The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「あなたのお名前は?」

アンブリッジ先生がディーンに聞いた。

「ディーン・トーマス」

「それで?ミスター・トーマス?」

「ええと、ハリーの言うとおりでしょう?」

ディーンが言った。

「もし僕たちが襲われるとしたら、危険のない方法なんかじゃない」

「もう一度言いましょう」

アンブリッジ先生は、人をイライラさせるような笑顔をディーンに向けた。

「このクラスで襲われると思うのですか?」

「いいえ、でも――」

アンブリッジ先生はディーンの言葉を押さえ込むように言った。

「この学校のやり方を批判したくはありませんが」

先生の大口に、曖昧な笑いが浮かんだ。

「しかし、あなた方は、これまで、たいへん無責任な魔法使いたちに曝されてきました。
非常に無責任な――言うまでもなく」

先生は意地悪くフフッと笑った。

「非常に危険な半獣もいました」

「ルーピン先生のことを言ってるなら」

ついにサクヤの手が挙がった。
アンブリッジ先生とは対照的に、サクヤはただそれだけでクラス中をしんとさせた。
他の誰にも反論させまいというような強い口調だ。

「いままでで最高の先生だった」

「発言は当てられてからするように、ミス・フェリックス!
いま言いかけていたように――みなさんは、年齢にふさわしくない複雑で不適切な呪文を――しかも命取りになりかねない呪文を教えられてきました。
恐怖に駆られ、1日おきに闇の襲撃を受けるのではないかと信じ込むようになったのです――」

「そんなことはありません」

ハーマイオニーが言った。

「私たちはただ――」

手が挙がっていません、ミス・グレンジャー!

ハーマイオニーが手を挙げた。
アンブリッジ先生がそっぽを向いた。

「わたくしの前任者は違法な呪文をみなさんの前でやって見せたばかりか、実際みなさんに呪文をかけたと理解しています」

「でも、あの先生は狂っていたと、あとでわかったでしょう?」

ディーンが熱くなった。

「だけど、ずいぶんいろいろ教えてくれた」

手が挙がっていません、ミスター・トーマス!

アンブリッジ先生は甲高く声を震わせた。

「さて、試験に合格するためには、理論的な知識で十分足りるというのが魔法省の見解です。
結局学校というものは、試験に合格するためにあるのですから。
それで、あなたのお名前は?」

アンブリッジ先生が、いま手を挙げたばかりのパーバティを見て聞いた。

「パーバティ・パチルです。
それじゃ、『闇の魔術に対する防衛術』OWLには、実技はないんですか?
実際に反対呪文とかやって見せなくてもいいんですか?」

「理論を十分に勉強すれば、試験という慎重に整えられた条件の下で、呪文がかけられないということはありえません」

アンブリッジ先生が、素っ気なく言った。

「それまで一度も練習しなくても?」

パーバティが信じられないという顔をした。

「初めて呪文を使うのが試験場だとおっしゃるんですか?」

「繰り返します。理論を十分に勉強すれば」

「それで、理論は実社会でどんな役に立つんですか?」

ハリーはまた拳を突き上げて大声で言った。
アンブリッジ先生が眼を上げた。

「ここは学校です。ミスター・ポッター。実社会ではありません」

先生が猫撫で声で言った。

「それじゃ、外の世界で待ち受けているものに対して準備しなくていいんですか?」

「外の世界で待ち受けているものは何もありません。ミスター・ポッター」

「へえ、そうですか?」

朝からずっとふつふつ煮えたぎっていたハリーの癇癪が、沸騰点に達しかけた。

「外の世界では、手をこまねいてオレを待っていますよ。奴らがね」

サクヤが手を挙げ、挑戦的に言った。
ハーマイオニーはさっと目配せした。
サクヤが城から出られないことは、この場では他にハリーとロンしか知らないし、その理由はハーマイオニー本人しか知らない。
実際に、外の世界に出たとたん一度襲われたことを、アンブリッジ先生はともかく、他の生徒たちは誰も知らない。
サクヤの言葉の説得力は、ハーマイオニーたちにしかわからないのだ。
アンブリッジ先生からは、明らかに嘲笑と分かる笑顔が貼り付けられた。

「奴らとは?あなた方のような子どもを、誰が襲うと思っているの?」

アンブリッジ先生の声はぞっとするような甘ったるいものだった。

「そうですね、例えば――」

ハリーも挑戦的に続いた。

ヴォルデモート卿とか」

ロンが息を呑んだ。
ラベンダー・ブラウンはキャッと悲鳴をあげ、ネビルは椅子から横にずり落ちた。
しかし、アンブリッジ先生はぎくりともしない。
気味の悪い満足げな表情を浮かべて、ハリーをじっと見つめていた。

「グリフィンドール、各10点減点です。ミスター・ポッター、ミス・フェリックス」

教室中がしんとして動かなかった。
みんながアンブリッジ先生かハリーかサクヤを見ていた。

「さて、いくつかはっきりさせておきましょう」

アンブリッジ先生が立ち上がり、ずんぐりした指を広げて机の上につき、身を乗り出した。

「みなさんは、ある闇の魔法使いが戻ってきたという話を聞かされてきました。
死から蘇ったと――」

「あいつは死んでいなかった」

ハリーが怒った。

「だけど、ああ、蘇ったんだ!」

「ミスター・ポッターあなたはもう自分の寮に10点失わせたのにこれ以上自分の立場を悪くしないよう」

アンブリッジ先生は、ハリーを見ずにこれだけの言葉を一気に言った。

「いま言いかけていたように、みなさんは、ある闇の魔法使いが再び野に放たれたという話を聞かされてきました。これは嘘です

「嘘じゃない!」

ハリーが言った。

「僕たちは見た。僕とサクヤはあいつと戦ったんだ!」

「罰則です。ミスター・ポッター!」

アンブリッジ先生が勝ち誇ったように言った。

「明日の夕方。17時。わたくしの部屋で。
もう一度言いましょう。これは嘘です
魔法省は、みなさんに闇の魔法使いの危険はないと保証します。
まだ心配なら、授業時間外に、遠慮なくわたくしに話をしにきてください。
闇の魔法使い復活など、たわいのない嘘でみなさんを脅かす者がいたら、わたくしに知らせてください。
わたくしはみなさんを助けるためにいるのです。みなさんのお友達です。
さて、ではどうぞ読み続けてください。5ページ、『初心者の基礎』」

アンブリッジ先生は机の向こう側に腰掛けた。
しかし、サクヤは立ち上がった。みんながサクヤを見つめていた。
シェーマスは半分恐々、半分感心したように見ていた。

「サクヤ、ダメよ!」

ハーマイオニーがサクヤの袖を引いて、警告するように囁いた。
サクヤはハーマイオニーに目を向け、首を横に振った。
それから教壇の方へ目を向け、深く息を吸った。

「ヴォルデモートの手にかかって、1人の生徒が亡くなっているんですよ」

サクヤの静かな声は震えていた。
名前を出さずとも、誰のことを言っているのかはみんなが分かった。
クラス中が一斉に息を呑んだ。
ロンとハーマイオニー以外は、セドリックが死んだあの夜の出来事をハリーやサクヤの口から聞いたことがなかったからだ。

「その本人に、ご遺族に、失礼だと思わないのですか」

ハリーがサクヤを見上げると、右手で左腕をぎゅっと握りしめていた。
泣き出してこそいないものの、目元に光るものが見え、唇はこれ以上震えないよう、キッと結ばれている。
そこでハリーは、やっと身に染みて感じた。
サクヤは元気そうに見えていただけで、夏休みじゅうハリーが抱えていたのと同じか、それ以上の気持ちを味わい続けてきたのだと。
みんなも貪るようにサクヤを、そしてアンブリッジ先生を見ていた。
アンブリッジ先生は目を吊り上げ、サクヤを見据えた。
顔からいっさいの作り笑いが消えていた。

「セドリック・ディゴリーの死は、悲しい事故です」

先生が冷たく言った。

「それは彼に対する、ひどい侮辱の言葉です。撤回を求めます」

サクヤが深い悲しみや、激しい怒りを抑え込んだ、いやに静かな、震える声で言った。
射抜くような目で、アンブリッジ先生を見続けている。もうほとんど睨みつけている状態だ。

「セドリックは、殺されたんだ。撤回してください」

声だけではなく、身体じゅうが震えているのがハリーにもわかった。
これはまだほとんど誰にも話していないことだった。
ましてや30人もの生徒が熱心に聞き入っている前で話すのは初めてだ。
それをサクヤだけに言わせるわけにはいかない。僕だって我慢の限界だ。ハリーも立ち上がった。

「ヴォルデモートがセドリックを殺した。先生もそれを知っているはずだ」

アンブリッジ先生は無表情だった。
一瞬、ハリーは先生が自分たちに向かって絶叫するのではないかと思った。
しかし、先生はやさしい、甘ったるい女の子のような声を出した。

「ミス・フェリックス、わたくしは撤回しませんよ。反抗的なその目……あなたにも罰則が必要のようね。
いい子だから、2人ともこっちへいらっしゃい」

ハリーは椅子を脇に蹴飛ばし、ロンとハーマイオニーの後ろを通り、大股で先生の机のほうに歩いていった。サクヤもそれに続いた。
クラス中が息をひそめているのを感じた。
怒りのあまり、ハリーは次に何が起ころうとかまうもんかと思った。

アンブリッジ先生はハンドバッグから小さなピンクの羊皮紙をひと巻取り出し、机に広げ、ペンをインク瓶に浸して書きはじめた。
ハリーとサクヤに書いているものが見えないように、背中を丸めて覆い被さっている。
誰もしゃべらない。
1分かそこら経ったろうか、先生は羊皮紙を丸めで叩いて継ぎ目なしの封をし、ハリーたちが開封できないようにした。

「さあ、これをマクゴナガル先生のところへ持っていらっしゃいね」

アンブリッジ先生は手紙1通、2人に差し出した。
ハリーが受け取り、ひと言も言わずに――ロンとハーマイオニーのほうを見もせずに――サクヤを連れて教室を出て、ドアをバタンと閉めた。




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