The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




その夜の大広間での夕食は、ハリーやサクヤにとって楽しいものではなかった。
アンブリッジとの怒鳴り合い試合のニュースは、ホグワーツの基準に照らしても例外的な速さで伝わった。
ロンとハーマイオニーに挟まれて食事をしていても、2人の耳には周囲からの囁きが聞こえてきた。
おかしなことに、ひそひそ話の主は、話の内容を当の本人たちに聞かれても誰も気にしないようだった。
逆に、ハリーが腹を立ててまた怒鳴りだせば、サクヤを突っつけば、直接本人から話が聞けると期待しているようだった。

「セドリック・ディゴリーが殺されるのを見たって言ってる……」

「『例のあの人』と決闘したと言ってる……」
 
「まさか……」

「誰がそんな話に騙されると思ってるんだ?」

まーったくだ……

「僕にはわからない」

両手が震え、ナイフとフォークを持っていられなくなってテーブルに置きながら、ハリーが声を震わせた。

「2ヵ月前にダンブルドアが話したときは、どうしてみんな信じたんだろう……」

「要するにね、ハリー、信じたかどうか怪しいと思うわ」

ハーマイオニーが深刻な声で言った。
サクヤも食欲がなくなったようで、フォークでポテトを小突いていた。

「ああ、もうこんなところ、出ましょう」

ハーマイオニーも自分のナイフとフォークをドンと置いたが、ロンはまだ半分残っているアップルパイを未練たっぷりに見つめてから、ハーマイオニーに倣った。
4人が大広間から出ていくのを、みんなが驚いたように目で追った。

「ダンブルドアを信じたかどうか怪しいって、どういうこと?」

ハリーは2階の踊り場まで来たとき、ハーマイオニーに聞いた。

「ねえ、あの出来事のあとがどんなだったか、あなたにはわかっていないのよ」

ハーマイオニーが小声で言った。

「芝生の真ん中に、あなたとサクヤがセドリックの亡骸をしっかりつかんで帰ってきたわ……迷路の中で何が起こったのか、私たちは誰も見てない……。
ダンブルドアが、『例のあの人』が帰ってきてセドリックを殺し、あなたたちと戦ったと言った言葉を信じるしかない」

「それが真実だ!」

ハリーが大声を出した。

「ハリー、わかってるわよ。
お願いだから、噛みつくのをやめてくれない?」

ハーマイオニーがうんざりしたように言った。

「問題は、真実が心に染み込む前に、夏休みでみんなが家に帰ってしまったことよ。
それから2ヶ月も、あなたたちが狂ってるとかダンブルドアが老いぼれだとか読まされて!」

「あのとき、本当の意味で信じてくれたひとが何人いるか……。
思ってるより少ないって考えておいたほうがよさそうだな」

シェーマスやラベンダーの顔を思い出しながら、サクヤが眉を下げた。

「半信半疑だったひとたちはほとんど、この2ヶ月間の新聞で疑うほうに傾いてしまったのは認めざるをえないでしょうね」

ハーマイオニーがサクヤの腕をさすった。

「でも僕たちは誰よりもハリーとサクヤのことを信じてる。そうだろ?」

ロンがハーマイオニーに言った。
ハーマイオニーもすぐさま「当然よ」と頷いた。

「そのことが、なによりの救いだよ」

暖かい気持ちがあふれたサクヤが、ロンとハーマイオニーににっこりと笑った。

4人は足早にグリフィンドール塔に戻った。廊下には人気もなく、雨が窓ガラスを打っていた。
学期初日が、ハリーには1週間にも感じられた。
寝る前に、まだ山のような宿題に手をつけなければならないのだが、眠たいのか、サクヤが目をこすっている。
ハリーの右目の上に、ズキンズキンと鈍い痛みが走りはじめた。
「太った婦人」に続く廊下へと最後の角を曲がるとき、ハリーは雨に濡れた窓を通して、暗い校庭に目をやった。
ハグリッドの小屋には、まだ灯りがない。

「ミンビュラス ミンブルトニア」

ハーマイオニーは「太った婦人」に催促される前に唱えた。
肖像画がパッと開いてその裏の穴が現れると、4人はそこをよじ登った。

談話室はほとんど空っぽだった。
まだ大部分の生徒が下で夕食を食べている。
丸くなって寝ていたクルックシャンクスが肘掛椅子から下り、トコトコと4人を迎え、大きくゴロゴロと喉を鳴らした。
ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーが、お気に入りの暖炉近くの椅子に座ると、クルックシャンクスはハーマイオニーの膝にぽんと飛び乗り、ふわふわしたオレンジ色のクッションのように丸まった。
ハリーはすっかり力が抜け、疲れ果てて暖炉の火を見つめた。

「ダンブルドアはどうしてこんなことを許したの?」

ハーマイオニーが突然叫び、3人は飛び上がった。
クルックシャンクスも膝から飛び降り、気分を害したような顔をした。
ハーマイオニーが怒って椅子の肘掛けをバンバン叩くので、穴から詰め物がはみ出してきた。

「あんなひどい女に、どうして教えさせるの?しかもOWLの年に!」

「でも、『闇の魔術に対する防衛術』じゃ、ルーピン先生以外に、すばらしい先生なんていままでいなかっただろ?」

ハリーが言った。

「ほら、なんて言うか、ハグリッドが言ったじゃないか、誰もこの仕事に就きたがらない。呪われてるって」

「そうよ。
でも私たちが魔法を使うことを拒否する人を雇うなんて!
ダンブルドアはいったい何を考えてるの?」

「しかもあいつは、生徒を自分のスパイにしようとしてる」

ロンが暗い顔をした。

「憶えてるか?
誰かが『例のあの人』が戻ってきたって言うのを聞いたら話しにきてくださいって、あいつそう言ったろ?」

「もちろん、あいつは私たち全員をスパイしてるわ。わかりきったことじゃない。
そうじゃなきゃ、そもそもなぜファッジが、あの女をよこしたがるっていうの?」

「また言い争いを始めたりするなよ」

ロンが反論しかけたので、ハリーがうんざりしたように言った。
サクヤが仕切りなおすように「よしっ」と膝を叩き、伸びながら立ち上がった。

「宿題、やっつけちまおうぜ。溜め込むと絶対ヤバいって予感がする」

4人は隅のほうにカバンを取りにいき、また暖炉近くの椅子に戻った。
他の生徒も夕食から戻りはじめていた。
ハリーは肖像画の穴から顔を背けていたが、それでもみんながじろじろ見る視線を感じていた。

「最初にスネイプのをやるか?」

ロンが羽根ペンをインクに浸した。

月長石の特性……魔法薬調合に関する……その用途

ロンはブツブツ言いながら、羊皮紙の一番上にその言葉を書いた。

「そーら」

ロンは題に下線を引くと、ハーマイオニーの顔を期待を込めて見上げた。

「それで、月長石の特性と、魔法薬調合に関するその用途は?」

「ぅおい!」

サクヤの肘が机からずり落ちた。
ハーマイオニーに頼る気満々なロンの頭を羊皮紙の束で軽く叩いたが、当のハーマイオニーはロンの言葉を聞いていなかった。
眉をひそめて部屋の一番奥の隅を見ている。
そこには、フレッド、ジョージ、リー・ジョーダンが、無邪気な顔の1年生のグループの真ん中に座っていた。
1年生はみんな、フレッドが持っている大きな紙袋から出した何かを噛んでいるところだった。

「だめ。残念だけど、あの人たち、やりすぎだわ」

ハーマイオニーが立ち上がった。完全に怒っている。

「さあ、ロン」

「僕――なに?」

ロンは明らかに時間稼ぎをしている。

「だめだよ――あのさぁ、ハーマイオニー――お菓子を配ってるからって、あいつらを叱るわけにはいかない」

「わかってるくせに。
あれは『鼻血ヌルヌル・ヌガー』か――それとも『ゲーゲー・トローチ』か――」

「『気絶キャンディ』?」

ハリーがそっと言った。
1人、また1人と、まるで見えないハンマーで頭を殴られたように、1年生が椅子に座ったままコトリと気を失った。
床に滑り落ちた者もいたし、舌をだらりと出して椅子の肘掛けにもたれるだけの者もいた。
見物人の大多数は笑っていたが、ハーマイオニーは肩を怒らせ、フレッドとジョージのほうにまっすぐ行進していった。
少しの迷う動作の後、サクヤもそれに続いた。
双子はメモ用のクリップボードを手に、気を失った1年生を綿密に観察していた。
ロンは椅子から半分立ち上がり、中腰のままちょっと迷って、それからハリーにゴニョゴニョと言った。

「ハーマイオニーがちゃんとやってる」

そして、ひょろ長い身体を可能なかぎり縮めて椅子に身を沈めた。



_

( 70/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]



- ナノ -