The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「たくさんだわ!」
ハーマイオニーはフレッドとジョージに強硬に言い放った。
2人ともちょっと驚いたようにハーマイオニーを見た。
「うん、そのとおりだ」
ジョージが頷いた。
「たしかに、この用量で十分効くな」
「今朝言ったはずよ。
こんな怪しげなもの、生徒に試してはいけないって」
「ちゃんとお金を払ってるぞ」
フレッドが憤慨した。
「関係ないわ。危険性があるのよ!」
「バカ言うな」
フレッドが言った。
「大丈夫なんだよな?」
サクヤが床に転がり気絶している1年生の女の子を抱え上げ、椅子にもたれ掛からせながら訊いた。
「カッカするなよ、ハーマイオニー。こいつら大丈夫だから!
サクヤ、その子にこいつを食べさせてやれ」
リーが紫色のキャンディをサクヤに投げてよこし、自分も他の1年生の開いた口に次々に押し込みながら請け合った。
キャッチしたサクヤが女の子の口にキャンディを含ませると、女の子の目がパッと開いた。
「ほんとだ。
もう平気か?気分は悪くない?」
椅子の前に跪いて目線を合わせたサクヤが女の子に聞くと、目を見開いていた女の子はこっくりと頷いた。
「ほら、みんなもう気がつきだした」
ジョージが言った。
たしかに他の何人かの1年生がゴソゴソ動きだしていた。
床に転がったり、椅子からぶら下がっているのに気づいて、何人かがショックを受けたような顔をしたところを見ると、フレッドとジョージは、菓子がどういうものかを事前に警告していなかったに違いない、とハリーは思った。
サクヤは1年生の1人ひとりの調子を注意深く見て回った。
軽いショック状態のままだった1年生たちは、サクヤが頭をなでたり、背中をぽんぽんと叩いたりすると、ほっと息をついたようだ。
「大丈夫かい?」
自分の足下に転がっていた黒い髪の小さな女の子に、ジョージがやさしく言った。
「だ――大丈夫だと思う」
女の子が弱々しく言った。
「サクヤのほうも、みんな大丈夫そう?」
フレッドが訊ねた。
「うん。意識も全員はっきりしてるよ」
サクヤが振り返って答えた。
「よーし」
フレッドがうれしそうに言った。
しかし次の瞬間、ハーマイオニーがクリップボードと「気絶キャンディ」の紙袋をフレッドの手から引ったくった。
「よーし、じゃ
ありません!」
「もちろん、よしだよ。みんな生きてるぜ、え?」
フレッドが怒ったように言った。
「こんなことをしてはいけないわ。
もし1人でも本当に病気になったらどうするの?」
「病気になんかさせないさ。全部自分たちで実験ずみなんだ。
これは単に、みんなおんなじ反応かどうかを――」
「やめないと、私――」
「罰則を科す?」
フレッドの声は、お手並み拝見、やってみろと聞こえた。
「書き取りでもさせてみるか?」
ジョージがニヤリとした。
見物人がみんな笑った。
ハーマイオニーはぐっと背筋を伸ばし、眉をぎゅっと寄せた。
豊かな髪が電気でバチバチ火花を散らしているようだった。
「違います」
ハーマイオニーの声は怒りで震えていた。
「でも、あなた方のお母さんに手紙を書きます」
「よせ」
ジョージが怯えてハーマイオニーから1歩退いた。
「ええ、書きますとも」
ハーマイオニーが厳めしく言った。
「あなたたち自身がバカな物を食べるのは止められないけど、1年生に食べさせるのは許せないわ」
フレッドとジョージは雷に撃たれたような顔をしていた。
ハーマイオニーの脅しは残虐非道だと思っているのが明らかだった。
もう一度脅しの睨みをきかせ、ハーマイオニーはクリップボードとキャンディの袋をフレッドの腕に押しつけると、暖炉近くの席まで闊歩して戻った。
その後ろでサクヤは1年生たちにひらひらと手を振り――1年生たちも恐る恐るといった様子だが、手を振り返した――、それからフレッドとジョージをこっそり小突いていた。
ロンは暖炉近くの椅子の中で身を縮めていたので、鼻の高さと膝の高さがほとんど同じだった。
「ご支援を感謝しますわ、ロン」
ハーマイオニーが辛辣に言った。
「君1人で立派にやったよ」
ロンはモゴモゴ言った。
ハーマイオニーは何も書いていない羊皮紙をしばらく見下ろしていたが、やがてピリピリした声で言った。
「ああ、だめだわ。もう集中できない。寝るわ。
サクヤはどうする?」
「んー、オレも部屋に戻ろうかな。静かな方が集中できるだろうし」
サクヤは鞄に教科書を押し込みはじめた。
ハーマイオニーも鞄をぐいと開けたが、教科書をしまうためではないことにハリーは気がついた。
歪な形の毛糸編みを2つひっぱり出し、暖炉脇のテーブルにそっと置いたのだ。
そして、ハーマイオニーはくしゃくしゃになった羊皮紙の切れ端2,3枚と折れた羽根ペンで覆い、その効果を味わうようにちょっと離れてそれを眺めた。
「あいつ、何をおっぱじめたんだ?」
ロンは正気を疑うような目でハーマイオニーを見ながら、サクヤに耳打ちした。
「屋敷しもべ妖精用の帽子だってさ」
サクヤが肩をすくめた。
ハーマイオニーは満足げに頷くと、今度こそ教科書を鞄にしまいはじめた。
「夏休みに作ったの」
ハーマイオニーがロンにきびきびと言った。耳打ちは聞こえていたようだ。
「私、魔法を使えないと、とっても編むのが遅いんだけど、もう学校に帰ってきたから、もっとたくさん作れるはずだわ」
「しもべ妖精の帽子を置いとくのか?」
ロンが今度はハーマイオニーに直接、ゆっくりと言った。
「しかも、まずゴミくずで隠してるのか?」
「そうよ」
ハーマイオニーは鞄を肩にひょいと掛けサクヤを促しながら、ロンに挑戦するように言った。
「そりゃないぜ」
ロンが怒った。
「連中を騙して帽子を拾わせようとしてる。
自由になりたがっていないのに、自由にしようとしてるんだ」
「もちろん自由になりたがってるわ!」
ハーマイオニーが即座に言った。しかし、顔がほんのり赤くなった。
「絶対帽子に触っちゃダメよ、ロン!」
「おやすみ、ハリー、ロン」
ハーマイオニーはサクヤの腕を引いて行ってしまった。
ロンはハーマイオニーの姿が女子寮のドアの中に消えるまで待って、それから毛糸の帽子を覆ったゴミを払った。
「少なくとも、何を拾っているか見えるようにすべきだ」
ロンがきっぱり言った。
「とにかく……」
ロンはスネイプのレポートの題だけ書いた羊皮紙を丸めた。
「これをいま終らせる意味はない。ハーマイオニーがいないとできない。
月長石を何に使うのか、僕、さっぱりわかんない。君は?」
ハリーは首を振ったが、そのとき、右のこめかみの痛みがひどくなっているのに気づいた。
巨人の戦争に関する長いレポートのことを考えると、ズキンと刺すような痛みが走った。
今晩中に宿題を終えないと、朝になって後悔することはよくわかっていたが、ハリーは本をまとめて鞄にしまった。
「僕も寝る」
男子寮のドアに向かう途中、シェーマスの前を通ったが、ハリーは目を合わせなかった。
一瞬、シェーマスがハリーに話しかけようと、口を開いたような気がしたが、そのまま足を速めた。
石の螺旋階段に辿り着くと、もう誰の挑発に耐える必要もない平和な安らぎが、そこにはあった。
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