The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「魔法史」は魔法界が考え出した最もつまらない学科である、というのが衆目の一致するところだった。
ゴーストであるビンズ先生は、ゼイゼイ声で唸るように単調な講義をするので、10分で強い眠気を催すこと請け合いだし、暑い日には5分で確実だ。
先生は決して授業の形を変えず、切れ目なしに講義し、その間生徒はノートを取る、というより、眠そうにぼーっと宙を見つめている。
ハリーとロンはこれまで落第すれすれでこの科目を取ってきたが、それは試験の前にハーマイオニーがノートを写させてくれたからだ。
ハーマイオニーだけが、ビンズ先生の催眠力に抵抗できるようだった。
サクヤは講義中の睡魔には抗えないものの、復習をきちんとしているらしく、ハーマイオニーのノートなしでもそれなりの成績を残していた。

今日は巨人の戦争について、45分の単調な唸りに苦しんだ。
最初の10分間だけ聞いて、ハリーはぼんやりと、他の先生の手にかかれば、この内容は少しはおもしろいかもしれないということだけはわかった。
しかし、そのあと、脳みそがついていかなくなった。
ハリーは羊皮紙の端を使い、サクヤに筆談をもちかけた。

"サクヤは夏休みのあいだ何をしてたの?スネイプの訓練って何?"

サクヤの方へ差し出すと、彼女はそれを読み、その下に返事を書いた。

"宿題と、訓練に追われるだけだったよ。でも、内容までは誰にも言わないようにって念を押されてる。ごめん。"

筆談に気が付いたロンも覗き込んできた。

"オッケー。じゃあ、その訓練ってのは、もう終わったの?夏休みの間だけで?"

サクヤは首を振った。

"いや、まだ続いてる。毎週日曜日の午後に練習することになってるんだ。"

ロンがうへぇ、と顔をしかめた。
日曜日にまでスネイプと顔を突き合わせ、何かの特訓を受けるなんてありえない、と言いたげな顔だ。
気が付いたハーマイオニーが3人をキッと睨みつけたので、筆談もついに終わりになった。

残りの35分、ハリーとロンは2人で羊皮紙の端でハングマンをして遊んだ。
サクヤはやがて空想するような顔でぼんやりとビンズ先生を見つめていたが、講義の内容はほとんど耳に届いていないだろうとハリーは思った。
ハーマイオニーは、時々思いっきり非難がましく横目でハリーとロンを睨んだ。

「こういうのはいかが?」

授業が終わって休憩に入るとき(ビンズ先生は黒板を通り抜けていなくなった)、ハーマイオニーが冷たく言った。

「今年はノートを貸してあげないっていうのは?」

「僕たち、OWLに落ちるよ」

ロンが言った。

「それでも君の良心が痛まないなら、ハーマイオニー……」

「あら、いい気味よ」

ハーマイオニーがぴしゃりと言った。

「サクヤみたいに聞こうと努力もしてないでしょう」

「してるよ」

ロンが言った。

「僕たちには君みたいな頭も、記憶力も、集中力もないだけさ――君は僕たちより頭がいいんだ――それに、サクヤみたいな根性もないし――僕たちに思い知らせて、さぞいい気分だろ?」

「まあ、バカなこと言わないでちょうだい」

そう言いながらも、湿った中庭へと2人の先に立って歩いていくハーマイオニーは、トゲトゲしさが少し和らいだようだった。

「根性だけで起きていたって、ほとんど講義を聞けてないけどね」

サクヤが大きく伸びながらハーマイオニーに続いた。
細かい霧雨が降っていた。中庭に塊まって立っている人影の輪郭がぼやけて見えた。
ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーはバルコニーから激しく雨だれが落ちてくる下で、他から離れた一角を選んだ。
冷たい9月の風に、ローブの襟を立てながら、4人は、スネイプが今学期最初にどんな課題を出すだろうかと話し合った。
2ヶ月の休みで生徒が緩んでいるところを襲うという目的だけでも、何か極端に難しいものを出すだろうということまでは意見が一致した。
そのとき誰かが角を曲がってこちらにやってきた。

「こんにちは、ハリー!」

チョウ・チャンだった。
しかも珍しいことに、今度もたった1人だ。
チョウはほとんどいつもクスクス笑いの女の子の集団に囲まれている。
クリスマス・パーティーに誘おうとして、なんとかチョウ独りのときを捕らえようと苦しんだことを、ハリーは思い出した。

「やあ」

ハリーは顔が火照るのを感じた。
少なくとも今度は、「臭液」を被ってはいない、とハリーは自分に言い聞かせた。チョウも同じことを考えていたらしい。

「それじゃ、あれは取れたのね?」

「うん」

ハリーは、この前の出会いが苦痛ではなく滑稽な思い出でもあるかのように、二ヤッと笑おうとした。

「それじゃ、君は……えー……いい休みだった?」

言ってしまったとたん、ハリーは言わなきゃよかったと思った――チョウはセドリックを想っていたし、その相手の死という思い出は、ハリーにとってもそうだったが、チョウの夏休みに暗い影を落としたに違いない。
チョウの顔に何か張りつめたものが走ったが、しかしチョウの答えは「ええ、まあまあ」だった。

「それ、トルネードーズのバッジ?」

ロンがチョウのローブの胸を指差して、唐突に聞いた。
金の頭文字「T」が2つ並んだ紋章の空色のバッジが留めてあった。

「ファンじゃないんだろう?」

「ファンよ」

チョウが言った。

「ずっとファンだった?それとも選手権に勝つようになってから?」

ロンの声には、不必要に非難がましい調子がこもっている、とハリーは思った。

「6歳のときからファンよ」

チョウが冷ややかに言った。

「それじゃ……またね、ハリー」

チョウは行ってしまった。
ハーマイオニーはチョウが中庭の中ほどに行くまで待って、それからロンに向き直った。

「気の利かない人ね!」

「えっ?僕はただチョウに――」

「チョウがハリーと2人っきりで話したかったのがわからないの?」

「それがどうした?そうすりゃよかったじゃないか。僕が止めたわけじゃ――」

「いったいどうして、チョウのクィディッチ・チームを攻撃したりしたの?」

「攻撃?僕、攻撃なんかしないよ。ただ――」

「チョウがトルネードーズを贔屓にしようがどうしようが勝手でしょ?

「おいおい、しっかりしろよ。
あのバッジを着けてるやつらの半分は、この前のシーズン中にバッジを買ったんだぜ――」

「だけど、そんなこと関係ないでしょう」

「本当のファンじゃないってことさ。流行に乗ってるだけで――」

「授業開始のベルだよ」

ロンとハーマイオニーが、ベルの音が聞こえないほど大声で言い争っていたので、ハリーはうんざりして言った。
2人のヒートアップはサクヤにもお手上げのようで、呆れ顔で仲裁に入っていたが、2人がスネイプの地下牢教室に着くまでずっと議論をやめなかった。
おかげで、ハリーはたっぷり考え込む時間があった――ネビルやロンと一緒にいるかぎり、チョウと1分でもまともな会話ができたら奇跡だ。
いままでの会話を思い出すと、どこかに逃げだしたくなる。

スネイプの教室の前に並びながら、しかし――とハリーは考えた――チョウはわざわざハリーと話そうと思って近づいてきたのではないか?
チョウはセドリックに片思いしていた(セドリックはサクヤのことが好きだったのだから)。
でもセドリックもチョウに対しては、少なくともダンスパートナーを申し込むくらいには気にかけていた。
そんなセドリックが死んだのに、ハリーのほうは三校対抗試合の迷路から生きて戻ってきた。
チョウに憎まれてもおかしくない。
それなのに、チョウはハリーに親しげに話しかけた。ハリーが狂っているとか、嘘つきだとか、恐ろしいことにセドリックの死に責任があるなどとは考えていないようだ……。
そうだ、チョウはわざわざ僕に話しにきた。2日のうちに2回も……。
そう思うと、ハリーはうきうきした。
スネイプの地下牢教室の戸がギーッと開く不吉な音でさえ、胸の中で膨れた小さな希望の風船を破裂させはしなかった。
ハリーはロンとハーマイオニー、サクヤに続いて教室に入り、いつものように4人で後方の席に着き、ロンとハーマイオニーから出てくるぷりぷり、イライラの騒音を無視した。
サクヤはもはや諦め、魔法薬学の教科書をパラパラと捲って眺めていた。



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