The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ロンとハーマイオニーは1時間近く現れなかった。
もう車内販売のカートも通り過ぎ、ハリー、ジニー、ネビルはかぼちゃパイを食べ終わり、蛙チョコのカード交換に夢中になっていた。
そのときコンパートメントの戸が開いて、2人が入ってきた。
クルックシャンクスも、籠の中で甲高い鳴き声をあげているピッグウィジョンも一緒だ。

「腹へって死にそうだ」

ロンはピッグウィジョンをヘドウィグの隣にしまい込み、ハリーから蛙チョコを引ったくり、ハリーの横にドサリと座った。
包み紙を剥ぎ取り、蛙の頭を噛み切り、午前中だけで精魂尽き果てたかのように、ロンは目を閉じて椅子の背に寄り掛かった。

「あのね、5年生は各寮に2人ずつ監督生がいるの」

ハーマイオニーは、この上なく不機嫌な顔で椅子に掛けた。

「男女1人ずつ」

「それで、スリザリンの監督生は誰だと思う?」

ロンが目を閉じたまま言った。

「マルフォイ」

ハリーが即座に答えた。
最悪の予想が的中するだろうと思った。

「大当たり」

ロンが残りの蛙チョコを口に押し込み、もう1つ摘みながら、苦々しげに言った。

「それにあのいかれた牝牛のパンジー・パーキンソンよ」

ハーマイオニーが辛辣に言った。

「脳震盪を起こしたトロールよりバカなのに、どうして監督生になれるのかしら……」

「ハッフルバフは誰?」

ハリーが聞いた。

「アーニー・マクミランとハンナ・アボット」

ロンが口いっぱいのまま答えた。

「それから、レイブンクローはアンソニー・ゴールドスタインとパドマ・パチル」

ハーマイオニーが言った。

「あんた、クリスマス・ダンスパーティにパドマ・パチルと行った」

ぼーっとした声が言った。
みんな一斉にルーナ・ラブグッドを見た。
ルーナは「ザ・クィブラー」誌の上から、瞬きもせずにロンを見つめていた。
ロンは口いっぱいの蛙をゴクッと飲み込んだ。

「ああ、そうだけど」

ロンがちょっと驚いた顔をした。

「あの子、あんまり楽しくなかったって」

ルーナがロンに教えた。

「あんたより、そのあとに誘ってくれたダームストラングの男の子とのほうがよっぽど楽しかったって。
あたしだったらあんたとの方が気楽でよかったと思うな」

ルーナは思慮深げに言葉を続けた。

「ダンスはあんまり好きじゃないもン」

ルーナはまた「ザ・クィブラー」の陰に引っ込んだ。
ロンはしばらく口をぽっかり開けたまま、雑誌の表紙を見つめていたが、それから何か説明を求めるようにジニーのほうを向いた。
しかし、ジニーはクスクス笑いを堪えるのに握り拳の先端を口に突っ込んでいた。
ロンは呆然として、頭を振り、それから腕時計を見た。

「一定時間ごとに通路を見回ることになってるんだ」

ロンがハリーとネビルに言った。

「それから態度が悪いやつには罰則を与えることができる。
クラッブとゴイルに難癖つけてやるのが待ちきれないよ……」

「ロン、立場を濫用してはダメ!」

ハーマイオニーが厳しく言った。

「ああ、そうだとも。
だって、マルフォイは絶対濫用しないからな」

ロンが皮肉たっぷりに言った。

「それじゃ、あいつと同じところに身を落とすわけ?」

「違う。
こっちの仲間がやられるより絶対先に、やつの仲間をやってやるだけさ」

「まったくもう、ロン――」

「ゴイルに書き取り100回の罰則をやらせよう。
あいつ、書くのが苦手だから、死ぬぜ」

ロンがうれしそうに言った。
ロンはゴイルのブーブー声のように声を低くし、顔をしかめて、一生懸命集中するときの苦しい表情を作り、空中に書き取りをするまねをした。

僕が……罰則を……受けたのは……ヒヒの……尻に……似ているから……

みんな大笑いだった。
しかし、ルーナ・ラブグッドの笑いこけ方にはかなわない。
ルーナは悲鳴のような笑い声をあげた。
ヘドウィグが目を覚まして怒ったように羽をばたつかせ、クルックシャンクスは上の荷物棚まで跳び上がってシャーッと鳴いた。
ルーナがあんまり笑い転げたので、持っていた雑誌が手から滑り落ち、脚を伝って床まで落ちた。

「それって、おかしいぃ!

ルーナは息も絶え絶えで、飛び出した目に涙を溢れさせてロンを見つめていた。
ロンは途方に暮れて、周りを見回した。
そのロンの表情がおかしいやら、ルーナが鳩尾を押さえて身体を前後に揺すり、バカバカしいほど長々笑い続けるのがおかしいやらで、みんながまた笑った。

「君、からかってるの?」

ロンがルーナに向かって顔をしかめた。

「ヒヒの……尻!」

ルーナが脇腹を押さえながら咽せた。

みんながルーナの笑いっぷりを見ていた。
しかし床に落ちた雑誌をちらりと見たハリーははっとして飛びつくように雑誌を取り上げた。
逆さまのときは表紙が何の絵かわかりにくかったが、こうして見ると、コーネリウス・ファッジのかなり下手な漫画だった。
ファッジだとわかったのは、ライム色の山高帽が描いてあったからだ。
片手は金貨の袋をしっかりとつかみ、もう一方の手で小鬼の首を絞め上げている。画に説明書がついている。

ファッジのグリンゴッツ乗っ取りはどのくらい乗っているか?

その下に、他の掲載記事の見出しが並んでいた。

クィディッチ・リーグの腐敗――トルネードーズはこのようにして主導権を握る
古代ルーン文字の秘密解明
シリウス・ブラック――加害者が被害者か?


「これ読んでもいい?」

ハリーは真剣にルーナに頼んだ。
ルーナは、まだ息も絶え絶えに笑いながらロンを見つめていたが、頷いた。
ハリーは雑誌を開き、目次にさっと目を走らせた。
そのときまで、キングズリーがシリウスに渡してくれとウィーズリーおじさんに渡した雑誌のことをすっかり忘れていたが、あれは「ザ・クィブラー」のこの号だったに違いない。

その記事のページが見つかった。
ハリーは興奮してその記事を読んだ。
この記事もイラスト入りだったが、かなり下手な漫画で、実際、説明書がなかったら、ハリーにはとてもシリウスだとはわからなかったろう。
シリウスが人骨の山の上に立って杖を構えている。見出しはこうだ。

シリウス――ブラックは本当に黒なのか?
大量殺人鬼?それとも歌う恋人?


ハリーは小見出しを数回読み直して、やっと読み違えではないと確認した。
シリウスはいつから歌う恋人になったんだ?

14年間、シリウス・ブラックは12人のマグルと1人の魔法使いを殺した大量殺人者として有罪とされてきた。
2年前、大胆不敵にもアズカバンから脱獄した後、魔法省始まって以来の広域捜査網が張られている。
ブラックが再逮捕され、吸魂鬼の手に引き渡されるべきであることを、誰も疑わない。

しかし、そうなのか?
最近明るみに出た驚くべき新事実によれば、シリウス・ブラックは、アズカバン送りになった罪を犯していないかもしれない。
事実、リトル・ノートンのアカシア通り18番地に住むドリス・パーキスによれば、ブラックは殺人現場にいなかった可能性がある。
「シリウス・ブラックが仮名だってことに、誰も気づいてないのよ」とバーキス夫人は語った。
「みんながシリウス・ブラックだと思っているのは、本当はスタビィ・ボードマンで、『ザ・ホブゴブリンズ』という人気シンガーグループのリードボーカルだった人よ。
15年ぐらい前に、リトル・ノートンのチャーチ・ホールでのコンサートのとき、耳を蕪で打たれて引退したの。
新聞でブラックの写真を見たとき、私にはすぐわかったわ。
ところで、スタビィはあの事件を引き起こせたはずがないの。
だって、事件の日、あの人はちょうど、蝋燭の灯りの下で、私とロマンチックなディナーを楽しんでいたんですもの。
私、もう魔法省に手紙を書きましたから、シリウスことスタビィは、もうすぐ特赦になると期待してますわ」


読み終えて、ハリーは信じられない気持ちでそのページを見つめた。
冗談かもしれない、とハリーは思った。この雑誌はよくパロディを載せるのかもしれない。
ハリーはまたパラパラと2,3ページ捲り、ファッジの記事を見つけた。

魔法大臣コーネリウス・ファッジは、魔法大臣に選ばれた5年前、魔法使いの銀行であるグリンゴッツの経営を乗っ取る計画はないと否定した。
ファッジは常に、我々の金貨を守る者たちとは、「平和裏に協力する」ことしか望んでいないと主張してきた。

しかしそうなのか?
大臣に近い筋が最近暴露したところによれば、ファッジの一番の野心は、小鬼の金の供給を統制することであり、そのためには力の行使も辞さないという。
「今回が初めてではありませんよ」魔法省内部の情報筋はそう明かした。
「『小鬼潰しのコーネリウス・ファッジ』というのが大臣の仲間内でのあだ名です。
誰も聞いていないと思うと、大臣はいつも、ええ、自分が殺させた小鬼のことを話していますよ。
溺れさせたり、ビルから突き落としたり、毒殺したり、パイに入れて焼いたり……」


ハリーはそれ以上は読まなかった。ファッジは欠点だらけかもしれないが、小鬼をパイに入れて焼くように命令するとはとても考えられない。
ハリーはページをパラパラ捲った。
数ページごとに目を止めて読んでみた。

――タッツヒル・トルネードーズがこれまでクィディッチの選手権で優勝したのは、脅迫状、箒の違法な細工、拷問などの結果だ――
クリーンスイープ6号に乗って月まで飛び、証拠に「月蛙」を袋一杯持ち帰ったと主張する魔法使いのインタビュー――古代ルーン文字の記事――。

少なくともこの記事で、ルーナが「ザ・クィブラー」を逆さに読んでいた理由が説明できる。
ルーン文字を逆さにすると、敵の耳をキンカンの実に変えてしまう呪文が明らかになるという記事だった。
「ザ・クィブラー」の他の記事に比べれば、シリウスが本当は「ザ・ホブゴブリンズ」のリードボーカルかもしれないという記事は、事実、相当まともだった。

「何かおもしろいの、あったか?」

ハリーが雑誌を閉じると、ロンが聞いた。

「あるはずないわ」

ハリーが答える前に、ハーマイオニーが辛辣に言った。

「『ザ・クィブラー』って、信用ならないゴシップ誌よ。みんな知ってるわ」

「あら」

ルーナの声が急に夢見心地でなくなった。

「あたしのパパが編集してるんだけど」

「私――あ」

ハーマイオニーが困った顔をした。

「あの……ちょっとおもしろいものも……つまり、とっても……」

「返してちょうだい。はい、どうも」

ルーナは冷たく言うと、身を乗り出すようにしてハリーの手から雑誌を引ったくった。
ページをパラパラ捲って57ページを開き、ルーナはまた決然と雑誌を引っくり返し、その陰に隠れた。
ちょうどそのとき、コンパートメントの戸が開いた。三度目だ。

ハリーが振り返ると、思ったとおりの展開だった。
ドラコ・マルフォイのニヤニヤ笑いと、両脇にいる腰巾着のクラッブ、ゴイルが予想どおり現れたからといって、それで楽しくなるわけはない。

「なんだい?」

マルフォイが口を開く前に、ハリーが突っかかった。

「礼儀正しくだポッター。さもないと、罰則だぞ」

マルフォイが気取った声で言った。
滑らかなプラチナ・ブロンドの髪と尖った顎が、父親そっくりだ。

「おわかりだろうが、君と違って、僕は監督生だ。
つまり、君と違って、罰則を与える権限がある」

「ああ」

ハリーが言った。

「だけど君は僕と違って、卑劣なやつだ。
だから出ていけ。邪魔するな」

ロン、ハーマイオニー、ジニー、ネビルが笑った。
マルフォイの唇が歪んだ。

「教えてくれ。ウィーズリーの下につくというのは、ポッター、どんな気分だ?」

マルフォイが聞いた。

「黙りなさい、マルフォイ」

ハーマイオニーが鋭く言った。

「どうやら逆鱗に触れたようだねぇ」

マルフォイがニヤリとした。

「まあ、気をつけることだな、ポッター。
なにしろ僕は、君の足が規則の一線を踏み越えないように、犬のように追け回すからね」

「出ていきなさい!」

ハーマイオニーが立ち上がった。
ニタニタしながら、マルフォイはハリーに憎々しげな一瞥を投げて出ていった。
クラッブとゴイルがドスドスとあとに続いた。
ハーマイオニーはその後ろからコンパートメントの戸をピシャリと閉め、ハリーのほうを見た。
ハリーはすぐに悟った。
ハーマイオニーもハリーと同じように、マルフォイがいま言ったことを聞き咎め、ハリーと同じようにひやりとしたのだ。

「もひとつ蛙を投げてくれ」

ロンは何にも気づかなかったらしい。
ネビルとルーナの前では、ハリーは自由に話すわけにはいかなかった。
心配そうなハーマイオニーともう一度目配せし合い、ハリーは窓の外を見つめた。

シリウスがハリーと一緒に駅に来たのは、軽い冗談だと思っていた。
急にそれが、無茶で、本当に危険だったかもしれないと思われた……。
ハーマイオニーの言うことは正しかった……シリウスは従いてくるべきではなかった。
マルフォイ氏が黒い犬に気づいて、ドラコに教えたのだとしたら?
ウィーズリー夫妻や、ルーピン、トンクス、ムーディが、シリウスの隠れ家を知っていると、マルフォイ氏が推測したとしたら?
それともドラコが「犬のように」と言ったのは、単なる偶然なのか?



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