The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
どうしてあんなにショックを受けたのか、ハリーは自分でもわからなかった。
考えてみれば、両親の写真は前にも見たことがあるし、ワームテールにだって会ったことがある……しかし、まったく予期していないときに、あんなふうに突然目の前に両親の姿を突きつけられるなんて……誰だってそんなのはいやだ。ハリーは腹が立った……。
それに、両親を囲む楽しそうな顔、顔、顔……欠けらしか見つからなかったベンジー・フェンウィック、英雄として死んだギデオン・プルウェット、気が狂うまで拷問されたロングボトム夫妻……サクヤの両親以外の親族を初めて見たな……。
みんな幸せそうに写真から手を振っている。永久に振り続ける。待ち受ける暗い運命も知らず……まあ、ムーディにとっては興味のあることかもしれない……ハリーにはやりきれない思いだった……。
ハリーは足音を忍ばせてホールから階段を上がり、剥製にされたしもべ妖精の首の前を通り、やっと独りきりになれたことをうれしく思った。
ところが、最初の踊り場に近づいたとき、物音が聞こえた。誰かが客間で啜り泣いている。
「誰?」
ハリーは声をかけた。
答えはなかった。啜り泣きだけが続いていた。
ハリーは残りの階段を2段飛びで上がり、踊り場を横切って客間の扉を開けた。
暗い壁際に誰かが蹲っている。
杖を手にして、身体中を震わせて啜り泣いている。
埃っぽい古い絨毯の上の切り取ったような月明かりの中で、ロンが大の字に倒れていた。死んでいる。
ハリーは、肺の空気が全部抜けたような気がした。
床を突き抜けて下に落ちていくような気がした。
頭の中が氷のように冷たくなった――ロンが死んだ。嘘だ。そんなことが――。
待てよ、
そんなことはありえない――ロンは下の階にいる――。
「ウィーズリーおばさん?」
ハリーは声が嗄れた。
「リ――リ――リディクラス!」
おばさんが、泣きながら震える杖先をロンの死体に向けた。
パチン。ロンの死体がビルに変わった。仰向けに大の字になり、虚ろな目を見開いている。
ウィーズリーおばさんは、ますます激しく啜り泣いた。
「リ――リディクラス!」
おばさんはまた啜り上げた。
パチン。ビルがウィーズリーおじさんの死体に変わった。
眼鏡がずれ、顔からすーっと血が流れた。
「やめてーっ!」
おばさんが呻いた。
「やめて……リディクラス!リディクラス!リディクラス!」
パチン、双子の死体。
パチン、パーシーの死体。
パチン、ハリーの死体……。
「おばさん、ここから出て!」
絨毯に横たわる自分の死体を見下ろしながら、ハリーが叫んだ。
「誰かほかの人に――」
「どうした?」
ルーピンが客間に駆け上がってきた。
すぐあとからシリウス、その後ろにムーディがコツッコツッと続いた。
ルーピンはウィーズリーおばさんから、転がっているハリーの死体へと目を移し、すぐに理解したようだった。
杖を取り出し、ルーピンが力強く、はっきりと唱えた。
「リディクラス!」
ハリーの死体が消えた。
死体が横たわっていたあたりに、銀白色の球が漂った。
ルーピンがもう一度杖を振ると、球は煙となって消えた。
「ああ――ああ――あぁ……!」
ウィーズリーおばさんは嗚咽を漏らし、堪えきれずに両手に顔を埋めて激しく泣きだした。
「モリー」
ルーピンがおばさんに近寄り、沈んだ声で言った。
「モリー、そんなに……」
次の瞬間、おばさんはルーピンの肩に縋り、胸も張り裂けんばかりに泣きじゃくった。
「モリー、ただのまね妖怪だよ」
ルーピンがおばさんの頭をやさしく撫でながら慰めた。
「ただのくだらないまね妖怪だ……」
「私、いつも、みんながし――し――死ぬのが見えるの!」
おばさんはルーピンの肩で呻いた。
「い――い――いつもなの!ゆ――夢に見るの……」
シリウスは、まね妖怪がハリーの死体になって横たわっていたあたりの絨毯を見つめていた。
ムーディはハリーを見ていた。
ハリーは目を逸らした。ムーディの魔法の目が、ハリーを厨房からずっと追いかけていたような奇妙な感じがした。
「アーサーには、い――い――言わないで」
おばさんは嗚咽しながら、袖口で必死に両目を拭った。
「私、アーサーにし――し――知られたくないの……バカなこと考えてるなんて……」
ルーピンがおばさんにハンカチを渡すと、おばさんはチーンと鼻水をかんだ。
「ハリー、ごめんなさい。私に失望したでしょうね?」
おばさんが声を震わせた。
「たかがまね妖怪1匹も片づけられないなんて……」
「そんなこと」
ハリーはにっこりしてみせようとした。
「私、ほんとにし――し――心配で」
おばさんの目からまた涙が溢れ出した。
「家族のは――は――半分が騎士団にいる。
全員が無事だったら、き――き――奇跡だわ……それにパ――パ――パーシーは口もきいてくれない……何か、お――恐ろしいことが起こって、二度とあの子とな――な――仲直りできなかったら?
それに、もし私もアーサーも殺されたらどうなるの?ロンやジニーはだ――だ――誰が面倒を見るの?」
「モリー、もうやめなさい」
ルーピンがきっぱりと言った。
「前の時とは違う。
騎士団は前より準備が整っている。最初の動きが早かった。
ヴォルデモートが何をしようとしているか、知っている――」
ウィーズリーおばさんはその名を聞くと怯えて小さく悲鳴をあげた。
「あぁ、モリー、もういい加減この名前に馴れてもいいころじゃないか――いいかい、誰も怪我をしないと保証することは、私にはできない。誰にもできない。
しかし、前の時より状況はずっといい。あなたは前回、騎士団にいなかったから、わからないだろうが。
前の時は20対1で『死喰い人』の数が上回っていた。
そして、1人また1人とやられたんだ……」
ハリーはまた写真のことを思い出した。両親のにっこりした顔を。
ムーディがまだ自分を見つめていることに気づいていた。
「パーシーのことは心配するな」
シリウスが唐突に言った。
「そのうち気づく。ヴォルデモートの動きが明るみに出るのも、時間の問題だ。
いったんそうなれば、魔法省全員が我々に許しを請う。
ただし、やつらの謝罪を受け入れるかどうか、私にははっきり言えないがね」
シリウスが苦々しくつけ加えた。
「それに、あなたやアーサーに、もしものことがあったら、ロンとジニーの面倒を誰が見るかだが」
ルーピンがちょっと微笑みながら言った。
「私たちがどうすると思う?路頭に迷わせるとでも?
ザンカン夫妻を失ったサクヤが、路頭に迷ったかい?」
ウィーズリーおばさんがおずおずと微笑んだ。
「私、バカなことを考えて」
おばさんは涙を拭いながら同じことを呟いた。
しかし、10分ほど経って自分の寝室のドアを閉めたとき、ハリーにはおばさんがバカなことを考えているとは思えなかった。
ボロボロの古い写真からにっこり笑いかけていた両親の顔がまだ目に焼きついている。
周囲の多くの仲間と同じく、自分たちにも死が迫っていることに、あの2人も気づいていなかった。
まね妖怪が次々に死体にして見せたウィーズリーおばさんの家族が、ハリーの目にちらついた。
何の前触れもなく、額の傷痕がまたしても焼けるように痛んだ。胃袋が激しくのたうった。
「やめろ」
傷痕を揉みながら、ハリーはきっぱりと言った。
痛みは徐々に退いていった。
「自分の頭に話しかけるのは、気が触れる最初の兆候だ」
壁の絵のない絵から、陰険な声が聞こえた。
ハリーは無視した。
これまでの人生で、こんなに一気に歳を取ったように感じたことはなかった。
ほんの1時間前、悪戯専門店のことや、誰が監督生バッジをもらったかを気にしたことなどが、遠い昔のことに思えた。
>>To be continued
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