The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
キングズ・クロスまで歩いて20分かかった。
その間何事もなく、せいぜいシリウスが、ハリーを楽しませようと猫を2,3匹脅したくらいだった。
駅の中に入ると、みんなで9番線と10番線の間の柵の脇を何気なくうろうろし、安全を確認した。
そして1人ずつ柵に寄り掛かり、らくらく通り抜けて9と3/4番線に出た。
そこにはホグワーツ特急が停車し、煤けた蒸気をプラットホームに吐き出していた。
プラットホームは出発を待つ生徒や家族でいっぱいだった。
ハリーは懐かしい匂いを吸い込み、心が高まるのを感じた……本当に帰るんだ……。
「ほかの人たちも間に合えばいいけど」
ウィーズリーおばさんが、プラットホームに架かる鉄のアーチを振り返り、心配そうに見つめた。そこからみんなが現れるはずだ。
「いい犬だな、ハリー」
縮れっ毛をドレッドヘアにした、背の高い少年が声をかけた。
「ありがとう、リー」
ハリーがにこっとした。
シリウスはちぎれるほど尻尾を振った。
「ああ、よかった」
おばさんがほっとしたように言った。
「アラスターと荷物だわ。ほら……」
不揃いの目に、ポーター帽子を目深に被り、トランクを積んだカートを押しながら、ムーディがコツッコツッとアーチをくぐってやってきた。
「すべてオーケーだ」
ムーディがおばさんとトンクスに呟いた。
「追跡されてはおらんようだ……」
すぐあとから、ロンとハーマイオニーを連れたウィーズリーおじさんがホームに現れた。
ムーディのカートからほとんど荷物を降ろし終えたころ、フレッド、ジョージ、ジニーがルーピンと一緒に現れた。
「異常なしか?」
ムーディが唸った。
「まったくなし」
ルーピンが言った。
「それでも、スタージスのことはダンブルドアに報告しておこう」
ムーディが言った。
「やつはこの1週間で2回もすっぽかした。マンダンガス並みに信用できなくなっている」
「気をつけて」
ルーピンが全員と握手しながら言った。
最後にハリーのところに来て、ルーピンは肩をポンと叩いた。
「君もだ、ハリー、気をつけるんだよ」
「そうだ、目立たぬようにして、目玉を引ん剥いてるんだぞ」
ムーディもハリーと握手した。
「それから、全員、忘れるな――手紙の内容には気をつけろ。迷ったら、書くな」
「みんなに会えて、うれしかったよ。サクヤにもよろしくね」
トンクスが、ハーマイオニーとジニーを抱き締めた。
「またすぐ会えるよ」
警笛が鳴った。
まだホームにいた生徒たちが、急いで汽車に乗り込みはじめた。
「早く、早く」
ウィーズリーおばさんが、慌ててみんなを次々抱き締め、ハリーは二度も捕まった。
「手紙ちょうだい……いい子でね……忘れ物があったら送りますよ……汽車に乗って、さあ、早く……」
ほんの一瞬、大きな黒犬が後ろ脚で立ち上がり、前脚をハリーの両肩に掛けた。
しかし、ウィーズリーおばさんがハリーを汽車のドアのほうに押しやり、怒ったように囁いた。
「まったくもう、シリウス、もっと犬らしく振る舞って!」
「さよなら!」
汽車が動き出し、ハリーは開けた窓から呼びかけた。
ロン、ハーマイオニー、ジニーが、そばで手を振った。
トンクス、ルーピン、ムーディ、ウィーズリーおじさん、おばさんの姿があっという間に小さくなった。
しかし黒犬は尻尾を振り、窓のそばを汽車と一緒に走った。
飛び去っていくホームの人影が、汽車を追いかける犬を笑いながら見ていた。
汽車がカーブを曲がり、シリウスの姿が見えなくなった。
「シリウスは一緒に来るべきじゃなかったわ」
ハーマイオニーが心配そうな声で言った。
「おい、気軽にいこうぜ」
ロンが言った。
「もう何ヵ月も陽の光を見てないんだぞ、かわいそうに」
「さーてと」
フレッドが両手を打ち鳴らした。
「1日中むだ話をしているわけにはいかない。リーと仕事の話があるんだ。またあとでな」
フレッドとジョージは、通路を右へと消えた。
汽車は速度を増し、窓の外を家々が飛ぶように過ぎ去り、立っていると皆ぐらぐら揺れた。
「それじゃ、コンパートメントを探そうか?」
ハリーが言った。
ロンとハーマイオニーが目配せし合った。
「えーと」
ロンが言った。
「私たち――えーと――ロンと私はね、監督生の車両に行くことになってるの」
ハーマイオニーが言いにくそうに言った。
ロンはハリーを見ていない。自分の左手の爪にやけに強い興味を持ったようだ。
「あっ」
ハリーが言った。
「そうか、オーケー」
「ずーっとそこにいなくともいいと思うわ」
ハーマイオニーが急いで言った。
「手紙によると、男女それぞれの首席の生徒から指示を受けて、時々車内の通路をパトロールすればいいんだって」
「オーケー」
ハリーがまた言った。
「えーと、それじゃ、僕――僕、またあとでね」
「うん、必ず」
ロンが心配そうにおずおずとハリーを盗み見ながら言った。
「あっちに行くのはいやなんだ。
僕はむしろ――だけど、僕たちしょうがなくて――だからさ、僕、楽しんではいないんだ。僕、パーシーとは違う」
ロンは反抗するように最後の言葉を言った。
「わかってるよ」
ハリーはそう言ってにっこりした。
しかし、ハーマイオニーとロンが、トランクとクルックシャンクスと籠入りのピッグウィジョンとを引きずって、機関車のほうに消えていくと、ハリーは妙に寂しくなった。
これまで、ホグワーツ特急の旅はいつも彼らと一緒だった。
「行きましょ」
ジニーが話しかけた。
「早く行けば、あの2人の席も取っておけるわ」
「そうだね」
ハリーは片手にヘドウィグの籠を、もう一方の手にトランクの取っ手を持った。
2人はコンパートメントのガラス戸越しに中を覗きながら、通路をゴトゴト歩いた。
どこも満席だった。
興味深げにハリーを見つめ返す生徒が多いことに、ハリーはいやでも気づいた。
何人かは隣の生徒を小突いてハリーを指差した。
こんな態度が5車両も続いたあと、ハリーは「日刊予言者新聞」のことを思い出した。
新聞はこの夏中、読者に対して、ハリーが嘘つきの目立ちたがり屋だと吹聴していた。
自分を見つめたり、ひそひそ話をした生徒たちは、そんな記事を信じたのだろうかと、ハリーは寒々とした気持ちになった。
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