The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ルーナと自分が同じ幻覚を見た――幻覚だったかもしれない……そんなことを、ハリーは他の誰にも言いたくなかった。
馬車に乗り込み、ドアをぴしゃりと閉めたあと、ハリーは馬のことはそれ以上ひと言も言わなかった。
にもかかわらず、窓の外を動いている馬のシルエットを、ハリーはどうしても見てしまうのだった。

「みんな、グラブリー-プランクばあさんを見た?」

ジニーが聞いた。

「いったい何しに戻ってきたのかしら?
ハグリッドが辞めるはずないわよね?」

「辞めたらあたしはうれしいけど」

ルーナが言った。

「あんまりいい先生じゃないもン」

「いい先生だ!」

ハリー、ロン、ジニーが怒ったように言った。
ハリーがハーマイオニーを睨んだ。ハーマイオニーは咳払いをして急いで言った。

「えーっと……そう……とってもいいわ」

「ふーん。レイブンクローでは、あの人はちょっとお笑い種だって思ってるよ」

ルーナは気後れしたふうもない。

「なら、君のユーモアのセンスがおかしいってことさ」

ロンがバシッと言った。そのとき、馬車の車輪が軋みながら動きだした。
ルーナはロンの失礼な言葉を別に気にする様子もなく、かえって、ロンがちょっとおもしろテレビの番組ででもあるかのように、しばらくロンを見つめただけだった。

ガラガラ、ガタガタと、馬車は隊列を組んで進んだ。
校門の高い2本の石柱には羽の生えたイノシシが載っている。
馬車が校門をくぐり、校庭に入ったとき、ハリーは身を乗り出して、禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋に灯りが見えはしないかと目を凝らした。
校庭は真っ暗だった。
しかし、ホグワーツ城が近づき、夜空に黒々と聳える尖塔の群れが見えてくると、頭上にあちこちの窓の明かりが見えた。
ハグリッドがいないことで、ハリーのなかで一抹の不安が過ぎった――まさかサクヤまでいないなんてことはないよな?
それから、すぐにそんなことはない、と首を振った。ルーピンが言っていたじゃないか。「サクヤは城から出られなくなった」と。城にはいるはずだ。

正面玄関の扉に続く石段の近くで、馬車はシャンシャンと止まった。
ハリーが最初に馬車から降りた。
もう一度振り返り、禁じられた森のそばの窓明かりを探した。
しかし、ハグリッドの小屋には、どう見ても人の気配はなかった。
内心、姿が見えなければいいと願っていたので気が進まなかったが、ハリーは骸骨のような不気味な生き物に目を向けた。
冷え冷えとした夜気の中に白一色の目を光らせ、生き物は静かに立っていた。

以前に一度だけ、ロンの見えないものが自分だけに見えたことがあった。
しかし、あれは鏡に映る姿で、今回ほど実体のある物ではなかった。
今度は、馬車の隊列を牽くだけの力がある100頭あまりの、ちゃんと形のある生き物だ。
ルーナを信用するなら、この生き物はずっと存在していた。見えなかっただけだ。
それなら、なぜ、ハリーは急に見えるようになり、ロンには見えなかったのだろう?

「来るのか来ないのか?」

ロンがそばで言った。

「あ……うん」

ハリーは急いで返事をし、石段を上って城内へと急ぐ群れに加わった。
玄関ホールには松明が明々と燃え、石畳を横切って右の両開き扉へと進む生徒たちの足音が反響していた。
扉の向こうに、新学期の宴が行われる大広間がある。

「よっ、元気?」

ハリーたちが玄関ホールを横切っているとき、集団に加わってくる陽気な挨拶が聞こえた。
ハリーが振り返ると、そこにはみんなと同じように――ルーナはレイブンクローのものだが――グリフィンドールの制服を身に纏ったサクヤ・フェリックスが何食わぬ顔で一緒に歩いていた。

「サクヤ!」

ハリー、ロン、ハーマイオニー、ジニーが揃って声を上げた。
それからワンテンポ遅れてネビルが「やあ」と嬉しそうに挨拶を返した。

「元気だよ」

みんなを代表して、ハリーの向こう側からふわりと答えたのはルーナだった。ハリー越しに顔を覗かせている。

「ルーナ!ひさしぶり!」

彼女に気づいたサクヤも改めて気さくに返事をした。

「――汽車じゃ会わなかったな。ハリーたちと一緒に乗ってたの?」

「そうだよ。
あんたはずっといなかったみたいだけど?」

ルーナが夢見心地に訊ねた。
サクヤは首を伸ばして大広間に入っていく集団をぐるりと見回した。

「フレッドやジョージたちのところにいたり、したんだ。
それから、あー……シェーマスのところに行ったりね?うろうろしてた」

「ふぅん?じゃあ、またね」

ちょうどハリーたちの集団も大広間の長テーブルに着いたので、レイブンクローのテーブルでルーナは離れていった。
手を振って見送ったサクヤは、ふう、と小さくため息を吐いてハリーたちに振り返った。

「シェーマスは大丈夫だと思うけど――フレッドとジョージはハリーたちと一緒に乗ってなかったよな?」

サクヤが声を落として訊ねた。

「大丈夫。変に思われることは言ってなかったと思うよ」

ハリーがそう答えると、「よかった」と笑ってサクヤはハーマイオニーの隣に移動した。

「よっ」

ハーマイオニーに再び笑いかけるサクヤの声は柔らかで、ハリーはどこか安心感を覚える自分に気がついた。
これで僕たちの「元の形」に戻った、という感覚だった。
城に独りぼっちの釘付けで、スネイプから特別訓練を受けていると聞いていたが、その割には思っていたより元気そうだ。

大広間の4つの寮の長テーブルに、生徒たちが次々と着席していた。
高窓から垣間見える空を模した天井は、星もなく真っ暗だった。
テーブルに沿って浮かぶ蝋燭は、大広間に点在する真珠色のゴーストと、生徒たちの顔を照らしている。

グリフィンドールのテーブルに着くや否や、ジニーは4年生たちに呼びかけられ、同級生と一緒に座るために別れていった。
ネビルは抱えていたミンビュラス・ミンブルトニアもろともディーン・トーマスにぶつかってしまい、周囲に「臭液」をまき散らしてしまった――シェーマス・フィネガンは顔面いっぱいに浴び、暗緑色でいっぱいになった――。

「もう――ネビルったら!

少し離れたところに座るアンジェリーナ・ジョンソンの肘にもほんの少し「臭液」が及んでいた。
アンジェリーナが杖を振り清め呪文を唱えているうちに、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーの4人で一緒に座れる席をテーブルのうしろのほうで見つけた。
ネビルはそのままディーンたちのところに座ったようだ。
ハリーたちの隣にはパーバティ・パチルとラベンダー・ブラウンが、グリフィンドールのゴースト「ほとんど首無しニック」と共に座っていた。
この2人が、ハリーとサクヤに何だかふわふわした、親しみを込めすぎる挨拶をしたので、ハリーは、2人が直前まで自分たちの噂話を「ほとんど首無しニック」に話していたに違いないと思った。

「なんだったんだ、あれ?」

サクヤがハーマイオニーに引かれるまま騒動を見送り――じゃないとすぐにでもネビルを手助けしに向かうだろう――、やけに笑いながらテーブルについた。
久しぶりのにぎやかさが戻ってきたホグワーツが嬉しくてたまらないようだ。

「ミンビュラス・ミンブルトニア。僕も汽車のなかであれを引っかけられたよ」

ハリーがため息交じりに言った。
騒ぎを楽しんだ生徒たちはまた夏休みの話に夢中になり、他の寮の友達に大声で挨拶したり、新しい髪型やローブをちらちら眺めたりしていた。
ここでもハリーは、自分が通ったとき、みんなが額を寄せ合い、ひそひそ話をしていたのにいやでも気づいた。
ハリーは歯を食いしばり、何も気づかず、何も気にしないふりをしていた。

「新しい髪型って言や、最近よく髪型変えてるよな」

喧騒からその言葉を聞き拾ったロンがハーマイオニーを眺めて言った。

「おさげよく似合ってる。
ゆるく編んでる感じがいいね」

サクヤが片方だけ後ろに払われていたハーマイオニーの三つ編みを前に戻しながらにっこりした。
ハーマイオニーは咳ばらいをして座りなおした。

「『スリーク・イージーの直毛薬』よ。去年のダンスパーティーのときに使ったやつ。
あれだけしっかりやるのは大変だけど、シャンプーに混ぜて使えばある程度扱えるくらいには落ち着いてくれるみたい」

そう提案したのはサクヤだった。
まとめるのを諦めるくらいにはふわふわとたっぷり豊かなハーマイオニーの髪だったのだが、直毛薬入りのシャンプーを使うことで、扱いやすい柔らかなウェーブにまで落ち着けることに成功したのだ。
試してみて以来、ハーマイオニーはそれを愛用し、ちょっとしたヘアアレンジを楽しんでいた。
ハリーやロンは気が付かなかったが、そもそも髪を何とかしようと思い至ったのも、少しでもサクヤにかわいいと思ってもらいたいという、ハーマイオニーの乙女心からのものだった。

「サクヤも髪が伸びたよね」

今度はハリーがサクヤに言った。
ハーマイオニーとは対極のさらさらとしたサクヤの髪は、肩に少し流れるくらいの長さだったのが、今では肩甲骨のあたりまで伸びていた。
横髪は片方を耳にかけ、前髪を斜めに流している。

「なかなか切りに行けなくてな」

サクヤが前髪を鬱陶しそうに摘まんだ。
そこでハリーはちょっと気まずくなった――サクヤは気にする素振りは見せなかったが、それでも今の言葉はちょっと配慮が足りなかったかもしれない。
ハリーは別の気になる話題を持ち出すことにした。髪型の話よりもっと大切な、気がかりなことがある。
生徒の頭越しに、ハリーは、広間の一番奥の壁際に置かれている教職員テーブルを眺めた。




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