The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ハリーたちは、グリフィンドールの談話室に続く廊下の一番奥に着いていた。
「太った婦人」の肖像画の前で足を止めたとたん、ハリーもサクヤも新しい合言葉を知らないことに初めて気づいた。

「えーと……」

「あー……」

ハリーとサクヤは「太った婦人」を見つめ、元気のない声を出した。
婦人はピンクサテンのドレスの襞を整えながら、厳しい顔で2人を見返した。

「合言葉がなければ入れません」

婦人はつんとした。

「ハリー、サクヤ!僕、知ってるよ!」

誰かがゼイゼイ言いながらやって来た。
振り向くと、ネビルが走ってくる。

「なんだと思う?僕、これだけは初めて空で言えるよ――」

ネビルは汽車の中で見せてくれた、いじけたような発育不良のサボテンを振って見せた。

「ミンビュラス ミンブルトニア!」

「そうよ」

「太った婦人」の肖像画がドアのように3人のほうに開いた。
後ろの壁に丸い穴が現れ、そこをハリーとサクヤ、ネビルはよじ登った。

グリフィンドール塔の談話室はいつもどおりに暖かく迎えてくれた。
居心地のよい円形の部屋の中に、古ぼけたふかふかの肘掛椅子や、ぐらつく古いテーブルがたくさん置いてある。
火格子の上で暖炉の火が楽しげに爆ぜ、何人かの寮生が、寝室に行く前に手を暖めていた。
部屋の向こうで、フレッドとジョージのウィーズリー兄弟が掲示板に何か留めつけていた。
ハリーは2人におやすみと手を振って、サクヤとも寝室への階段のところで分かれ、まっすぐ男子寮へのドアに向かった。
いまはあまり話をする気分ではなかった。ネビルが従いてきた。

ディーン・トーマスとシェーマス・フィネガンがもう寝室に来ていて、ベッド脇の壁にポスターや写真を貼りつけている最中だった。
ハリーがドアを開けたときにはしゃべっていた2人が、ハリーを見たとたん急に口をつぐんだ。
自分のことを話していたのだろうか、それとも自分が被害妄想なのだろうかとハリーは考えた。

「やあ」

ハリーは自分のトランクに近づき、それを開けた。

「やあ、ハリー」

ディーンは、ウエストハム・チームカラーのパジャマを着ているところだった。

「休みはどうだった?」

「まあまあさ」

ハリーが口ごもった。
本当の話をすれば、ほとんどひと晩かかるだろう。
そんなことはハリーにはとてもできない。

「君は?」

「ああ、オッケーさ」

ディーンがクスクス笑った。

「とにかく、シェーマスよりはましだったな。いま聞いてたとこさ」

「どうして?シェーマスに何があったの?」

ミンビュラス・ミンブルトニアをベッド脇の戸棚の上にそっと載せながら、ネビルが聞いた。
シェーマスはすぐには答えなかった。
クィディッチ・チームのケンメア・ケストレルズのポスターが曲がっていないかどうか確かめるのに、やたらと手間をかけていた。
それからハリーに背を向けたまま言った。

「ママに学校に戻るなって言われた」

「えっ?」

ハリーはローブを脱ぐ手を止めた。

「ママが、僕にホグワーツに戻ってほしくないって」

シェーマスはポスターから離れ、パジャマをトランクから引っ張り出した。
まだハリーを見ていない。

「だって――どうして?」

ハリーが驚いて聞いた。
シェーマスの母親が魔女だと知っていたので、なぜダーズリーっぽくなったのか理解できなかった。
シェーマスはパジャマのボタンを留め終えるまで答えなかった。

「えーと」

シェーマスは慎重な声で言った。

「たぶん……君たちのせいで」

「どういうこと?」

ハリーがすぐ聞き返した。
心臓の鼓動がかなり早くなっていた。
何かにじりじりと包囲されるのを、ハリーはうっすらと感じた。

「えーと」

シェーマスはまだハリーの目を見ない。

「ママは……あの……えーと、君やサクヤだけじゃない。ダンブルドアもだ……」

「『日刊予言者新聞』を信じてるわけ?」

ハリーが言った。

「僕たちが嘘つきで、ダンブルドアがボケ老人だって?」

シェーマスがハリーを見た。

「うん、そんなふうなことだ」

ハリーは何も言わなかった。
杖をベッド脇のテーブルに投げ出し、ローブを剥ぎ取り、怒ったようにトランクに押し込み、パジャマを着た。
うんざりだ。
じろじろ見られて、しょっちゅう話の種にされるのはたくさんだ。
いったいみんなはわかっているんだろうか、こういうことをずっと経験してきた人間がどんなふうに感じるのか、ほんの少しでもわかっているんだろうか……フィネガン夫人はわかってない。バカ女。
ハリーは煮えくり返る思いだった。

ハリーはベッドに入り、周りのカーテンを閉めはじめた。
しかし、その前に、シェーマスが言った。

「ねえ……あの夜いったい何があったんだ?
……ほら、あのとき……サクヤの腕のこととか……セドリック・ディゴリーとかいろいろ?」

シェーマスは怖さと知りたさが入り交じった言い方をした。
ディーンは屈んでトランクからスリッパを出そうとしていたが、そのまま奇妙に動かなくなった。
耳を澄ませていることがハリーにはわかった。

「どうして僕に聞くんだ?」

ハリーが言い返した。

「『日刊予言者新聞』を読めばいい。
君の母親みたいに。読めよ。知りたいことが全部書いてあるぜ」

「僕のママの悪口を言うな」

シェーマスが突っかかった。

「僕たちを嘘つき呼ばわりするなら、誰だって批判してやる」

ハリーが言った。

「僕にそんな口のききかたするな!」

「好きなように口をきくさ」

ハリーは急に気が立ってきて、ベッド脇のテーブルから杖をパッと取った。

「僕と一緒の寝室で困るなら、マクゴナガルに頼めよ。
変えてほしいって言えばいい……ママが心配しないように――」

「僕の母親のことは放っといてくれ、ポッター!」




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