The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
翌朝、シェーマスは超スピードでローブを着て、ハリーがまだソックスも履かないうちに寝室を出ていった。
「あいつ、長時間僕と一緒の部屋にいると、自分も気が狂うと思ってるのかな?」
シェーマスのローブの裾が見えなくなったとたん、ハリーが大声で言った。
「気にするな、ハリー」
ディーンがカバンを肩に放り上げながら呟いた。
「あいつはただ……」
ディーンは、シェーマスがただなんなのか、はっきり言うことはできなかったようだ。
一瞬気まずい沈黙の後、ディーンもシェーマスに続いて寝室を出た。
ネビルとロンが、ハリーに「君が悪いんじゃない。あいつが悪い」という目配せをしたが、ハリーにはあまり慰めにはならなかった。
こんなことにいつまで耐えなければならないんだ?
「どうしたの?」
5分後、朝食に向かう途中、談話室を半分横切ったあたりで、ハリーとロンに追いついたハーマイオニーが聞いた。
今日の彼女の髪型はゆったりとしたハーフアップのようだ。その後ろではサクヤが大あくびをしている。
「2人とも、その顔はまるで――ああ、何てことを」
ハーマイオニーは談話室の掲示板を見つめた。新しい大きな貼り紙が出ていた。
ガリオン金貨がっぽり!
小遣いが支出に追いつかない?ちょっと小金を稼ぎたい? グリフィンドールの談話室で、フレッドとジョージのウィーズリー兄弟にご連絡を。 簡単なパート・タイム。ほとんど骨折りなし。 (お気の毒ですが、仕事は応募者の危険負担にて行われます) |
「あの2人、やるなぁ」
サクヤが感心したように言った。
「これはもう
やりすぎよ」
ハーマイオニーは、厳しい顔でフレッドとジョージが貼り出した掲示を剥がした。
その下のポスターには今学期初めての、週末のホグズミード行きが掲示されていて、10月になっていた。
「あの2人にひとこと言わないといけないわ、ロン」
ロンは大仰天した。
「どうして?」
「私たちが監督生だから!」
肖像画の穴をくぐりながらハーマイオニーが言った。
「こういうことをやめさせるのが私たちの役目です!」
ロンは何も言わなかった。
フレッドとジョージがまさにやりたいようにやっているのに、止めるのは気が進まない――ロンの不機嫌な顔は、ハリーにはそう読めた。
「それはそうと、ハリー、どうしたの?」
ハーマイオニーが話し続けた。
3人は老魔法使いや老魔女の肖像画が並ぶ階段を下りていった。
肖像画は自分たちの話に夢中で、4人には目もくれなかった。
「何かにとっても腹を立ててるみたいよ」
「シェーマスが、『例のあの人』のことで、ハリーが嘘ついてると思ってるんだ」
ハリーが黙っているので、ロンが簡潔に答えた。
サクヤとハーマイオニーが自分の代わりに2人分怒ってくれるだろうと、ハリーは期待していたが、ため息が2人分返ってきた。
「ええ、ラベンダーもそう思ってるのよ」
ハーマイオニーが憂鬱そうに言った。
「シェーマスもかぁ……。
このぶんだと、他にもそう思ってる人は多そうだな……」
サクヤもがっくり項垂れた。
「僕が嘘つきで目立ちたがり屋の間抜けかどうか、ラベンダーと楽しくおしゃべりしたんだろう?サクヤのことは無事庇えたかい?」
ハリーが大声で言った。
「違うわ」
ハーマイオニーが落ち着いて言った。
「ハリーとサクヤのことについてはあんたのお節介な大口を閉じろって、私はそう言ってやったわ。
ハリー、私たちにカリカリするのは、お願いだから、やめてくれないかしら。
だって、もし気づいてないなら言いますけどね、ロンも私も、もちろんサクヤも、あなたの味方なのよ」
一瞬、間が空いた。
「ごめん」
ハリーが小さな声で言った。
「いいのよ」
ハーマイオニーが威厳のある声で言った。
サクヤが首を振った。
「学年度末の宴会で、ダンブルドアが言ったことを覚えてない?」
ハリーとロンはポカンとしてサクヤを見た。
ハーマイオニーがまたため息をついた。
サクヤは仕方ないな、という顔で笑った。
「ヴォルデモートのことで、ダンブルドアはこう言ったはずだ」
――ロンがギョッと身を引いた――
「『不和と敵対感情を蔓延させる能力に長けておる。
それと戦うには、同じくらい強い友情と信頼の絆を示すしかない――』」
「君、どうしてそんなこと覚えていられるの?まるでハーマイオニーみたいだ」
ロンは称賛の眼差しでサクヤを見た。そのわきでハーマイオニーがキッとロンを睨んだ。
「当たり前だろ。これはかなり大事なことだと思ったから、しっかり聞いてた――」
「僕だって聞いてるよ。
それでも僕は、ちゃんと憶えてなくて――」
「要するに」
サクヤへ喰ってかかったロンに、ハーマイオニーは声を張りあげて遮った。
「こういうことが、ダンブルドアがおっしゃったことそのものなのよ。
『例のあの人』が戻ってきてまだ2ヵ月なのに、もう私たちは仲間内で争いはじめている。
組分け帽子の警告も同じよ。団結せよ、内側を強くせよ――」
「だけどハリーは昨夜いみじくも言ったぜ」
ロンが反論した。
「スリザリンと仲良くなれっていうなら――
無理だね」
「寮同士の団結にもう少し努力しないのは残念だわ」
ハーマイオニーが辛辣に言った。
4人は大理石の階段の下に辿り着いた。
4年生のレイブンクロー生が1列になって玄関ホールを通りかかり、ハリーとサクヤを見つけると群れを固めた。
群れを離れると2人に襲われるのを恐れているかのようだった。
「そうだとも。
まさに、あんな連中と仲良くするように努めるべきだな」
ハリーが皮肉った。
サクヤは息を短く吸って、吐いた。
「同じ寮のシェーマスやラベンダーですら、ああなんだ。
他の寮生からしたら、今はああいう態度なのも分かる。だから、オレは信用してもらえるまで、頑張るだけだ」
4人はレイブンクロー生のあとから大広間に入ったが、自然と教職員テーブルのほうに目が行ってしまった。
グラブリー-プランク先生が、天文学のシニストラ先生としゃべっていた。
ハグリッドは、いないことでかえって目立っていた。
魔法のかかった天井はハリーの気分を映して、惨めな灰色の雨雲だった。
「ダンブルドアは、グラブリー-プランクがどのぐらいの期間いるのかさえ言わなかった」
グリフィンドールのテーブルに向かいながら、ハリーが言った。
「たぶん……」
サクヤが見つめるなか、ハーマイオニーが考え深げに言った。
「なんだい?」
ハリーとロンが同時に聞いた。
「うーん……たぶんハグリッドがここにいないということに、あんまり注意を向けたくなかったんじゃないかな」
「注意を向けないって、どういうこと?」
ロンが半分笑いながら言った。
「気づかないほうが無理だろ?」
ハーマイオニーが反論する前に、ドレッドヘアの髪を長く垂らした背の高い黒人の女性が、つかつかとハリーとサクヤのほうに近づいてきた。
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