The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




最後尾の車両で、2人はネビルロングボトムに出会った。
グリフィンドールの5年生でハリーの同級生だ。
トランクを引きずり、じたばた暴れるヒキガエルのトレバーを片手で握り締めて奮闘し、丸顔を汗で光らせている。

「やあ、ハリー」

ネビルが息を切らして挨拶した。

「やあ、ジニー……どこも一杯だ……僕、席が全然見つからなくて……」

「なに言ってるの?」

ネビルを押しつけるようにして狭い通路を通り、その後ろのコンパートメントを覗き込んで、ジニーが言った。

「ここが空いてるじゃない。ルーニー・ラブグッド1人だけよ――」

ネビルは邪魔したくないとかなんとかブツブツ言った。

「バカ言わないで」

ジニーが笑った。

「この子は大丈夫よ」

ジニーが戸を開けてトランクを中に入れた。ハリーとネビルが続いた。

「こんにちは、ルーナ」

ジニーが挨拶した。

「ここに座ってもいい?」

窓際の女の子が目を上げた。
濁り色のブロンドの髪が腰まで伸び、バラバラと広がっている。
眉毛がとても薄い色で、目が飛び出しているので、普通の表情でもびっくり顔だ。
ネビルがどうしてこのコンパートメントをパスしようと思ったのか、ハリーはすぐにわかった。
この女の子には、明らかに変人のオーラが漂っている。
もしかしたら、杖を安全に保管するのに、左耳に挟んでいるせいか、よりによってバタービールのコルクを繋ぎ合わせたネックレスを掛けているせいか、または雑誌を逆さまに読んでいるせいかもしれない。
女の子の目がネビルをじろっと見て、それからハリーをじっと見た。そして頷いた。

「ありがとう」

ジニーが女の子に微笑んだ。
ハリーとネビルは、トランク3個とヘドウィグの籠を荷物棚に上げ、腰を掛けた。
ルーナが逆さの雑誌の上から2人を見ていた。
雑誌には「ザ・クィブラー」と書いてある。
この子は、普通の人間より瞬きの回数が少なくてすむらしい。ハリーを見つめに見つめている。
ハリーは、真向かいに座ったことを後悔した。

「ルーナ、いい休みだった?」

ジニーが聞いた。

「うん」

ハリーから目を離さずに、ルーナが夢見るように言った。

「うん、とっても楽しかったよ。あんた、ハリー・ポッターだ」

ルーナが最後につけ加えた。

「知ってるよ」

ハリーが言った。
ネビルがクスクス笑った。
ルーナが淡い色の目を、今度はネビルに向けた。

「だけど、あんたが誰だか知らない」

「僕、誰でもない」

ネビルが慌てて言った。

「違うわよ」

ジニーが鋭く言った。

「ネビル・ロングボトムよ――こちらはルーナ・ラブグッド。
ルーナはわたしと同学年だけど、レイブンクローなの」

計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり――サクヤは一緒じゃないの?」

ルーナが歌うように言ったあと、またそう付け加えた。

「あ、うん――えーと、別行動してる」

ハリーが言った。

「サクヤと知り合いなの?」

「もちろん。
新入生のときに迷子になって、助けてもらったんだ」

ふわふわとした口調のまま、ルーナが言った。
そして逆さまの雑誌を顔が隠れる高さに持ち上げ、彼女はひっそりとなった。
ハリーとネビルは眉をきゅっと吊り上げて、目を見交わした。
ジニーはクスクス笑いを押し殺した。

汽車は勢いよく走り続け、いまはもう広々とした田園を走っていた。
天気が定まらない日だ。
燦々と陽が射し込むかと思えば、次の瞬間、汽車は不吉な暗い雲の下を走っていた。

「誕生日に何をもらったと思う?」

ネビルが聞いた。

「また『思い出し玉』?」

ネビルの絶望的な記憶力をなんとか改善したいと、ネビルのばあちゃんが送ってよこしたビー玉のようなものを、ハリーは思い出していた。

「違うよ」

ネビルが言った。

「でも、それも必要かな。
前に持ってたのはとっくに失くしたから……違う。これ見て……」

ネビルはトレバーを握り締めていないほうの手を学校の鞄に突っ込み、しばらくガサゴソして、小さな灰色のサボテンのような鉢植えを引っ張り出した。
ただし、針ではなく、おできのようなものが表面を覆っている。

ミンビュラス・ミンブルトニア

ネビルが得意げに言った。
ハリーはそのものを見つめた。
微かに脈を打っている姿は、病気の内臓のようで気味が悪い。

「これ、とってもとっても貴重なんだ」

ネビルはにっこりした。

「ホグワーツの温室にだってないかもしれない。
僕、スプラウト先生に早く見せたくて。
アルジー大伯父さんが、アッシリアから僕のために持ってきてくれたんだ。
繁殖させられるかどうか、僕、やってみる」

ネビルの得意科目が「薬草学」だということは知っていたが、どう見ても、こんないじけたような発育不良の植物がいったい何の役に立つのか、ハリーには見当もつかなかった。

「これ――あの――役に立つの?」

ハリーが聞いた。

「いっぱい!」

ネビルが得意げに言った。

「これ、びっくりするような防衛機能を持ってるんだ。ほら、ちょっとトレバーを持ってて……」

ネビルはヒキガエルをハリーの膝に落とし、鞄から羽根ペンを取り出した。
ルーナ・ラブグッドの飛び出した目が、逆さまの雑誌の上からまた現れ、ネビルのやることを眺めていた。
ネビルはミンビュラス・ミンブルトニアを目の高さに掲げ、舌を歯の間からちょこっと突き出し、適当な場所を選んで、羽根ペンの先でその植物をちくりと突っついた。
植物のおできというおできから、ドロリとした暗緑色の臭い液体がどっと噴出した。
それが天井やら窓やらに当たり、ルーナ・ラブグッドの雑誌に引っかかった。
危機一髪、ジニーは両腕で顔を覆ったが、ベトッとした緑色の帽子を被っているように見えた。
ハリーは、トレバーが逃げないように押さえて両手が塞がっていたので、思いっきり顔で受けた。
腐った堆肥のような臭いがした。
ネビルは顔も身体もベットリで、目にかかった最悪の部分を払い落とすのに頭を振った。

「ご――ごめん」

ネビルが息を呑んだ。

「僕、試したことなかったんだ……知らなかった。こんなに……でも、心配しないで。『臭液』は毒じゃないから」

ハリーが口いっぱいに詰まった液を床に吐き出したのを見て、ネビルがおどおどと言った。

ちょうどそのとき、コンパートメントの戸が開いた。

「あら……こんにちは、ハリー……」

緊張した声がした。

「あの……悪いときに来てしまったかしら?」

ハリーはトレバーから片手を離し、眼鏡を拭った。
長い艶つやした黒髪の、とてもかわいい女性が戸口に立ち、ハリーに笑いかけていた。
レイブンクローのクィディッチのシーカー、チョウ・チャンだ。

「あ……やあ」

ハリーは何の意味もない返事をした。

「えっと……」

チョウが口ごもった。

「あの……挨拶しようと思っただけ……じゃ、またね」

顔をほんのり染めて、チョウは戸を閉めて行ってしまった。
ハリーは椅子にぐったりもたれ掛かって呻いた。
かっこいい仲間と一緒にいて、みんながハリーの冗談で大笑いしているところにチョウが来たらどんなによかったか。
ネビルやルーニー・ラブグッドと一緒で、ヒキガエルを握り締め、「臭液」を滴らせているなんて、誰が好き好んで……。

「気にしないで」

ジニーが元気づけるように言った。

「ほら、簡単に取れるわ」

ジニーは杖を取り出して呪文を唱えた。

「スコージファイ!清めよ!」

「臭液」が消えた。

「ごめん」

ネビルがまた小さな声で詫びた。



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