびに文字は手の甲に刻まれ、治り、次に羽根ペンで羊皮紙に書くとまた現れた。

窓の外が暗くなった。
いつになったらやめてよいのか、ハリーもサクヤも聞かなかった。
腕時計さえチェックしなかった。
アンブリッジが見ているのがわかっていた。
2人が弱る兆候を待っているのがわかっていた。
机が離して置かれている理由もよくわかった。
弱みを見せてなるものか。
ひと晩中ここに座って、羽根ペンで手を切り刻み続けることになっても……。



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