The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「さて、そろそろ乾杯しようか」
みんなが飲み物を取ったところで、ウィーズリーおじさんが言った。
おじさんはゴブレットを掲げて言った。
「新しいグリフィンドール監督生、ロンとハーマイオニーに」
ロンとハーマイオニーがにっこりした。
みんなが2人のために杯を上げ、拍手した。
「わたしは監督生になったことなかったな」
みんなが食べ物を取りにテーブルのほうに動きだしたとき、ハリーの背後でトンクスの明るい声がした。
今日の髪は、真っ赤なトマト色で、腰まで届く長さだ。ジニーのお姉さんのように見えた。
「寮監がね、わたしには何か必要な資質が欠けてるって言ったわ」
「どんな?」
焼きジャガイモを選びながら、ジニーが聞いた。
「お行儀よくする能力とか」
トンクスが言った。
ジニーが笑った。ハーマイオニーは微笑むべきかどうか迷ったあげく、妥協策にバタービールをガブリと飲み、咽せた。
「あなたはどう?シリウス?」
ハーマイオニーの背中を叩きながら、ジニーが聞いた。
脇にいたシリウスが、いつものように吼えるような笑い方をした。
「誰もわたしを監督生にするはずがない。ジェームズと一緒に罰則ばかり受けていたからね。
ルーピンはいい子だったからバッジをもらった」
「ダンブルドアは、私が親友たちをおとなしくさせられるかもしれないと、希望的に考えたのだろうな。
言うまでもなく、私は見事に失敗したがね」
ルーピンが言った。
ハリーは急に気分が晴れ晴れした。父さんも監督生じゃなかったんだ。
急に、パーティーが楽しく感じられた。
この部屋にいる全員が2倍も好きになって、ハリーは自分の皿を山盛りにした。
ロンは聞いてくれる人なら誰彼おかまいなしに、口を極めて新品の自慢をしていた。
「……10秒でゼロから120kmに加速だ。悪くないだろ?
コメット290なんか、ゼロからせいぜい100kmだもんな。しかも追い風でだぜ。
『賢い箒の選び方』にそう書いてあった」
ハーマイオニーはしもべ妖精の権利について、ルーピンに自分の意見をとうとうと述べていた。
「だって、これは狼人間の差別とおんなじようにナンセンスでしょう?
自分たちがほかの生物より優れているなんていう、魔法使いのバカな考え方に端を発してるんだわ……」
ウィーズリーおばさんとビルは、いつもの髪型論争をしていた。
「……ほんとに手に負えなくなってるわ。あなたはとってもハンサムなのよ。
短い髪のほうがずっと素敵にみえるわ。そうでしょう、ハリー?」
「あ――僕、わかんない――」
急に意見を聞かれて、ハリーはちょっと面食らった。
ハリーは2人のそばをそっと離れ、隅っこでマンダンガスと密談しているフレッドとジョージのほうに歩いていった。
マンダンガスはハリーの姿を見ると、口を閉じたが、フレッドがウィンクして、ハリーにそばに来いと招いた。
「大丈夫さ」
フレッドがマンダンガスに言った。
「ハリーは信用できる。俺たちのスポンサーだ」
「見ろよ、ダングが持って来てくれたやつ」
ジョージがハリーに手を突き出した。
萎びた黒い豆の鞘のようなものを手に一杯に持っていた。
完全に静止しているのに、中から微かにガラガラという音が聞こえる。
「『有毒食虫蔓』の種だ」
ジョージが言った。
「『ずる休みスナックボックス』に必要なんだ。
だけど、これはC級取引禁止品で、手に入れるのにちょっと問題があってね」
「じゃ、全部で10ガリオンだね、ダング?」
フレッドが言った。
「俺がこンだけ苦労して手に入れたンにか?」
マンダンガスが弛んで血走った目を見開いた。
「お気の毒さまーだ。20ガリオンから、びた1クヌートもまけらンねえ」
「ダングは冗談が好きでね」
フレッドがハリーに言った。
「まったくだ。
これまでの一番は、ナールの針のペン1袋で6シックルさ」
ジョージが言った。
「気をつけたほうがいいよ」
ハリーがこっそり注意した。
「なんだ?」
フレッドが言った。
「お袋は監督生ロンにおやさしくするので手一杯さ。俺たちゃ、大丈夫だ」
「だけど、ムーディがこっちに目をつけてるかもしれないよ」
ハリーが指摘した。
マンダンガスがおどおどと振り返った。
「ちげえねえ。そいつぁ」
マンダンガスが唸った。
「よーし、兄弟。10でいい。いますぐ引き取っちくれンなら」
マンダンガスはポケットを引っくり返し、双子が差し出した手に中身を空け、せかせかと食べ物のほうに行った。
「ありがとさん、ハリー!」
フレッドがうれしそうに言った。
「こいつは上に持っていったほうがいいな……」
ハリーは双子が上に行くのを見ながら、少し後ろめたい思いが胸を過ぎった。
ウィーズリーおばさんは、どうしたって最終的には双子の「悪戯専門店」のことを知ってしまう。
そのとき、フレッドとジョージがどうやって資金をやり繰りしたのかを知ろうとするだろう。
あのときは三校対抗試合の賞金を双子に提供するサクヤの提案が、とても単純なことに思えた。
しかし、もしそれがまた家族の争いを引き起こすことになったら?パーシーのような仲違いになったら?サクヤはきちんとそこまで考えただろうか?
フレッドとジョージに手を貸し、おばさんがふさわしくないと思っている仕事を始めさせる手伝いをしたのがハリーだとわかったら、それでもおばさんは、ハリーのことを我が子同然と思ってくれるだろうか?
双子が立ち去ったあと、ハリーはそこに独りぼっちで立っていた。
胃の腑に伸しかかった罪悪感の重みだけが、ハリーにつき合っていた。
ふと、自分の名前が耳に入った。キングズリー・シャックルボルトの深い声が、周囲のおしゃべり声をくぐり抜けて聞こえてきた。
「……ダンブルドアはなぜポッターとフェリックスを監督生にしなかったのかね?」
キングズリーが聞いた。
「あの人にはあの人の考えがあるはずだ」
ルーピンが答えた。
「しかし、そうすることで、ポッターたちへの信頼を示せたろうに。私ならそうしただろうね」
キングズリーが言い張った。
「とくに、『日刊予言者新聞』が3日と置かずポッターやフェリックスをやり玉に挙げているんだし……」
ハリーは振り向かなかった。
ルーピンとキングズリーに、ハリーが聞いてしまったことを悟られたくなかった。
僕に対してはともかく、ダンブルドアはサクヤに対して十分に信頼を示せてるはずなのにな、とハリーは心の中で呟いた。
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