The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




何かが夜を変えた。
星を散りばめた群青色の空が、突然光を奪われ、真っ暗闇になった――星が、月が、路地の両端の道にある街灯のぼーっとした明かりが消え去った。
遠くに聞こえる車の音も、木々の囁きも途絶えた。
とろりとした宵が、突然、突き刺すように、身を切るように冷たくなった。
2人は、逃げ場のない静まり返った暗闇に、完全に取り囲まれた。
まるで巨大な手が、分厚い冷たいマントを落として路地全体を覆い、2人に目隠しをしたかのようだった。

一瞬、ハリーは、そんなつもりもなく、必死で我慢していたのに、魔法を使ってしまったのかと思った。
やがて理性が感覚に追いついた――自分には星を消す力はない。
ハリーは何か見えるものはないかと、あっちこっちに首を回した。
しかし、暗闇はまるで無重力のベールのようにハリーの目を塞いでいた。

恐怖に駆られたダドリーの声が、ハリーの耳に飛び込んできた。

「な、なにをするつもりだ?や、やめろ!」

「僕はなにもしていないぞ!黙っていろ。動くな!」

「み、見えない!
ぼく、め、目が見えなくなった!ぼく――」

「黙ってろって言ったろう!」

ハリーは見えない目を左右に走らせながら、身じろぎもせずに立っていた。
激しい冷気で、ハリーは体中が震えていた。
腕には鳥肌が立ち、首の後ろの髪が逆立ったハリーは開けられるだけ大きく目を開け、周囲に目を凝らしたが何も見えない。

そんなことは不可能だ……あいつらがまさかここに……リトル・ウィンジングにいるはずがない……。
ハリーは耳をそばだてた……あいつらなら、目に見えるより先に音が聞こえるはずだ……。

「パパに、い、言いつけてやる!」

ダドリーがヒーヒー言った。

「ど、どこにいるんだ?な、なにをして――?」

「黙っててくれないか?」

ハリーは歯を食いしばったまま囁いた。

「聞こうとしてるんだから――」

ハリーは突然沈黙した。
まさにハリーが恐れていた音を聞いたのだ。

路地には2人のほかに何かがいた。
その何かが、ガラガラと嗄れた音を立てて、長々と息を吸い込んでいた。
ハリーは恐怖に打ちのめされ、凍りつくような外気に震えながら立ち尽くした。

「や、やめろ!こんなことやめろ!殴るぞ!本気だ!」

「ダドリー、だま――」

ボッカーン。
拳がハリーの側頭に命中し、ハリーは吹っ飛んだ。目から白い火花が散った。
頭が真っ二つになったかと思ったのは、この1時間のうちにこれで二度目だ。
次の瞬間、ハリーは地面に打ちつけられ、杖が手から飛び出した。

「ダドリーの大バカ!」

ハリーは痛みで目を潤ませながら、慌てて追いつくばり、暗闇の中を必死で手探りした。
ダドリーがまごまご走り回り、路地の壁にぶつかってよろける音が聞こえた。

ダドリー、戻るんだ。あいつのほうに向かって走ってるぞ!

ギャーッと恐ろしい叫び声がして、ダドリーの足音が止まった。
同時に、ハリーは背後にぞくっとする冷気を感じた。
間違いない。相手は複数いる。

ダドリー、口を閉じろ!何が起こっても、口を開けるな!杖は!」

ハリーは死に物狂いで呟きながら、両手を蜘蛛のように地面に這わせた。

「どこだ――杖は――出てこい――『ルーモス!光よ!』」

杖を探すのに必死で明かりを求め、ハリーは独りでに呪文を唱えていた。
――すると、なんともとうれしいことに、右手のすぐそばがぼーっと明るくなった。杖先に灯りが点ったのだ。
ハリーは杖を引っつかみ、慌てて立ち上がり振り向いた。

胃が引っくり返った。

フードを被った聳え立つような影が、地上に少し浮かび、スルスルとハリーに向かってくる。
足も顔もローブに隠れた姿が、夜を吸い込みながら近づいてくる。
よろけながら後退りし、ハリーは杖を上げた。

守護霊よ来たれ!エクスペクト・パトローナム!

銀色の気体が杖先から飛び出し、吸魂鬼の動きが鈍った。
しかし、呪文はきちんとかからなかった。
ハリーは覆い被さってくる吸魂鬼から逃れ、もつれる足でさらに後退りした。
恐怖で頭がぼんやりしている――集中しろ――。

ヌルッとした瘡蓋だらけの灰色の手が2本、吸魂鬼のローブの中から滑り出て、ハリーのほうに伸びてきた。
ハリーはガンガン耳鳴りがした。

「エクスペクト・パトローナム!」

自分の声がぼんやりと遠くに聞こえた。
最初のより弱々しい銀色の煙が杖から漂った――もうこれ以上できない。呪文が効かない。

ハリーの頭の中で高笑いが聞こえた。
鋭い、甲高い笑い声だ……吸魂鬼の腐った、死人のように冷たい息がハリーの肺を満たし、溺れさせた。
――考えろ……何か幸せなことを……。

しかし、幸せなことは何もない……吸魂鬼の氷のような指が、ハリーの喉元に迫った――甲高い笑い声はますます大きくなる。頭の中で声が聞こえた。

「死にお辞儀するのだ、ハリー……痛みもないかもしれぬ……俺様にはわかるはずもないが……死んだことがないからな……」

もう二度とサクヤやロン、ハーマイオニーに会えない――。
息をつこうともがくハリーの心に、3人の顔がくっきりと浮かび上がった。

エクスペクト・パトローナム!

ハリーの杖先から巨大な銀色の牡鹿が噴出した。
その角が、吸魂鬼の心臓にあたるはずの場所をとらえた。
吸魂鬼は、重さのない暗闇のように後ろに投げ飛ばされた。
牡鹿が突進すると、敗北した吸魂鬼はコウモリのようにすーっと飛び去った。

こっちへ!

ハリーは牡鹿に向かって叫んだ。
同時にさっと向きを変え、ハリーは杖先の灯りを掲げて、全力で路地を走った。

10歩と走らずに、ハリーはその場所に辿り着いた。
ダドリーは地面に丸くなって転がり、両腕でしっかり顔を覆っていた。
2体目の吸魂鬼がダドリーの上に屈み込み、ヌルリとした両手でダドリーの手首を掴み、ゆっくりと、まるで愛しむように両腕をこじ開け、フードを被った顔をダドリーの顔のほうに下げて、まさにキスしようとしていた。

やっつけろ!

ハリーが大声をあげた。
するとハリーの創り出した銀色の牡鹿は、怒涛のごとくハリーの脇を駆け抜けていった。
吸魂鬼の目のない顔が、ダドリーの顔すれすれに近づいた。
そのとき、銀色の角が吸魂鬼をとらえ、空中に放り投げた。
吸魂鬼はもう1体の仲間と同じように、宙に飛び上がり、暗闇に吸い込まれていった。
牡鹿は並足になって路地の向こう端まで駆け抜け、銀色の靄となって消えた。

月も、星も、街灯も急に生き返った。
生温い夜風が路地を吹き抜けた。
周囲の庭の木々がざわめき、マグノリア・クレセント通りを走る車の世俗的な音が、再びあたりを満たした。

ハリーはじっと立っていた。
突然正常に戻ったことを身体中の感覚が感じ取り、躍動していた。
ふと気がつくと、Tシャツが体に張りついていた。ハリーは汗びっしょりだった。
いましがた起こったことが、ハリーには信じられなかった。

吸魂鬼がここに、リトル・ウィンジングに。

ダドリーはヒンヒン泣き、震えながら身体を丸めて地面に転がっていた。
ハリーは、ダドリーが立ち上がれる状態かどうかを見ようと身を屈めた。
すると、そのとき、背後に誰かが走ってくる大きな足音がした。
反射的に再び杖をかまえ、くるりと振り返り、ハリーは新たな相手に立ち向かおうとした。

近所に住む変人のフィッグばあさんが、息をせき切って姿を現した。
灰色まだらの髪はヘアネットからはみ出し、手首にかけた買い物袋はカタカタ音を立てて揺れ、タータンチェックの室内用スリッパは半分脱げかけていた。
ハリーは急いで杖を隠そうとした。ところが――。

「バカ、そいつをしまうんじゃない!」

ばあさんが叫んだ。

「まだほかにもそのへんに残ってたらどうするんだね?
ああ、マンダンガス・フレッチャーのやつ、あたしゃ殺してやる!



>>To be continued

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