The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「なんだ、なんだ?」
ロンが戸口に現れ、目を丸くして、ハリーを、そしてシェーマスを見た。
ハリーはベッドに膝立ちし、杖をシェーマスに向けていた。
シェーマスは拳を振り上げて立っていた。
「こいつ、僕の母親の悪口を言った」
シェーマスが叫んだ。
「えっ?」
ロンが言った。
「ハリーがそんなことするはずないよ――僕たち、君の母さんに会ってるし、好きだし……」
「それは、腐れ新聞の『日刊予言者新聞』が僕やサクヤについて書くことを、あの人が1から10まで信じる前だ!」
ハリーが声を張りあげた。
「ああ」
ロンのそばかすだらけの顔が、わかったという表情になった。
「ああ……そうか」
「いいか?」
シェーマスがカンカンになって、ハリーを憎々しげに見た。
「そいつの言うとおりだ。僕はもうそいつと同じ寝室にいたくない。そいつは狂ってる」
「シェーマス、そいつは言いすぎだぜ」
ロンが言った。
両耳が真っ赤になってきた――いつもの危険信号だ。
「言いすぎ?僕が?」
シェーマスはロンと反対に青くなりながら叫んだ。
「こいつが『例のあの人』に関してつまらないことを並べ立ててるのを、君は信じてるってわけか?
ほんとのことを言ってると思うのか?」
「ああ、そう思う!」
ロンが怒った。
「それじゃ、君も狂ってる」
シェーマスが吐き棄てるように言った。
「そうかな?さあ、君にとっては不幸なことだがね、おい、僕は監督生だ!」
ロンは胸をぐっと指差した。
「だから、罰則を食らいたくなかったら口を慎め!」
一瞬、シェーマスは、言いたいことを吐き出せるなら、罰則だってお安い御用だという顔をした。
しかし、軽蔑したような音を出したきり、背を向けてベッドに飛び込み、周りのカーテンを思い切り引いた。
乱暴に引いたので、カーテンが破れ、埃っぽい塊になって床に落ちた。
ロンはシェーマスを睨みつけ、それからディーンとネビルを見た。
「ほかに、ハリーやサクヤのことをごちゃごちゃ言ってる親はいるか?」
ロンが挑戦した。
「おい、おい、僕の親はマグルだぜ」
ディーンが肩をすくめた。
「ホグワーツで誰が死のうが、僕の親は知らない。僕は教えてやるほどバカじゃないからな」
「君は僕の母親を知らないんだ。誰からでも何でもするする聞き出すんだぞ!」
シェーマスが食ってかかった。
「どうせ、君の両親は『日刊予言者新聞』を取ってないんだろう。
校長がウィゼンガモットを解任され、国際魔法使い連盟から除名されたことも知らないだろう。まともじゃなくなったからなんだ――」
「僕のばあちゃんは、それデタラメだって言った」
ネビルがしゃべりだした。
「ばあちゃんは、『日刊予言者新聞』こそおかしくなってるって。ダンブルドアじゃないって。
ばあちゃんは購読をやめたよ。僕たちハリーとサクヤを信じてる」
ネビルは単純に言いきった。
ネビルはベッドによじ登り、毛布を顎まで引っ張り上げ、その上からくそまじめな顔でシェーマスを見た。
「ばあちゃんは、『例のあの人』は必ずいつか戻ってくるって、いつも言ってた。
ダンブルドアがそう言ったのなら、戻ってきたんだって、ばあちゃんがそう言ってるよ」
ハリーはネビルに対する感謝の気持ちが一度に溢れてきた。
もう誰も何も言わなかった。シェーマスは杖を取り出し、ベッドのカーテンを直し、その陰に消えた。
ディーンはベッドに入り、向こうを向いて黙りこくった。
ネビルも、もう何も言うことはなくなったらしく、月明かりに照らされた妙なサボテンを愛しそうに見つめていた。
ハリーは枕に寄り掛かった。
ロンは隣のベッドの周りをガサゴソ片づけていた。
仲のよかったシェーマスと言い争ったことで、ハリーは動揺していた。
自分たちが嘘をついている、ネジが外れていると、あと何人から聞かされることになるんだろう?
ダンブルドアはこの夏中、こんな思いをしたのだろうか?
最初はウィゼンガモット、次は国際魔法使い連盟の役職から追放されて……。
何ヶ月もハリーに連絡してこなかったのは、ダンブルドアがハリーに腹を立てたからなのだろうか?
結局、3人は一蓮托生だった。
ダンブルドアはハリーとサクヤを信じ、学校中にハリーの話を伝えたし、魔法界により広く伝えた。
「闇の印」をつけられたサクヤを変わらず学校に在籍させ続け、何か訓練をつけ、何かから――おそらくヴォルデモートから――守ろうとしている。
ハリーを嘘つき呼ばわりする者は、ダンブルドアをもそう呼ぶことになる。
サクヤを悪の手先とするならば、それを匿うダンブルドアもそちら側だということになる。
そうでなければ、ダンブルドアがずっと謀られてきたことになる。
ロンがベッドに入り、寝室の最後の蝋燭が消えた。
僕たちが正しいことは、最終的にわかるはずだ、とハリーは惨めな気持ちで考えた。
しかし、その時がくるまで、ハリーはいったいあと何回、シェーマスから受けたのと同じような攻撃に耐えなければならないのだろう。
「おつかれ、ハル」
女子寮では、ちょうどサクヤがシャワーから戻ってきたところに、部屋へ帰ってきたハーマイオニーが鉢合わせたところだった。
ため息交じりに扉を閉めたハーマイオニーが苛立たしげに口を開いた。
「たった今、そこの廊下でラベンダーに聞かれたわ。
あなたのことと、ハリーのこと――」
タオルでがしがしと髪を拭きながら、サクヤは続きの言葉を代弁した。
「『あんたのお節介な大口を閉じなさい』?」
「やだ、聞こえてたの?」
ハーマイオニーのローブを脱ぐ手が止まった。
「シャワー室までね。ありがと、ハル」
サクヤはローブと制服の間に手を差し込み、ハーマイオニーをぎゅっと抱き寄せた。
「はー、久しぶりのハルだぁ」
じゃれつくように抱きついたまま、サクヤは壁までハーマイオニーを押し付けた。
当然ながら、ハーマイオニーにとっても久しぶりのサクヤだ。大きな犬のようにじゃれつくサクヤに笑い声を漏らしつつ、大人しくすり寄られるがままにしていた。
サクヤは顔を上げてハーマイオニーの鼻先まで近づくと、鼻をすりすりとこすり合わせた。
お互いくすくすと笑い合いながらひと通りそれを楽しんだあと、啄ばむようなキスを交互に交わした。
「ふふ……ほら、そろそろきちんと乾かさないと――」
ひとしきり堪能したハーマイオニーは、サクヤの首に掛けられていたタオルを彼女の頭にふわりとかぶせた。
サクヤはタオルに添えられたハーマイオニーの片手をとり、それも壁に押し付けた。
「まだ足りないよ……、」
サクヤは腹をすかせた犬のように、ハーマイオニーの唇をぺろりと舐めた。
まるでじゃれ合いの続きのように、しかしその深い口づけは、明らかにその後の行為を意図していた。
何度も身体を重ねてきたおかげでその雰囲気を感じ取れるようになったハーマイオニーは、呑まれてしまう前に、まだかろうじて自由なもう片方の手でサクヤを制した。
スイッチが入りきる手前だったようで、サクヤも手を止め顔を上げた。
「その前に、早く渡したくて――預かってたこれ――」
ハーマイオニーは脱げかけたローブを羽織り直し、呼吸を整えながら、運び込まれていた自身のトランクを開けた。
そこから取り出されたのは、ハーマイオニーが騎士団本部へ向かう前に預からせてもらっていた、セドリックの形見のローブだ。
「こ、これって――」
サクヤが声を漏らした。
受け取ったそのハッフルパフカラーのローブは、ハーマイオニーによって仕立て直されていたのだ。
ハーマイオニーが手に取ってサクヤのパジャマの袖をめくり、左腕に通すと、ちょうど前腕の半分を手首までしっかり覆ってくれる形のアームガード状になっていた。
「余計なことだったらごめんなさい。巻き戻し呪文ですぐ戻すから――」
「ううん、すごく嬉しい……!」
サクヤは夏休みのとき、ディーンの森でキャンプした際のことを思い出していた。
あのときハーマイオニーは、泣きながら話したセドリックのことすら優しく受け入れてくれた。
これはその気持ちの表れなのだ。
「ありがとう、ハル」
サクヤはアームガードを、腕ごと大切そうに抱きしめた。
魔法は夏休み中で使えなかったため――使えたとしても、使うつもりはなかったが――手縫いで作ったせいで、どう頑張っても縫い目が不揃いになってしまっていたのが不安な点ではあったが、そのサクヤの喜びようを見て、ハーマイオニーは心の中でほっと胸をなでおろした。
サクヤが嬉しさのあまり、部屋じゅうをうろつき、月明かりや蝋燭の明かりにかざしてみたり、鏡に映してみたりしているので、はじめは微笑ましく見ていたハーマイオニーも、だんだんと痺れが切れてきた。
早く渡そうと思ってはいたのだが、このタイミングは完全に間違った、とハーマイオニーは思った。
スイッチが入りかけていたのは、なにもサクヤだけではなかった。
ハーマイオニーがローブを脱いでハンガーにかけたとき、ようやくサクヤが戻ってきた。
「へへ……ハル、本当にありがとう!」
サクヤの満面の笑顔を見て、ハーマイオニーもにっこりと笑い返した。
「喜んでもらえて、私も本当に良かったわ」
別に、この言葉に黒さは欠片もない。
しかし、ハーマイオニーの心の中に、ある種の小さな加虐心が芽生えたことも事実だ。
ハーマイオニーが続きを促すようにまた口づけると、サクヤもそれに応えてくれた。
先ほどの食いつくようなものとは違う、優しいキスだ。
ハーマイオニーはそのまま、仕返しするかのようにサクヤを押すと、その先は壁ではなくサクヤのベッドだった。
ぎしりとスプリングが鳴く。
サクヤがそうしたみたいに、今度はハーマイオニーがサクヤの手をとってベッドに押し付けた。
「ハル……?」
いつもよりぐいぐいと来るハーマイオニーに、サクヤは僅かばかりの戸惑いを見せた。
ハーマイオニーは構わず、押し付けた手からアームガードをするりと抜き、ベッドサイドのテーブルにそっと置いた。
そこでようやく気が付いたが、サイドテーブルにはおそろいで持っている香水が置かれていた。
すん、と意識して嗅いでみれば、サクヤのベッドからはうっすらとそれが香ってくる。
「――寂しかったのね」
サクヤを組み敷き、馬乗りになったハーマイオニーは、愛おしさがゆらりと立ち上るのを感じ、またキスを落とした。
赤くなったサクヤが、当惑ぎみに、しかし期待の色も含んだ目でハーマイオニーを見上げている。
「私もよ――」
ハーマイオニーは、サクヤの鼻筋に首を寄せた。
>>To be continued
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