The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「静まれ」

スネイプは戸を閉め、冷たく言った。
静粛にと言う必要はなかった。戸が閉まる音を聞いたとたん、クラスはしんとなり、そわそわもやんだ。
たいていスネイプがいるだけで、クラスが静かになること請け合いだ。

「本日の授業を始める前に」

スネイプはマントを翻して教壇に立ち、全員をじろりと見た。

「忘れぬようはっきり言っておこう。
来る6月、諸君は重要な試験に臨む。
そこで魔法薬の成分、使用法につき諸君がどれほど学んだかが試される。
このクラスの何人かはたしかに愚鈍であるが、我輩は諸君にせいぜいOWL合格すれすれの『可』を期待する。
さもなくば我輩の……不興を被る」

スネイプのじろりが今度はネビルを睨めつけた。
ネビルがゴクッと唾を飲んだ。

「言うまでもなく、来年から何人かは我輩の授業を去ることになろう」

スネイプは言葉を続けた。

「我輩は、もっとも優秀なる者にしかNEWTレベルの『魔法薬』の受講を許さぬ。
つまり、何人かは必ずや別れを告げるということだ」

スネイプの目がハリーを見据え、薄ら笑いを浮かべた。
5年目が終わったら、「魔法薬」をやめられると思うと、ぞくっとするような喜びを感じながら、ハリーも睨み返した。

「しかしながら、幸福な別れのときまでにまだ1年ある」

スネイプが低い声で言った。

「であるから、NEWTテストに挑戦するつもりか否かは別として、我輩が教える学生には、高いOWL合格率を期待する。
そのために全員努力を傾注せよ」

「今日は、普通魔法使いレベル試験にしばしば出てくる魔法薬の調合をする。
『安らぎの水薬』。不安を鎮め、動揺を和らげる。
注意事項。成分が強すぎると、飲んだ者は深い眠りに落ち、ときにはそのままとなる。
故に、調合には細心の注意を払いたまえ」

ハリーの左側で、ハーマイオニーが背筋を正し、細心の注意そのものの表情をしている。
その隣ではサクヤがノートをとっていた。

「成分と調合法は――」

スネイプが杖を振った。

「黒板にある」(黒板に現れた)

「必要な材料はすべて――」

スネイプがもう一度杖を振った。

「薬棚にある」(その薬棚がパッと開いた)

「――1時間半ある……始めたまえ」

ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーが予測したとおり、スネイプの課題は、これ以上しち面倒臭い厄介な薬はあるまいというものだった。
材料は正確な量を正確な順序で大鍋に入れなければならなかった。
混合液は正確な回数掻き回さなければならない。
初めは右回り、それから左回りだ。
ぐつぐつ煮込んで、最後の材料を加える前に、炎の温度をきっちり定められたレベルに下げ、定められた何分かその温度を保つのだ。

「薬から軽い銀色の湯気が立ち昇っているはずだ」

あと10分というときに、スネイプが告げた。
ハリーは汗びっしょりになっていて、絶望的な目で地下牢教室を見回した。
ハリーの大鍋からは灰黒色の湯気が漆々と立ち昇っていた。
ロンのは緑の火花が上がり、シェーマスは、鍋底の消えかかった火を杖で、必死で掻き起こしていた。
しかし、ハーマイオニーの液体からは、軽い銀色の湯気がゆらゆらと立ち昇っていた。
サクヤのも同様に軽い銀色の湯気だ。サクヤは嬉しそうに額の汗を拭った。
スネイプがそばをさっと通り過ぎ、鉤鼻の上から見下ろしたが、何も言わなかった。ハーマイオニーとサクヤの水薬は、文句のつけようがなかったのだ。
しかし、ハリーの大鍋のところで立ち止まったスネイプは、ぞっとするような薄ら笑いを浮かべて見下ろした。

「ポッター、これは何のつもりだ?」

教室の前のほうにいるスリザリン生が一斉に振り返った。
スネイプがハリーを嘲るのを聞くのが大好きなのだ。

「『安らぎの水薬』」

ハリーは頑なに答えた。

「教えてくれ、ポッター」

スネイプが静かな声で言った。

「字が読めるのか?」

ドラコ・マルフォイが笑った。

「読めます」

ハリーの指が、杖をぎゅっと握り締めた。

「ポッター、調合法の3行目を読んでくれたまえ」

ハリーは目を凝らして黒板を見た。
いまや地下牢教室は色とりどりの湯気で霞み、書かれた文字を判読するのは難しかった。

「月長石の粉を加え、右に3回攪拌し、7分間ぐつぐつ煮る。
そのあと、バイアン草のエキスを2滴加える」

ハリーはがっくりした。
7分間のぐつぐつのあと、バイアン草のエキスを加えずに、すぐに4行目に移ったのだ。

「3行目をすべてやったか?ポッター?」

「いいえ」

ハリーは小声で言った。

「答えは?」

「いいえ」

ハリーは少し大きな声で言った。

「バイアン草を忘れました」

「そうだろう、ポッター。
つまりこのごった煮はまったく役に立たない。
『エバネスコ!消えよ!』」

ハリーの液体が消え去った。
残されたハリーは、空っぽの大鍋のそばにバカみたいに突っ立っていた。

「課題をなんとか読むことができた者は、自分の作った薬のサンプルを細口瓶に入れ、名前をはっきり書いたラベルを貼り、我輩がテストできるよう、教壇の机に提出したまえ」

スネイプが言った。

「宿題。
羊皮紙30cmに、月長石の特性と、魔法薬調合に関するその用途を述べよ。木曜に提出」

みんなが細口瓶を詰めているとき、ハリーは煮えくり返る思いで片づけをしていた。
僕の薬は、腐った卵のような臭気を発しているロンのといい勝負だ。
ネビルのだって、混合し立てのセメントぐらいに固くて、ネビルが鍋底から刮げ落としているじゃないか。
それなのに、今日の課題で零点をつけられるのはハリーだけだ。
ハリーは杖を鞄にしまい、椅子にドサッと腰掛けて、みんながスネイプの机にコルク栓をした瓶を提出しにいくのを眺めていた。
やっと終業のベルが鳴り、ハリーは真っ先に地下牢を出た。
サクヤとロン、ハーマイオニーが追いついたときには、もう大広間で昼食を食べはじめていた。
天井は今朝よりもどんよりとした灰色に変わっていた。雨が高窓を打っている。

「ほんとに不公平だわ」

ハリーの隣に座り、シェパード・パイをよそいながら、ハーマイオニーが慰めた。

「あなたの魔法薬はゴイルのほどひどくなかったのに。
ゴイルが自分のを瓶に詰めたとたんに、全部割れちゃって、ローブに火がついたわ」

「うん、でも」

ハリーは自分の皿を睨みつけた。

「スネイプが僕に公平だったことなんかあるか?」

「ないね、確かに」

サクヤが悲観的に答えた。
4人とも、スネイプとハリーの間の敵意が、ハリーがホグワーツに一歩踏み入れたときから絶対的なものだったと知っていた。

「私、今年は少しよくなるんじゃないかと思ったんだけど」

ハーマイオニーが失望したように言った。

「だって……ほら……」

ハーマイオニーは慎重にあたりを見回した。
両脇に少なくとも6人分ぐらいの空きがあり、テーブルのそばを通りかかる者もいない。

「……スネイプは騎士団員だし」

「毒キノコは腐っても毒キノコ」

ロンが偉そうに言った。

「スネイプを信用するなんて、ダンブルドアはどうかしてるって、僕はずっとそう思ってた。
あいつが『例のあの人』のために働くのをやめたって証拠がどこにある?」

「あなたに教えてくれなくとも、ロン、ダンブルドアにはきっと十分な証拠があるのよ」

ハーマイオニーが食ってかかった。

「あーあ、2人ともやめろよ」

ロンが言い返そうと口を開き、サクヤがまた止めに入る前に、ハリーが重苦しい声を出した。
ロンもハーマイオニーも怒った顔のまま、サクヤも口を開いたまま、固まった。

「いい加減にやめてくれないか?」

ハリーが言った。

「お互いに角突き合わせてばっかりだ。サクヤもそろそろ頭に来ないか?」

食べかけのシェパード・パイをそのままに、ハリーは返事も待たずに鞄を肩に引っ掛け、3人を残してその場を離れた。



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