The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




生徒が食べ終わり、大広間のガヤガヤがまた立ち昇ってきたとき、ダンブルドアが再び立ち上がった。
みんなの顔が校長のほうを向き、話し声はすぐにやんだ。
ハリーはいまや心地よい眠気を感じていた。
4本柱のベッドがどこか上のほうで待っている。ふかふかと暖かく……。

「さて、またしてもすばらしいご馳走を、みなが消化しているところで、学年度始めのいつものお知らせに、少し時間をいただこう」

ダンブルドアが話しはじめた。

「1年生に注意しておくが、校庭内の『禁じられた森』は生徒立ち入り禁止じゃ――上級生の何人かも、そのこともう分かっておることじゃろう」

ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーは互いにニヤッとした。

「管理人のフィルチさんからの要請で、これが462回目になるそうじゃが、全生徒に伝えてほしいとのことじゃ。
授業と授業の間に廊下で魔法を使ってはならん。
その他もろもろの禁止事項じゃが、すべて長い一覧表になって、いまはフィルチさんの事務所のドアに貼り出してあるので、確かめられるとのことじゃ」

「今年は先生が2人替わった。
グラブリー-プランク先生がお戻りになったのを、心から歓迎申し上げる。『魔法生物飼育学』の担当じゃ。
さらにご紹介するのが、アンブリッジ先生、『闇の魔術に対する防衛術』の新任教授じゃ」

礼儀正しく、しかしあまり熱のこもらない拍手が起こった。
その間、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーはパニック気味に顔を見合わせた。
ダンブルドアはグラブリー-プランクがいつまで教えるか言わなかった。
ダンブルドアが言葉を続けた。

「クィディッチの寮代表選手の選抜の日は――」

ダンブルドアが言葉を切り、何か用かな、という目でアンブリッジ先生を見た。
アンブリッジ先生は立っても座っても同じぐらいの高さだったので、しばらくは、なぜダンブルドアが話をやめたのか誰も分からなかったが、アンブリッジ先生が「ェヘン、ェヘン」と咳払いをしたので、立ち上がっていることと、スピーチをしようとしていることが明らかになった。

ダンブルドアはほんの一瞬驚いた様子だったが、すぐ優雅に腰を掛け、謹聴するような顔をした。
アンブリッジ先生の話を聞くことほど望ましいことはないと言わんばかりの表情だった。
他の先生たちは、ダンブルドアほど巧みには驚きを隠せなかった。
スプラウト先生の眉毛は、ふわふわ散らばった髪の毛に隠れるほど吊り上がり、マクゴナガル先生の唇は、ハリーが見たことがないほど真一文字に結ばれていた。
これまで新任の先生が、ダンブルドアの話を途中で遮ったことなどない。
ニヤニヤしている生徒が多かった。――この女、ホグワーツでの仕来りを知らないな。

「校長先生」

アンブリッジ先生が作り笑いをした。

「歓迎のお言葉恐れ入ります」

女の子のような甲高い、ため息混じりの話し方だ。
ハリーはまたしても、自分でも説明のつかない強い嫌悪を感じた。
とにかくこの女に関するものは全部大嫌いだということだけはわかった。
バカな声、ふんわりしたピンクのカーディガン、何もかも。再び軽い咳払いをして(「ェヘン、ェヘン」)アンブリッジ先生は話を続けた。

「さて、ホグワーツに戻ってこられて、本当にうれしいですわ!」

にっこりすると尖った歯が剥き出しになった。

「そして、みなさんの幸せそうなかわいい顔がわたくしを見上げているのは素敵ですわ!」

ハリーはぐるりと見回した。
見渡すかぎり、幸せそうな顔など1つもない。
むしろ、5歳児扱いされて、みな愕然とした顔だった。

「みなさんとお知り合いになれるのを、とても楽しみにしております。
きっとよいお友達になれますわよ!」

これにはみんな顔を見合わせた。冷笑を隠さない生徒もいた。

「あのカーディガンを借りなくていいなら、お友達になるけど」

パーバティがラベンダーに囁き、2人は声を殺してクスクス笑った。

アンブリッジ先生はまた咳払いした。(「ェヘン、ェヘン」)。
次に話しだしたとき、ため息混じりが少し消えて、話し方が変わっていた。
ずっとしっかりした口調で、暗記したように無味乾燥な話し方になっていた。

「魔法省は、若い魔法使いや魔女の教育は非常に重要であると、常にそう考えてきました。
みなさんが持って生まれた稀なる才能は、慎重に教え導き、養って磨かなければ、ものになりません。
魔法界独自の古来からの技を、後代に伝えていかなければ、永久に失われてしまいます。
われらが祖先が集大成した魔法の知識の宝庫は、教育という気高い天職を持つものにより、守り、補い、磨かれていかねばなりません」

アンブリッジ先生はここでひと息入れ、同僚の教授陣に会釈した。
誰も会釈を返さない。
マクゴナガル先生の黒々とした眉がぎゅっと縮まって、まさに鷹そっくりだった。
しかも意味ありげにスプラウト先生と目を見交わしたのを、ハリーは見た。
アンブリッジはまたまた「ェヘン、ェヘン」と軽い咳払いをして、話を続けた。

「ホグワーツの歴代校長は、この歴史ある学校を治める重職を務めるにあたり、何らかの新規なものを導入してきました。そうあるべきです。
進歩がなければ停滞と衰退あるのみ。
しかしながら、進歩のための進歩は奨励されるべきではありません。
なぜなら、試練を受け、証明された伝統は、手を加える必要がないからです。
そうなると、バランスが大切です。
古きものと新しきもの、恒久的なものと変化、伝統と革新……」

ハリーは注意力が退いていくのが分かった。
脳みその周波数が合ったり外れたりするようだった。
ダンブルドアが話すときには大広間は常にしんとしているが、いまはそれが崩れ、生徒は額を寄せ合っていたりクスクス笑ったりしていた。
レイブンクローのテーブルでは、チョウ・チャンが友達とさかんにおしゃべりしていた。
そこから数席離れたところで、ルーナ・ラブグッドがまた「ザ・クィブラー」を取り出していた。
一方ハッフルパフのテーブルでは、アーニー・マクミランだけが、まだアンブリッジ先生を見つめている数少ない1人だった。しかし、目が死んでいた。
胸に光る新しい監督生バッジの期待に応えるため、聞いているふりをしているだけに違いない、とハリーは思った。

アンブリッジ先生は、聴衆のざわつきなど気がつかないようだった。
ハリーの印象では、大々的な暴動が目の前で勃発しても、この女は延々とスピーチを続けるに違いない。
しかし教授陣はまだ熱心に聴いていた。ハーマイオニーもアンブリッジの言葉を細大漏らさず呑み込んでいた。
もっともその表情から見ると、まったくおいしくなさそうだ。
サクヤは、見つめれば見つめるほど化けの皮が剥がれていくのではないかと信じているように、アンブリッジを凝視していた。眉間には皺が寄っている。

「……なぜなら、変化には改善の変化もある一方、時満ちれば、判断の誤りと認められるような変化もあるからです。
古き慣習のいくつかは維持され、当然そうあるべきですが、陳腐化し、時代遅れとなったものは、放棄されるべきです。
保持すべきは保持し、正すべきは正し、禁ずべきやり方とわかったものは何であれ切り捨て、いざ、前進しようではありませんか。
開放的で、効果的で、かつ責任ある新しい時代へ」

アンブリッジ先生が座った。
ダンブルドアが拍手した。それに倣って教授たちもそうした。
しかし、1回か2回手を叩いただけでやめてしまった先生が何人かいることに、ハリーは気づいた。
生徒も何人か一緒に拍手したが、大多数は演説が終わったことで不意を衝かれていた。
だいたい二言三言しか聞いてはいなかったのだ。
ちゃんとした拍手が起こる前に、ダンブルドアがまた立ち上がった。

「ありがとうございました。アンブリッジ先生。まさに啓発的じゃった」

ダンブルドアが会釈した。

「さて、先ほど言いかけておったが、クィディッチの選抜の日は……」

「ええ、本当に啓発的だったわ」

ハーマイオニーが低い声で言った。

「おもしろかったなんて言うんじゃないだろうな?」

ぼんやりした顔でハーマイオニーを見ながら、ロンが小声で言った。

「ありゃ、これまでで最高につまんない演説だった。パーシーと暮らした僕がそう言うんだぜ」

「啓発的だったと言ったのよ。おもしろいじゃなくて」

ハーマイオニーが言った。

「いろんなことがわかったわ」

「ほんと?」

ハリーが驚いた。

「中身のない無駄話ばっかりに聞こえたけど」

「その無駄話に、大事なことが隠されていたのよ」

ハーマイオニーが深刻な言い方をした。

「えっと……たとえば?」

サクヤが尋ねた。
ハリーは、アンブリッジの正体を見抜くのに夢中で、サクヤも話を聞いていなかったのではないかと思った。

「たとえば、『進歩のための進歩は奨励されるべきではありません』はどう?
それから『禁ずべきやり方とわかったものは何であれ切り捨て』はどう?」

「さあ、どういう意味だい?」

ロンが焦れったそうに言った。

「教えて差し上げるわ」

ハーマイオニーが不吉な知らせを告げるように言った。

「魔法省がホグワーツに干渉するということよ」

周りがガタガタ騒がしくなった。
ダンブルドアがお開きを宣言したらしい。みんな立ち上がって大広間を出ていく様子だ。
ハーマイオニーが大慌てで飛び上がった。

「ロン、1年生の道案内をしないと!」

「ああそうか」

ロンは完全に忘れていた。

「おい――おい、おまえたち、ジャリども!」

「ロン!」

ハーマイオニーの咎める声と、サクヤの驚く声が重なった。

「だって、こいつら、チビだぜ……」

「ロンが監督生!
いま気づいた――『P』バッジがついてる!おめでとう、ロン!」

サクヤが顔を綻ばせた。
ロンはポッと頬を髪と同じ色にして、ごく自然に――あからさまに――監督生バッジのついたローブを羽織りなおして見せた。

「まあ――ウン、そういうわけだよ」

「だけど監督生が下級生に『ジャリ』はないでしょ!1年生!」

ハーマイオニーは威厳たっぷりにテーブル全体に呼びかけた。

「こっちへいらっしゃい!」

サクヤは今度はキラキラと輝く瞳で1年生を導くハーマイオニーを見上げた。
ハリーが大広間のざわめきのなかで耳をそば立てると、「ハル……立派になって……」と漏らす声が聞こえてきた。

新入生のグループは、恥ずかしそうにグリフィンドールとハッフルパフのテーブルの間を歩いた。
誰もが先頭に立たないようにしていた。本当に小さく見えた。
自分がここに来たときは、絶対、こんなに幼くはなかったとハリーは思った。
ハリーは1年生に笑いかけた。
ユーアン・アバクロンビーの隣のブロンドの少年の顔が強張り、ユーアンを突っついて、耳元で何か囁いた。
彼も同じように怯えた顔になり、恐々ハリーを見て、それからサクヤにも目が移ってさらに恐怖の表情を浮かべた。
ハリーの顔から、微笑が「臭液」のごとくゆっくり落ちていった。

「またあとで。サクヤ、行こう」

ハリーはロンとハーマイオニーにそう言い、サクヤを引っ張って一緒に大広間を出た。
途中で囁く声、見つめる目、指差す動きを、ハリーはできるだけ無視した。
まっすぐ前方を見つめ、玄関ホールの人波を縫って進んだ。
それから大理石の階段を急いで上り、隠れた近道のルートを採ると、群れからずっと遠くなった。

人影もまばらな廊下を歩きながら、こうなることを予測しなかった自分が愚かだった、とハリーは自分自身に腹を立てた。
みんなが僕やサクヤを見つめるのは当然だ。
2ヵ月前に、三校対抗試合の迷路の中から、ハリーとサクヤは1人の生徒の亡骸を抱えて現れ、ヴォルデモート卿の力が復活したのを見たと宣言したのだ。
先学期、みんなが家に帰る前には、説明する時間の余裕がなかった――あの墓場で起こった恐ろしい事件を、学校全体に詳しく話して聞かせる気持ちの余裕が、たとえあったとしてもだ。
その上、サクヤの左腕には「闇の印」がつけられている。
傷痕として、呪いとして刻まれたそれは、今や全校生徒の知るところだ。
2か月前、「悪に立ち向かい続ける証明をする」と誓いを立てサクヤ自身が公表した。

サクヤは、自分たちへ向けられる囁き声や探るような目を無視できただろうか。
気になったハリーは、サクヤへ振り返った。

「?」

サクヤはけろりとしていて、突然振り向いたハリーに疑問符を浮かべていた。
ハリーは意表を突かれた思いで、また話題を探した――無理に「大丈夫か」と聞くことはしたくなかった。ハリー自身がそうされたらいやだと思ったからだ――それから、すぐに今話すべきことを思い出した。

「あのさ、」

ハリーは廊下の途中で立ち止まった。
中ほどのここなら、曲がり角から聞き耳を立てられても聞こえないだろう。

「僕、ウィーズリーおじさんに魔法省へ連れて行ってもらったんだ――ほら、尋問のときに。
それで、『闇祓い本部』にも顔を出したんだけど、サクヤはあそこを見たことはある?」

「ううん。そのまま法廷まで直行したな……。何かおもしろいものでもあったか?」

サクヤが訊ねた。
ハリーはここまで言ってから、言うべきかまた少し迷った。
しかし、話し出したからには言っておいたほうがいいだろう。
むしろこれは伝えておかなくちゃいけない。ハリーはそう心に決め、首を横に振った。

「僕……あの、見たんだ。誰かのデスクで。
書類がたくさん積まれたなかに、その――サクヤのおじいさんとおばあさんの事件について書かれてるらしい調書を」

ハリーがちらりとサクヤを見ると、顔から微笑みが消えていた。

「――埋もれてた」

ハリーは顔をしかめ、それだけ言った。
これはサクヤも知っておく必要があるという確信はあったのだが、実際にいま伝え、その上でどんな言葉をかけてやればいいのか、ハリーは分からなかった。
2人の間に沈黙が流れたが、サクヤの雰囲気からは、3年生のときのような恐ろしい怒りは感じられなかった。
やがてサクヤは深く息を吸い、腹の底まで吐ききってから、目を覚まそうとするときのように頭を振ってみせた。

「……大丈夫。
もうあの時みたいに犯人捜しで暴走したりはしない」

その声色もいつも通りのもので、ハリーはやっと目を上げることができた。
サクヤは顔を横に向け、窓から射す月明かりを受けていた。
その表情に怒りの色はほとんどなく、しかし決して穏やかなものでもなかった。
しいて言うならば、イライラしているような……何かむかつくものが窓の外にいて、それを見つめているかのような表情だった。
サクヤがまた口を開いた。必要以上に息を吸った。

「魔法省が、もう完全に頼りにならないこともよく分かった。
今はホグワーツの敷地から出られないのもあるし、すぐには動けないけど、必ず機会を見つけて、自力で調査していくことにする」

サクヤは一度目線を下に落とし、それからハリーを見上げた。

「教えてくれてありがとう、ハリー」

「僕も、なんでも手伝うから」

ハリーが言った。
サクヤの金色の瞳が、月明かりでやけに美しく感じられた。

「ん、助かる。そろそろ戻ろう」



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