The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




その晩ハリーはうなされた。
両親が夢の中で現れたり消えたりした。ひと言もしゃべらない。
ウィーズリーおばさんがクリーチャーの死体のそばで泣いている。
それを見ているロンとハーマイオニーは王冠を被っていて、その傍らではサクヤが跪いている。
そして、またしてもハリーは廊下を歩き、鍵の掛かった扉で行き止まりになる。
傷痕の刺すような痛みで、ハリーは突然目が覚めた。
ロンはもう服を着て、ハリーに話しかけていた。

「……急げよ。ママがカッカしてるぜ。汽車に遅れるって……」

屋敷の中はてんやわんやだった。
猛スピードで服を着ながら、聞こえてきた物音から察すると、フレッドとジョージが運ぶ手間を省こうとしてトランクに魔法をかけ、階段の下まで飛ばせた結果、トランクがジニーに激突してなぎ倒し、ジニーは踊り場を2つ転がり落ちてホールまで転落したらしい。
ブラック夫人とウィーズリーおばさんが、揃って声をかぎりに叫んでいた。

「――大怪我をさせたかもしれないのよ。このバカ息子――」

「――穢れた雑種ども、わが祖先の館を汚しおって――」


ハーマイオニーが自分の髪を途中まで三つ編みにした格好のまま、慌てふためいて部屋に飛び込んできた。
ハリーがスニーカーを履いているところだった。
ハーマイオニーの肩でヘドウィグが揺れ、足元にはクルックシャンクスを連れていた。

「パパとママがたったいまヘドウィグを返してきたの」

ヘドウィグは物わかりよく飛び上がり、自分の籠の上に止まった。

「仕度できた?」

「だいたいね。ジニーは大丈夫?」

ハリーはぞんざいに眼鏡を掛けながら聞いた。

「ウィーズリーおばさんが応急手当てしたわ」

ハーマイオニーが答えた。

「だけど、今度はマッド-アイが、スタージス・ポドモアが来ないと護衛が1人足りないから出発できないってごねてる」

「護衛?」

ハリーが言った。

「僕たち、キングズ・クロスに護衛つきで行かなきゃならないの?」

あなたが、キングズ・クロスに護衛つきで行くの」

ハーマイオニーが訂正した。

「どうして?」

ハリーはイラついた。

「ヴォルデモートは鳴りを潜めてるはずだ。
それとも、ゴミ箱の陰からでも飛びかかってきて、僕を殺すとでも言うのかい?」

「知らないわ。マッド-アイがそう言ってるだけ」

ハーマイオニーは自分の時計を見ながら上の空で答えた。

「とにかく、すぐ出かけないと、絶対に汽車に遅れるわ……」

「みんな、すぐに下りてきなさい。すぐに!」

ウィーズリーおばさんの大声がした。
ハーマイオニーは火傷でもしたように飛び上がり、部屋から飛び出した。
それでも足取りが心なしか嬉しそうなのは、ようやくサクヤと会えるからなのだろうとハリーは思った。
かくいうハリー自身も、サクヤにやっと会えるのはとても楽しみだった。少なくともこの屋敷にいる誰よりも、自分との境遇が近い。
ハリーはヘドウィグを引っつかんで乱暴に籠に押し込み、トランクを引きずって、ハーマイオニーのあとから階段を下りた。
ブラック夫人の肖像画は怒り狂って吠えていたが、わざわざカーテンを閉めようとする者は誰もいない。
ホールの騒音でどうせまた起こしてしまうからだ。

「――穢れた血!クズども!芥の輩!――」

「ハリー、私とトンクスと一緒に来るのよ」

ギャーギャー喚き続けるブラック夫人の声に負けじと、おばさんが叫んだ。

「トランクとふくろうは置いていきなさい。
アラスターが荷物の面倒を見るわ……ああ、シリウス、何てことを。
ダンブルドアがだめだっておっしゃったでしょう!」

熊のような黒い犬がハリーの脇に現れた。
ハリーが、ホールに散らばったトランクを乗り越え乗り越え、ウィーズリーおばさんのほうに行こうとしていたときだった。

「ああ、まったく……」

ウィーズリーおばさんが絶望的な声で言った。

「それなら、ご自分の責任でそうなさい!」

おばさんは玄関の扉をギーッと開けて外に出た。
9月の弱い陽光の中だった。
ハリーと犬があとに続いた。
扉がパタンと閉まり、ブラック夫人の喚き声がたちまち断ち切られた。

「トンクスは?」

12番地の石段を下りながら、ハリーが見回した。
12番地は、歩道に出たとたん、掻き消すように見えなくなった。

「すぐそこで待ってます」

おばさんはハリーの脇を弾みながら歩いている黒い犬を見ないようにしながら、硬い表情で答えた。

曲がり角で老婆が挨拶した。
くりくりにカールした白髪に、ポークパイの形をした紫の帽子を被っている。

「よっ、ハリー」

老婆がウィンクした。

「急いだほうがいいな、ね、モリー?」

老婆が時計を見ながら言った。

「わかってるわ、わかってるわよ」

おばさんは呻くように言うと、歩幅を大きくした。

「だけど、マッド-アイがスタージスを待つって言うものだから……。
アーサーがまた魔法省の車を借りられたらよかったんだけど……ファッジったら、このごろアーサーには空のインク瓶だって貸してくれやしない……。
マグルは魔法なしでよくもまあ移動するものだわね……」

しかし大きな黒犬は、うれしそうに吼えながら、3人の周りを跳ね回り、鳩に噛みつくまねをしたり、自分の尻尾を追いかけたりしていた。
ハリーは思わず笑った。
シリウスはそれだけ長い間屋敷に閉じ込められていたのだ。
ウィーズリーおばさんは、ペチュニア叔母さん並みに、唇をぎゅっと結んでいた。



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